というのも、介護離職をすると「安定した収入が途絶えることで、生涯で得られるはずの収入が減る」「介護離職によりブランクができると再就職が難しい」「厚生年金から外れてしまうと、将来受け取るはずの年金が減る」などのデメリットがあります。そこで今回は、精神的、経済的な負担が減らせる介護にまつわる制度をまとめます。
親に介護が必要になったら「介護休暇」と「介護休業」を使い分けよう
介護の負担を軽減するための制度の代表的なものは、介護休暇と介護休業です。それぞれの概要を説明します。●1日単位、時間単位で取得できる「介護休暇」
要介護状態にある親の通院に付き添う必要があるとき、親の介護のことでケアマネジャーなどとの打合せが必要なときなど、細々とした介護の用事がある場合は、1日単位または時間単位で取得できる介護休暇を利用しましょう。
介護休暇は、対象家族が1人であれば、年5日まで取得することができます。介護休暇を取った場合、基本的に無給となりますが、会社によっては有給になることもあります。詳細は就業規則などで確認するとよいでしょう。日々雇用者以外のすべての労働者が該当します。
出典:介護休暇について|介護休業制度|厚生労働省
●通算93日まで取得可能な「介護休業」
親の要介護レベルが上がり、日常生活のほぼすべてに付き添いが必要になれば、老人介護施設に預けることを検討するでしょう。しかし、希望の施設が満室ということも多く、しばらく待つことになるかもしれません。その間の自宅での介護には、介護休業が取得できます。
介護休業は、対象家族1人あたり3回まで、通算93日間休業できます。介護休業では、雇用保険の被保険者で一定の要件を満たす人に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。
対象になるのは、日々雇用以外のすべての労働者。ただし、パートやアルバイトは、介護休業を申し出する時点で、93日間の介護休業を取得した後、6カ月の経過後も引き続き雇用される必要があります。取得についての詳細は、会社の人事課にお問い合わせください。 出典:介護休業について|介護休業制度|厚生労働省
介護費や医療費の負担、一定額以上になったら払い戻してもらおう
生命保険文化センターの「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によれば、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は月平均8万3000円と高額で、その介護期間の平均は61.1カ月と長期に及びます。介護費に含まれる医療費、介護費は、所得区分ごとに一定以上になったとき、それ以上を支払った場合、市町村に申請すれば払い戻してもらえる制度が3つあります。この「高額介護サービス費制度」「高額療養費制度」「高額医療・高額介護合算療養費制度」について、順番に紹介します。
●介護にかかるお金が一定以上なら「高額介護サービス費制度」を利用
1カ月間(月の初めから終わりまで)で負担する介護費用が大きい場合は「高額介護サービス費制度」が利用できるかもしれません。高額介護サービス費制度は、所得区分ごとに自己負担限度額が定められており、それ以上の費用を負担した場合、払い戻してもらえます。所得区分は画像の通りになっています。 出典:所得区別自己負担上限額(月額)|厚生労働省
●医療にかかるお金が一定以上なら「高額療養費制度」を利用
「高額療養費制度」は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が、1カ月(月の初めから終わりまで)で、限度額を超えた場合、その超えた分を払い戻してもらう制度です。自己負担する医療費の上限は、年齢や収入により異なります。また、医療費には、入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません。70歳以上の方の上限額一覧は画像の通りです。 さらに過去12カ月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、上限額がさらに下がります。 出典:高額療養費制度を利用される皆さまへ|厚生労働省保険局
●「高額医療・高額介護合算療養費制度」でさらに負担を軽減
高額療養費制度や高額介護サービス費制度を利用し、1カ月ごとの負担を軽減しても、長期にわたるとやっぱり負担は大きいもの。そんなときは、「高額医療・高額介護合算療養費制度」を利用しましょう。
高額医療・高額介護合算療養費制度は、高額療養費制度や高額介護サービス費制度を利用したうえで、1年間(8月1日~翌年7月31日)にかかった医療費、介護費の自己負担額の合計が限度を超えたとき、その超えた分を払い戻してもらう制度です。この場合も、自己負担する医療費、介護費の上限は、年齢や所得によって異なります。高額医療・高額介護合算療養費制度の算定基準額(限度額)は画像の通りです。 出典:介護保険制度の見直しについて|厚生労働省
自宅を介護用にリフォームしたときは補助金を申請しよう
自宅で親を介護するときは、自宅を介護者に適した環境にリフォームした方が、介助する側の子どもも何かと便利です。しかし、前述の生命保険文化センターの調査によれば、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計は平均74万円。「介護費や医療費にお金がかかるけど、リフォームもしておいた方が何かと便利」と思うのであれば、介護保険の住宅改修費の助成制度を利用してみてはどうでしょう。リフォームにかかった費用の7~9割、金額にして最大18万円の補助金が支給されます。
補助金の申請先はお住まいの市区町村窓口ですが、その前にケアマネジャー等に相談しましょう。
出典:
・2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査|公益財団法人 生命保険文化センター
・介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?|リスクに備えるための生活設計|ひと目でわかる生活設計情報|公益財団法人 生命保険文化センター
・厚生労働省「介護保険における住宅改修」