繰り上げ受給すると1カ月ごとに0.4%減額される
老齢年金は原則65歳が受給開始年齢ですが、60歳から65歳になるまでの間、1カ月単位で繰り上げ受給することができます。その場合、1962年(昭和37年)4月2日以降に生まれた人は1カ月繰り上げるごとに0.4%減額、同年4月1日以前に生まれた人は1カ月ごとに0.5%減額されます。例えば、減額率0.4%で5年繰り上げると、24%(=0.4%×12カ月×5年)が一生涯カットされるわけです。減額率0.5%では30%(=0.5%×12カ月×5年)です。いったん繰り上げ受給を申請すると取り消すことはできません。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰り上げになる
老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できる人が、老齢基礎年金を繰り上げ請求する時には、原則として老齢厚生年金(共済も含む)とセットで同時に行うことになります。老齢厚生年金にも同じ減額率が適用されます。ただし「特別支給の老齢厚生年金」を受給する人の繰り上げ請求には、別のルールがあります。複雑ですので、年金事務所や専門家の説明を受けることをお勧めします。
「特別支給の老齢厚生年の繰り上げ請求」について詳しくは
⇒「日本年金機構」年金の繰上げ受給
繰り上げ受給の損益分岐年齢は「受給開始年齢+20年10カ月」
繰り上げ受給で最も気になることは、俗にいう損益分岐年齢(=65歳受給開始で受け取る合計額が繰り上げ受給のそれに追いつく年齢)でしょう。繰り上げ受給の損益分岐年齢は、減額率0.4%の場合「受給開始年齢+20年10カ月」(例:受給開始年齢60歳の損益分岐年齢は80歳10カ月)、減額率0.5%の場合「受給開始年齢+16年8カ月」(例:受給開始年齢60歳の損益分岐年齢は76歳8カ月)です。令和3年簡易生命表によると、60歳の平均余命(*)は、男性24.02(推定寿命84歳)、女性29.28(推定寿命90歳)です。年金を繰上げして60歳で受給開始するとして、平均余命まで生きると仮定して考えてみましょう。損益分岐年齢は80歳10カ月ですから、84歳まで生きる男性は約3年、90歳まで生きる女性は約9年も超えてしまいます。繰上げによって年金が生涯にわたり、減額されてしまうと家計へのダメージは大きいといえます。
*平均余命:年齢ごとに算出した「あと何年生きられるか」という期待値
繰り上げ受給のダメージは年金の減額だけではありません。詳しく見ていきましょう。
繰り上げ受給でなくす権利は大きい!
繰り上げ受給を選択すると、年金の減額だけでなく次の権利を失います。- 障害基礎年金を受けることができない
- 寡婦年金(*)の受給権を失う
- 配偶者が死亡した時、65歳になるまでには遺族厚生(共済)年金と併給できない
これらの権利は、本人が障害状態になる、配偶者が死亡するなど家族環境が急変した時に、効果を発揮します。ある意味その後の生活の支えになるものです。それを失権するわけですから、大きなダメージを受けることになります。
繰り上げ受給の「損・得」の判断は難しい
将来的に年金給付の水準が低くなっていくのは明らかですが、とはいえ年金が老後の収入の柱の一つであることに変わりありません。年金の制度は、ますます複雑になっています。繰り上げ受給の損益分岐点の年齢予測も、雇用や経済状態、出生率、死亡率、労働者人口などさまざまな不確実要因の影響を受けます。
つまり繰り上げ受給は、損・得をベースにするのではなく、金融資産や退職金、企業年金、自分の健康状態、健康寿命(*)、税制、社会保障制度などを基にキャッシュフロー表を作成して、判断するといいのではないでしょうか。そうすれば損をしても後悔することはないでしょう。
*健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間。2019年の日本人の健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳
厚生労働省・第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料より
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf