映画制作にもっと関わっていきたい
――その後はより活動の幅を広げて、初めて監督&主演を務めた『せん(SEN)』(2024)が、ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2024でジョージ・ルーカス アワードを受賞するなど、制作サイドでも活躍されていますね。森崎:自分はエンターテインメントが好きなので、それに関わること、歌、芝居、監督などエンタメに通じるものであれば、やりたいことをやっていこうと思っています。どこに軸足を置くかも考えていない……というか、それを決めるのはまだ早すぎると思っているので。ジャンル問わず、心が動けばどんどん飛び込んでいきたいです。
――今後、監督に再びチャレンジしようという気持ちは?
森崎:やっていきたいとは思っているのですが、「この脚本を映画化してほしい」と依頼されて演出するのではなく、自分が撮りたいと思えるテーマが生まれたら、そのときは監督として作品を作りたいと思っています。あと目標として、俳優として作品に参加しながら、プロデューサーとしても作品に関わっていくことを考えています。
スタッフの方が、0から1を作り出し、俳優はでき上がった脚本をもらって演じていますが、僕は俳優として出演しつつ、0から1が生まれる制作にも関わりたいんです。海外では俳優がプロデューサーとして作品に関わる例はたくさんありますし、制作会社を持っている俳優もいますから。
――確かに海外では俳優の制作会社による映画は結構あります。
森崎:日本でも賀来賢人さんが制作会社を立ち上げましたし、そういう流れが来ているんじゃないかと感じています。僕は、俳優として作品の象徴になるのではなく、映画制作の中の俳優部というスタンスでいたいんです。だから俳優目線で、映画制作の現場に対して作品をより良くするために協力をしたい。俳優も一つの作品に関わるスタッフですから、そうやって深く関わっていきたいと思っています。 ――俳優としてお芝居の面白さはどこにありますか?
森崎:疑似体験のような感じで、いろいろな経験させてもらえるところです。役を通して、その役の呼吸を感じられたり、自分の知らなかった社会問題に向き合えたり、自分ならどうするだろうと考えたり……。僕の人生観を広げてくれるのが俳優の仕事だと思っています。
ジャッキー・チェンが大好きだった少年時代
――森崎さんは劇場で映画を見ますか? ミャンマー時代の映画体験などはありますか?森崎:ミャンマーは映画産業が盛んな国だったんです。金曜、土曜、日曜日はみんな映画を見に行っていました。ミャンマーの芸能界が盛り上がっていた時代は、俳優はCMに出演するより、映画に出演するほうがギャラが良かったくらいです。
僕も子どもの頃、よくおばあちゃんと行っていましたね。Thamada Cinemaという映画館がお気に入りでした。ミャンマーはコメディー映画が人気なので、よく見ていました。ラブストーリーはあまり見せてもらえませんでしたね(笑)。
――好きなスターはいましたか?
森崎:ジャッキー・チェンですね。アクションと笑いがあり、子どもが見ても分かりやすい映画なので、ジャッキーの映画はよく見ました。ジェット・リーも好きだったな。カッコよかったですね。 ――今でも劇場で映画を見ますか?
森崎:時間があるときは劇場で見たいのですが、最近は時間がなくてサブスク配信で見ることが増えました。シリアスな内容の映画は気力がないと精神的に疲れてしまうので、やっぱりアクションなど、スカッとして、カメラワークなども楽しめる作品を選ぶことが多いです。
――劇場で映画を見るとき、好きな座席はありますか?
森崎:僕は劇場の少し後方です。スクリーンで俳優さんがアップになったとき、その目線と同じ高さの位置にある座席が好きですね。 ――では最後に、映画『まる』について、森崎さんから映画ファンにメッセージをお願いします。
森崎:人生でちょっと迷いを感じたり、生きづらいと思ったりしたときに映画『まる』を見たら、もしかしたら答えが見つかるかもしれません。登場人物もみんな生き方に悩んでいるので感じるものがあるのではないかと思います。
あと荻上監督の言葉をお借りすると「あえて16mmフィルムで撮影しているので、劇場のスクリーンで見ないともったいないです!」。とにかく映像が美しい映画でもあるので、ビジュアルにも期待して見てください。
森崎ウィン(もりさき・うぃん)さんのプロフィール
1990年8月20日生まれ。ミャンマー出身。小学4年生の時に来日して、中学2年生でスカウトされて芸能界へ。2018年にスティーヴン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』で主要キャストに抜てきされてハリウッド映画デビュー。2020年『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近作は『嘘喰い』(2022)『おしょりん』(2023)『身代わり忠臣蔵』(2024)など。2024年、監督・出演をした短編映画『せん(SEN)』がショートショート フィルムフェスティバル&アジア2024のグランプリに値するジョージ・ルーカス アワードを受賞。『まる』2024年10月18日公開
美大卒だけれど芸術で身を立てられず、人気の現代美術家のアシスタントをしている沢田(堂本剛)は、事故でけがをして職を失ってしまう。そんなとき、自室の床にアリが1匹いるのを見て、導かれるように「まる」を描いてみたら、いつの間にかその「まる」がSNSで拡散され、正体不明のアーティストとして沢田は時の人になるのだが……。監督・脚本:荻上直子
出演:堂本剛、綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィン、戸塚純貴、おいでやす小田、濱田マリ、柄本明、早乙女太一、片桐はいり、吉田鋼太郎、小林聡美
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撮影・取材・文:斎藤香
ヘアメイク:KEIKO(Sublimation)
スタイリスト:森田晃嘉