さらにここに来て、昨年来の円安状況とウクライナ情勢による物資不足、さらにコロナ禍生活の脱却による需要の回復で、物価上昇が止まらない状況にあり、給与引き上げの動きが慌ただしくなっています。
給与の引き上げに関しては、よくよくその内容を見てみると「基本給を引き上げる」としている企業、「インフレ手当」等の特別手当名目で月々の給与に一定金額を上乗せ支給している企業、同じ「インフレ手当」でもあくまで一時金として支給している企業など、支給額の引き上げの対応方法にはいくつかの違いが見えてもいます。これらの違いは、どのような経営の考え方によるものなのか考えてみましょう。
平均給与アップは「人材確保」が狙い
まず「基本給を引き上げる」あるいは「初任給を引き上げる」などと、平均給与のかさ上げ策を講じている企業の多くは、先陣を切ったユニクロ・柳井正社長の「優主な人材の確保をするため」(※1)の言葉からも分かるように、景気回復による人手不足の中での“人材確保”を念頭に置いた給与引き上げであるといえるでしょう。基本給なり初任給なりを引き上げることは、すなわち支払い給与総額が増えることにつながるわけで、確実なコストアップ要因になるわけなのです。それでも給与引き上げ策を敢行するのは、アップした平均給与や初任給が公表されることで、求職者に対する企業イメージ向上に確実につながるからなのです。
万が一の場合、手当なら廃止できる
一方、「インフレ手当」などの名目で月々給与に一定金額を上乗せした企業は、基本的には基本給や初任給を引き上げた企業とコスト負担面での結果は同じなのですが、物価高騰へ配慮しているという点で、社員の生活に寄り添う企業という観点でのイメージ向上を望んでいる様子がうかがわれます。その意味ではこの方法は、人材流失防止の観点から“企業内部”への訴求により重きを置いているといえるでしょう。また、このやり方のメリットとしては、この先万が一業績が不振になった折などに、「物価が落ち着いた」との理由で手当を廃止することが可能である点が挙げられます。
あくまで“一時金”とする経営上のメリット
この「インフレ手当」を“一時金”として支給している企業は、同じ従業員の定着率向上を主眼とした策であるとしても、企業経営上のメリットも考慮した選択だといえます。一時金であれば「非常事態対応」という含みを持たせることにもなり、基本は一過性のコスト負担で済ませられます。またコロナ禍を乗り越え業績が上向いた今、増益による税負担を一時金の経費で軽減することにもなり、まさに一石二鳥ということでもあるのです。さらにもうひとつ、基本給引き上げや月額手当支給の方法だと発生する「別のコスト要因」を回避できるという観点からも、一時金方式は企業側にメリットがあります。
それは、月額給与の上乗せ方式で対応した場合は、給与の増加分が残業単価を計算する際のベース給与に参入されるため、手当とは別のコスト負担になるのです。これも毎月の負担となりますので、この点は一時金対応を選択する大きな理由のひとつになっているでしょう。
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