老後の幸せとは? 活動理論と離脱理論で考えてみよう
誰にでも訪れる老後。バリバリ働くか、のんびりリタイアか、どちらの生き方が幸せなのでしょう?
日本は2010年から超高齢社会に突入し、2030年には国民のおおよそ3人に1人が65歳以上の高齢者となるといわれています。こうしたなか、高齢者としての自分をどう生きるか、あるいは高齢の親の幸せをどのように考えればいいのか、思いをはせる方も増えているものと思います。
健康でエネルギーにあふれるうちには、「生涯現役」の意気込みで頑張っていくのもよいでしょう。高齢者心理学には「活動理論」というセオリーがあります。社会と関わりアクティブに活動する人ほど幸福感が高いという調査結果などをもとに、引退を考えずに積極的に活動していくのが幸せだと考えるのが、この「活動理論」です。
とはいえ、現実には年齢を重ねるとともに体の無理がきかなくなり、若いころのようには頑張れなくなると感じるのも自然なこと。そこで、高齢者心理学には「離脱理論」というセオリーもあります。現役引退をネガティブにとらえず、ダウンサイジングしてのんびりと余生を送ることこそ幸せだと考えるのが、この「離脱理論」です。
アクティブシニア、あるがままシニア……どちらもすてきな生き方です
「活動理論」にもとづく“アクティブシニア”も、「離脱理論」にもとづく“あるがままシニア”も、どちらにもそれぞれに魅力があります。「いつまでも挑戦しつづけたい、ずっと現役でいたい!」と思うなら、活動理論をもとに精力的に活動していくのもよいでしょう。ロールモデルとしては、90代の現役プロスキーヤー・三浦雄一郎さんほか、年齢を感じさせない70代のミュージシャンの矢沢永吉さん、さだまさしさん、小田和正さんなどがいます。若いころと同じように、むしろさらにアグレッシブに現役生活を続けているアクティブシニアたちの姿には、とても刺激を受けますし、近年はこのようなアクティブな老後を推奨する風潮も強くなっているように思います。
一方、「残る人生、自分の時間を大切にして余生をゆるやかに楽しみたい」と思うなら、離脱理論をもとにのんびりとした人生を考えてみるのもいいでしょう。ロールモデルとしては85歳で芸能活動を引退した加山雄三さん。76歳で同じく芸能活動を引退した吉田拓郎さん。政界引退後、陶芸家や茶人として活動する細川護熙さん。講演活動を行いつつ、仏像制作や仏教の研究活動を楽しんでいる俳優・滝田栄さんのように、若いころとは異なる等身大のシニアライフを満喫する人もいます。老いを受け入れ、泰然自若として生きる姿はとてもかっこいいと思います。
価値観の押しつけは禁物!「年齢に負けないで」「年甲斐もなく」はNGワード
気をつけたいのは、老いていく自分や親の人生を考えるうえで、「活動理論」と「離脱理論」のいずれかを押しつけてしまわないこと、ではないでしょうか。年齢を理由にして手を抜くことを許さず、体調や心情を無視して活動理論を押しつけていないか、ときに振り返ることも大切でしょう。「生涯現役で頑張っているお年寄りはたくさんいる」「なまけたら一気に老け込んでしまうよ」などという言葉で、自分自身、あるいは親に頑張ることばかりを強要していないか、振り返ってみましょう。
離脱理論についても同様です。心のどこかに「老いること・健康を失うこと=若い世代に迷惑をかけること」という思いがあると、「老後の幸せ=離脱理論」というアタマでとらえがちです。そのため、「いつまでも現役にこだわるのは見苦しい」「自分の年齢を考えて引き際を考えるべき」などという言葉で、自分自身、あるいは親に社会からの引退を強要していないかどうか、時折振り返ってみましょう。
生き方に迷うのはあたりまえ! 老いるのは楽しみながら生きることです
人の生き方は人それぞれです。「若いころと同様に、若いころよりどん欲に挑戦していきたい」と考える人もいれば、「走るペースより、歩くペースで日々の生活を楽しみたい」「若いころとは違う生き方を楽しんでみたい」と考える人もいます。どちらが正解でどちらが間違いということはないのです。「こう生きていこう」と決意した思いも永遠ではなく、月日がたてばまた違う思いが浮かび、移り変わっていくものです。年齢を重ねるごとに、あるいは体の状態や生活の変化、家庭の事情が影響して、一度確信した思いが変わることもあるでしょう。だれもが「高齢になる自分」をはじめて体験するのですから、「この生き方でいいのだ」と完全に確信できている人などいないはず。あとになって「これでいいのか」「ああすればよかったかもしれない」などと迷ったり後悔したりすることもあるかもしれません。でもそうした迷いや後悔は、高齢者であっても若い人であっても同じことなのではないでしょうか。
若い人たちが「若者はこう生きていきなさい」と言われると抵抗を感じるように、高齢者が「年をとったらかくあるべし」を押しつけられると違和感をおぼえるものです。老いていくと「世間や子どもの迷惑にならないようにしなければ」と自分の気持ちを押さえてしまうことが多いものですが、一度しかない人生、もっと自分に正直になってもいいのではないか、自分らしい生き方を追求していいのではないか、と願っているものと思います。
超高齢社会に生きる私たちには、晩年の生き方を柔軟に考える機会がこれまで以上に必要になるでしょう。そして、3人に1人が65歳以上となる時代の中、高齢者の人生の選択肢はもっともっと多様であるべきだと思います。老いは若さや元気を失うことではなく、年を重ねるごとに人生の楽しみを増やしていけること。そんな思いを持ちながら、年齢を重ねることを楽しんでいきたいものですね。