早期退職には2種類ある
早期退職制度には二種類あります。一つは、業績に関係なく、従業員の世代間の人員バランスの均衡や定年前に転職や独立を考える従業員の支援などを目的として、人数を限定することなく随時募集する「早期退職優遇制度」。これは選択定年制ともいいます。これらは退職制度の一つとして常設されており、自己都合退職扱い(会社によっては定年退職扱い)です。勤続年数の要件や退職一時金の優遇などがあります。もう一つは、経営再建や事業の再構築・構造改革のために、期間と人数を限定して退職者を募集し、早期退職してもらう制度で、一般に「早期希望退職制度」「希望退職制度」と言われます。
この場合、整理解雇を回避するために実施されるので、多くの場合、退職金の割り増し加算や再就職の斡旋があります。次に説明する「基本手当」(失業等給付)を受け取る際には、「特定受給資格者」あるいは「特定理由離職者」扱いとなり、自己都合で退職するよりも給付日数や給付金額が優遇されることになります。
知っておきたい!離職理由と基本手当の給付内容の関係
早期退職を考える上では、早期退職後に受給することができる雇用保険の「基本手当」(失業等給付)についても把握しておきましょう。「基本手当」を受け取れる期間や金額は、年齢や被保険者期間、離職理由などによって異なります。「45歳以上60歳未満、被保険者期間20年以上」の場合は下記の通りです(令和4年8月1日現在)。
先に説明した「早期希望退職制度」「希望退職制度」で退職した特定受給資格者・特定理由離職者は、以下のように給付日数などが優遇されることになります。
●離職理由区分/給付日数/給付金額(上限額)/待期期間後の給付制限
- 自己都合退職者/150日/8355円/2カ月(一定の要件あり)
- 定年退職者/150日/8355円/なし
- 特定受給資格者・特定理由離職者/330日/8355円/なし
*「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」はこちら
割り増し退職金は1~2年
早期退職優遇制度は人事制度の一つなので、優遇措置などは就業規則に明記されています。中央労働委員会の「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査」(*)によると、選択定年制(早期退職優遇制度)を導入している企業は166社中84社で、うち62社が「勤続年数の要件」や「制度適用開始年齢」を設けています。退職金は「定年退職と同等に扱う」「年齢に応じた加算」「退職年金の優遇措置」などの優遇措置があります。(*)「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査」 はこちら
一方、早期希望退職は、募集ごとに優遇内容が異なります。1回の募集で目標人数に達しない場合や経営環境の悪化などから募集を複数回行うこともあり、回を重ねるごとに優遇内容は悪くなる傾向があります。応募するか否かの重要ポイント「退職金」は、企業業績や経営状況、募集理由、対象者の年齢など諸条件で異なるので一概にはいえませんが、大企業の場合「退職金+給与12~24カ月分程度」が多いようです。
あなたしかできない「売り」や「人的ネットワーク」が大事な時代に
業務の急激なIT化やAI化が進む昨今、仕事自体の消滅や生産拠点の見直しによって、働き続けることができなくなることもあるでしょう。個人レベルでは仕事の遂行に必要なスキルが不足している、など「就業」を続けることができるのか?という不安もでてくるでしょう。今後働き続けることができるのか、不透明感はますます濃くなっています。
2022年に「早期・希望退職募集」を開示した上場企業は38社、うち22社は直近の本決算で黒字でした(東京商工リサーチ)。黒字であっても40歳代以上を対象に早期希望退職を募り新陳代謝を進める企業は今後も増加するでしょう。
*東京商工リサーチ「2022年早期・希望退職募集」の情報はこちら
「早期退職」が頭をよぎるとき、少なくとも次の3点について家族と一緒に熟考することをお勧めします。
- 割り増し加算でもらえる退職金で、退職後の数年間の収入ダウンを賄えるか
- 現在の会社の将来性
- 転職市場での自分の「売り」があるか
見落としがちなコミュニケーション能力や交渉力、人的ネットワークを強化して、自己研鑽に努めましょう。同時に、退職により数年間は無収入になることを想定して、シンプルな生活と堅実な家計管理で貯蓄額を増やし、家計の耐久力を高めることも必要となります。