スペイン人による征服以前の西欧文化の影響がない時代から使用されてきた食材や食習慣に、ヨーロッパ、アジア、中東など外来の食文化が融合したメキシコ料理は、2010年には、ユネスコの無形文化遺産に登録されるほど唯一無二! そんなディープなメキシコの料理の中で、ハレの日の”ごちそう”や、やる気が起きないときに手間暇かけずに食べられる“限界メシ”を紹介します。
ごちそうの代表格1:モレを使った料理
鶏肉のモレと死者の日の家庭の祭壇
結婚式や女性の15歳のお祝い(15歳から一人前の女性として扱われるという祝事。アメリカのスイート・シックスティーンのように派手に祝い、結婚式よりも重要な行事とされています)、日本のお盆のような”死者の日”など家族が集まる行事に必ず登場するのが、「モレ」と呼ばれるソースを使った肉料理(鶏肉が多いです)。
メキシコの多くの地域で食べられる家庭料理の代表格で、数種類のチレ(とうがらし)、ナッツ、油脂、ハーブ、スパイス、とろみづけの粉もの(トルティーヤ、パン、クラッカーなど)にチョコレートを加えたものが普及していますが、各家庭によって材料や作り方は異なります。「モレ」はソースという意味なのでチョコレートを加えないものもありますが、加えてあるものは、チョコレートの苦みやほんのりとした甘さ、アクセントとなるチレの辛味が複雑で奥深いです。現地のレストランでも食べられます。
ごちそうの代表格2:チレス・エン・ノガダ
メキシコ独立記念日に食べるチレス・エン・ノガダ
9月16日の「メキシコ独立記念日」に欠かせない高級料理が、チレス・エン・ノガダ(Chiles en Nogada)。あまり辛味のない大きなピーマンのような、チレ・ポブラーノの中に、ひき肉、ナッツ、ドライフルーツなどを混ぜて調理した具を詰め、くるみとクリームのソースをかけ、仕上げにザクロの粒とパセリを散らします。チレとパセリの緑、ソースの白、ザクロの赤が、メキシコの国旗の色を象徴しています。フルーツとナッツの品の良い甘さがクセになる料理です。
ヘトヘトで限界なときに効くメキシコの「ビタミンT」とは?
メキシコの3大軽食であるタコス(Tacos)、トルタ(Torta)、タマレス(Tamales)は、疲れて何もやる気がしないときに、屋台や食堂でぱっと食べられる「限界メシ」の代表格でもあります。現地の人たちの間では、その頭文字の「T」を取って、「ビタミンT」と冗談まじりに言われるほど! まさに元気の源なのです。
日本でもおなじみの「タコス」
ケバブにルーツを持つ豚肉のタコス・アル・パストール
トルティーヤに調理した肉などの具をのせて、香草、タマネギのみじん切り、トマトを使ったサルサをかけて、グリーンレモンをギュッと絞り、ぺろっと食べられるタコス。実は、たんぱく質も炭水化物も野菜も手軽に摂れるバランス食ではないでしょうか? とは言え、食べ過ぎには注意です。
メキシコ版ホットサンドイッチの「トルタ」
ハム、ソーセージ、チーズ、カツ、卵など、トルタの具を全部のっけたトルタ・クバーナ
フランスパン生地の丸いパンにフリホーレス(煮豆ペースト)、マヨネーズをたっぷり塗って、チキンやビーフのカツレツ、ソーセージ、ハムのようなメインの具と、アボカド、トマト、玉ねぎ、チレのマリネやピクルスなどを挟んだもので、一個でお腹いっぱいに。熱々をいただけば、疲れも吹っ飛びます。
メキシコ版ちまきのような「タマレス」
ボリュームたっぷりのタマレス
時間のない朝や、夕食を食べ損なったときに食べたくなるのがタマレス。マサ(とうもろこし粉の生地)をラードなどの油で練り、その中に肉をモレやサルサで和えた具を入れたものを、とうもろこしの葉かバナナの葉で巻いて蒸した料理で、レストランでも提供されていますが、路上のスタンドや、リヤカーでも販売されているものを購入するのが一般的。優しい味ですが、かなりのボリュームがあり、腹持ちします。
お腹を壊して“限界”なときに食べるスープ
お腹の救世主、コンソメ・デ・ポジョ
メキシコでは、食中毒になった際に、「モクテスマ(アステカ帝国最期の皇帝で、征服者であるスペイン人たちに殺害された)の呪い」にかかったという言い回しがあるほど、お腹を壊すことは日常茶飯事です(苦笑)。体調が復活し、胃に優しいものを食したいときにおすすめなのが、コンソメ・デ・ポジョ(Consome de Pollo=チキンコンソメスープ)です。熱々の鶏だしスープにはお米が入っていて、あっさりとした「おじや」のような感じ。そこに、刻んだ玉ねぎや香草を散らし、グリーンレモンをギュッと絞っていただきます。どんなレストランにもあるメニューなので、「呪い」にかかった際には、ぜひお試しください!