工作・自由研究

ChatGPT作成の読書感想文が先生にバレる理由、違和感の正体とは?生成AIで失う子どもの学びの危うさ

夏休みの宿題に取り組む前に、ネットリテラシーについてぜひ再確認してみましょう。話題の生成AIについても、親子で試すことにより長い目で見た子どもの成長にとって本当に必要なことに気づく機会になるはずです。

高橋 真生

執筆者:高橋 真生

子育て・教育ガイド

自由研究や読書感想文に必要なネットリテラシーを再確認

ネットリテラシーと夏休みの課題

子どもがインターネットに触れる機会の増える夏休みは、ネットのルールを再確認するチャンス! 生成AIもまずは親子で使ってみてください

「ChatGPT(以下チャットGPT)」をはじめ、文章・画像・音楽などを自動的に作り出す「生成AI(人工知能)」が、社会に急速に広まっています。

現時点では、間違いの多さ、誤った情報の拡散、個人情報・著作権の侵害といったリスクが懸念されていますが、興味のあるお子さんも多いはず。

夏休みの宿題に取り組む前に、生成AIを含むネットリテラシーについてぜひ親子で再確認してみてください。宿題に自力で取り組むことが、子どもにどうプラスに働くのかも見えてくるはずです。
 

文科省や各種コンクールにおける生成AI対策

2023年7月、文部科学省はチャットGPTのような生成AIの使い方について「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました(*1)。

このガイドラインでは、生成AIを使いこなすための⼒を意識的に育てていく姿勢は重要であるとした上で、そのリスクについて触れています。そして、教育現場における活⽤にあたっては、児童⽣徒の発達の段階を⼗分に考慮する必要があると記しています。

また、子どもたちが学校以外で生成AIを使う可能性を考慮し、「ファクトチェック」(正しい情報かを確かめること)の習慣づけなどの能力を育てる必要があると指摘しました。

コンクールの作品やレポートなど長期休業中の課題についても、留意点として、⽣成AIによる⽣成物をそのまま⾃⼰の成果物として応募・提出することは、評価基準や応募規約によっては不適切、または不正な⾏為に当たることなどが挙げられています。
生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン

「長期休業中の課題等について(文章作成に関わるもの)」
出典:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」

2023年6月、東京都教育委員会も都立学校に、児童・生徒が宿題で生成AIの回答を写して提出しないよう注意を促す通知を出しました。多くの大学でも、生成AIを利用する際のルールを設けたり、生成AIについて学ぶ情報リテラシー教育を行ったりと対応を進めています。

さらに、青少年読書感想文全国コンクールの応募要項には、「盗作や不適切な引用等があった場合、審査対象外になることがあります」という規定が追加されるなど(*2)、各種コンクールでAIの使用を禁止する動きがあります。
 

家庭で生成AIをどう扱うか? 必要なのは大人の適切な関わり

チャットGPTをはじめよく知られる生成AIは、対象年齢18歳以上(保護者の同意があれば13歳以上)というものが多く、小学生はほぼ対象外です。

けれども、例えばチャットGPTを活用したキッズAI博士「AIウィー子ちゃん」(*3)などは、登録不要で自由に使えます(12歳以下は必ず保護者と一緒に使うよう、注意書きがあります)。

こういったものを子どもはすぐに見つけますし、生成AIはいずれ欠かせないツールとなるでしょうから、親子で一度は使ってみるとよいでしょう。

その際、ネットリテラシーについても、ぜひご説明ください。

ネットリテラシーの中でも、特に宿題と関係のあるのは、
  • 情報・情報源の正確性を確認する(一次情報にあたる)
  • 著作権を尊重する(引用のルールを守る、二次利用はしない)
  • 個人情報を適切に扱う
  • 不用意なダウンロードはしない
  • 時間を守って使う
など。子どもをインターネットトラブルから守るためにも、使う機会が増える新年度や夏休みというタイミングで、ルールとマナーを再確認することをおすすめします。

総務省の「インターネットトラブル事例集(2022年版)」は、グループトーク、オンラインゲーム、Wi-Fiスポットの利用などについての用語解説や、トラブルを予防・回避するポイントなどが示されています。実際にあったトラブルが元になっているため、わかりやすく解説されていますが、量が多いのでまずは必要な部分だけ読んでもよいでしょう(*4)。
「著作権法改正で見直したい身近な使い方」(インターネットトラブル事例集・2022年版)

「著作権法改正で見直したい身近な使い方」(インターネットトラブル事例集・2022年版)

生成AIについては、自治体や学校で発行している注意事項なども参考にしてみてください。所沢市の小・中学生向け「生成系AI と上手に付き合うために」(*5)は、シンプルにまとまっています。

特に、インターネット上の情報を「引用」という形式を用いずにコピペ(コピーアンドペースト:コピーして貼り付けること)してしまうことは、「著作権の侵害」にあたるため、うっかりやってしまわぬよう親子で確認したいものです。

また、生成AIの回答は自分がAIというツールを利用して作った、という感覚があるかもしれませんが、既存の著作物との類似性および依拠性が認められ、コピペなど適切でない使い方をした場合は、やはり著作権侵害となる可能性があります。

※コピペについての詳細はこれらの記事をご覧ください。

使ってみるとわかる、生成AIにできること・できないこと

お子さんにインターネットを使うときのルールについてひと通り説明をしたら、次は実践です。生成AIでできること・できないことを体感してみましょう(どの生成AIでもかまいません。少し試してみる程度なら、先ほどご紹介した「AIウィー子ちゃん」が気軽に使えます)。

まず試していただきたいのが、読書感想文。特に国語の授業で習った作品は、感想文の妥当性がわかりやすいためおすすめです。

こちらは、チャットGPTが作った『ごんぎつね』の感想ですが、本来のお話と全く内容が異なります。
チャットGPTによる『桃太郎』の感想

チャットGPTによる『ごんぎつね』の感想

もちろん、自分が感想を書き終えた後、生成AIの回答と比較してより理解を深めることは、授業で他の子どもの感想や意見を聞くことにより、読み取りの幅が広がるのと同じような効果があるともいえます。
チャットGPTによる『桃太郎』の感想

「昔話・桃太郎の感想を教えて」というシンプルな質問に対してのチャットGPTの回答。おばあさんも鬼ヶ島に行ってしまっていますね!

ただ、教科書に掲載されている作品から、読書感想文コンクールの課題図書、人気の作品まで筆者がいろいろ試してみたところ、生成された読書感想文のレベルは今ひとつだと感じました。本の内容についての誤りが多く、回答の中身も平板という印象です。深く細かく条件を入力すると、それなりのレベルにはなりますが、時間がかなりかかってしまいます。 チャットGPTが返してくれるのは一般論や常識的な回答ですから、「わたし」が主体である読書感想文とは、相性はあまりよくないのかもしれません。

自由研究の場合は、アイディア出しや形式・流れの確認、推敲に活用できます。ただ、出典が曖昧で、内容そのものも不備が多いので、こちらも注意して見てください。自分がよく知っていること、身近な何かについて調べてみると、わかりやすいでしょう。
 

「正解」を与えてもらうのに“慣れてしまう”ことにも学びへの危うさが

質問すると瞬時に答えを返してくれるチャットGPTや、貼り付ければすぐにレポートができてしまうインターネット上の情報のコピペ……どちらも確かに楽なのですが、子どもにとってそれがよいとは限りません。

子どもはまだ成長の途中であり、“答えを出すまでのプロセス”もとても大切です。しかし、そのプロセスなしに回答を得ようすることは、子どもの学びの機会を失うことでもあるからです。

たとえば、読書感想文を書く場合は、一冊の本に真剣に向き合い、「なぜ?」「自分なら」という問いを掘り下げる過程があります。そこで、あまり表に出てこない自分の気持ちや考えが言語化され、感情を整えたり客観的に自分を見たりすることができるようになります。読むことだけでなく書くことが、心の成長を促すのです。

また、自由研究は、本やインターネットの情報通りに研究を進めても、上手くいかないことが多いもの。しかし、失敗した原因を考えて、条件を変えてやり直すという試行錯誤で、思考力や実行力が育まれるものです。そこで本・雑誌・新聞・インターネットなど多様なメディアを利用すれば、それぞれの特性を学ぶこともできます。

さらに、本来はずっと考え続けてよい、“正解がなくてよい問い”の「正解」を教えられてしまうこと、それに子どもが慣れてしまうことにも、危うさを感じます。
 

生成AI作成の宿題に覚える“違和感”……子どもの作品に感じる個性の欠如

読書感想文や自由研究は、書き手、作り手である子どもたち一人ひとりの声をじっくり聞けたり感性を知れたりする機会であり、提出された教員にはそれを見る喜びがあります。

よく知っている子どもたちの、おそらく本人も意識していないであろう言葉や表現の癖、文章や作品からあふれ出てくる個性には、たとえコンクールの受賞作のように洗練されていなくても、いくら読んでも飽きない魅力があります。その点において、生成AIもコピペも代行も、決してその子が主体の「わたし」にはなれません。これには教員だって読んだときに違和感を覚えるのではないでしょうか。

また、子どもが仕上げた作品は、教員にとっての貴重な情報源でもあります。児童・生徒たちがどんなことを考え、感じているかということだけでなく、得意・不得意もわかります。それらを踏まえて授業を計画したり、個々に新たな学びにつなげる声かけをしたりもするのです。

生成AIに書かせたりネットの情報をそのままコピペしたりしたものを自分の作品として提出するということには、著作権を侵害する、周りの信用を失うという可能性があるだけでなく、力を伸ばすチャンスを逃しているのだということも、知っておきたいですね。
 

「使わない」という選択肢を持てるのも、ネットリテラシーがあるから

チャットGPTにできること・できないことを聞いたときのまとめの回答

チャットGPTにできること・できないことを聞いたときのまとめの回答。チャットGPT自ら、「過度の依存は要注意」「情報の確認や判断力の養成を忘れずに」と教えてくれています

現段階では、生成AIは幼い頃から触れていないと使いこなせるようにならない、という類のものではないように思います。大きくなってからでも興味を持って集中的に取り組めば、支障なく扱えるようになるのではないでしょうか。

それよりも、子どものうちはたくさんのものと出会って、興味のあることにとことん向き合い、次から次へと湧いてくる謎をどんどん調べていくこと。経験と知識がつながれば理解はより深まりますから、生活体験を積んで身体を使うことを大事にするべきではないかと思います。

そうするうちに、生成AIの答えやインターネット上の情報の真偽を判断する基礎的な知識や文章力、総合的に考える力は自然と養えるはずです。

使うタイミングを見極めるのも、どう使うかを考えるのも、ネットリテラシーのうち。上手に利用していきましょう。

【参考】
*1:初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン(文部科学省)
*2:青少年読書感想文全国コンクールの応募要項(全国学校図書館協議会/毎日新聞社)
*3:キッズAI博士「AIウィー子ちゃん」(キッズウィークエンド株式会社)
*4:インターネットトラブル事例集(2022年版)(総務省)
*5:生成系 AI と上手に付き合うために(埼玉県所沢市ホームページ)
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