しかし、2022年3月以前には年金額について、在職中に年金額を改定する制度がなく、仮に、65歳以降も働いていた場合であっても、年金の受給額に反映されるのでは、70歳に到達するか、あるいは退職するまで待つしかありませんでした。そのタイムラグを解消する制度として、2022年4月から「在職定時改定」制度が創設されたといっていいでしょう。
「在職定時改定」制度とは
毎年、基準日(9月1日)に厚生年金保険に加入中の65歳以上70歳未満の老齢厚生年金の受給権者は、65歳で老齢年金の受給権発生後も70歳まで厚生年金保険に加入することができます。そして、前年9月から当年8月までの厚生年金保険加入期間を反映して、年金額が毎年10月分(12月受取分)から改定される。つまり、受け取る年金額が増加する、これが「在職定時改定」です。
なお、9月1日前に被保険者の資格を喪失して、そこから9月1日をまたぎ、ひと月が経過する前に被保険者の資格を取得したときは、基準日の9月1日において被保険者ではありませんが、在職定時改定として年金額の再計算が行われます。たとえば、何らかの理由により8月28日資格喪失したけれど、9月3日に再就職して資格取得をした場合には、在職定時改定として年金額の再計算が行われるということです。
年金額はいくら増加するのか
では、「在職定時改定」の適用により、いくらくらい年金が増加するのでしょうか。日本年金機構の資料によると、65歳まで給与月額20万円で厚生年金保険に加入していた方が、65歳以降、70歳まで引き続き給与月額20万円で厚生年金保険に加入した場合の例を紹介しています。この図表によると、上記の条件の方の場合、1年間の在職で、1年ごとに約1.3万円、年額ベースで増額することとされています。
なお、ここでいう「給与月額20万円」という意味合いですが、正しくは「65歳までの平均標準報酬月額および平均標準報酬額が20万円の方」ということです。
- 平均標準報酬月額とは、平成15年3月以前の加入期間について、計算の基礎となる各月の標準報酬月額の総額を平成15年3月以前の加入期間で割って得た額
- 平均標準報酬額とは、平成15年4月以降の加入期間について、計算の基礎となる各月の標準報酬月額と標準賞与額の総額を、平成15年4月以降の加入期間で割って得た額
「65歳時点の月額給与が20万円で、引き続き20万円で継続雇用される」ということではありませんので注意してください。
退職時にはさらに上乗せされる「退職時改定」
退職時改定とは、厚生年金保険に加入している70歳未満の老齢厚生年金の受給権者が退職し、かつ、厚生年金保険に加入することなくひと月を経過したときに、退職した翌月分から年金額を改定する仕組みです。また、厚生年金保険に加入している70歳未満の老齢厚生年金の受給権者が70歳に到達したときは、70歳に到達した翌月分から年金額が改定されます。いずれにしても高齢化社会の加速により、高年齢者雇用安定法の施行などの影響で、企業にとっては70歳までの継続雇用が努力義務とされました。
年金制度においても、このような制度改正を行うことにより、高齢者の雇用継続を推進させるような仕組みに変わりつつある、ということではないでしょうか。