依子は監督が全く共感できないキャラクター
――依子の夫の修は、突然出ていった身勝手な夫なのに、彼女は突然帰宅した彼を家に入れるので驚いたのですが、監督だったら入れますか?荻上監督:私だったら絶対に入れないですね。だから依子は私にとって共感できないキャラクターなんです。
私も「なぜ依子は勝手に出ていった夫をまた家に入れたのか」と、すごく考えました。私には理解できない行動なので。でも依子は昭和世代の主婦で、家族に尽くし、世話をすることが当たり前の時代に生きてきた人なんです。 そういう風に家に縛られた主婦は現実に存在しますし、依子の夫のような人がいるのも事実です。この映画のスタッフの女性から「東日本大震災のあと、一家の主人が出ていって、女手ひとつで家庭を支えていたら、数年後、夫が病気になったと言って帰ってきたという知人がいます」という話を聞いた時は、本当に驚きました。
昭和世代の専業主婦は、家族に縛られている人が多いと思います。だから、勝手に出ていって音信不通だった夫でも、帰ってきたら「仕方がない」と家に入れちゃう。あと依子の場合、宗教的にも人に優しくしないといけないし、あの家は夫名義という考えもあって、追い出せなかったのでしょうね。
演出に自信がないから演技派の俳優をキャスティング
――荻上監督の映画作りについてもお伺いします。監督の映画はいつもキャスティングが絶妙で、とにかく芝居が上手い人しか出演していないので安心して見ていられます。キャスティングはどういう考えで行なっていますか?荻上監督:演出に自信がないので、芝居が上手い人でないと私の映画は成立しないんです。
――演出に自信がないというのが意外です……!
荻上監督:本当に自信がないんですよ。演技について、俳優さんにうまく説明ができないんです。だから絶対に上手な俳優さんじゃないとダメなんです。
じゃあ、なんで監督ができているかというと、自分が脚本を書いているオリジナル作品だからです。私から生まれた物語であり、キャラクターであるから、一番脚本を理解しているのは私なのです。それがあるから私は監督として映画作りをしていられるんです。
――じゃあ、他の方が書いた脚本を映画化することは?
荻上監督:無理ですね、できないと思います。
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