将棋

将棋史に刻まれる対戦に! 藤井聡太王将vs羽生善治九段、タイトル戦で初対局【第72期王将戦】

羽生善治九段を迎え撃つ、藤井聡太王将。プロ棋士という天才集団の中でも異次元に位置する2人の第72期王将戦は格別の戦いだ。「王将戦」という舞台と2人の関わりを解説する(写真:日刊スポーツ/アフロ)

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド

将棋史に刻まれる! 藤井聡太と羽生善治のタイトル戦「初対局」

将棋界の新年は「王将戦」で明ける。2023年の初日の出は、1月8日の朝、その地は東海の名城・掛川城(静岡県)だ。見逃してはならぬ、王将・藤井聡太vs挑戦者・羽生善治という、極上の日の出である。
(写真:日刊スポーツ/アフロ)

第71期王将就位式での藤井聡太王将(写真:日刊スポーツ/アフロ)

以前、プロ棋士という天才集団の中でなお突出する2人について書いたが、今回はこの「王将戦」という舞台そのものから解説したい。
<目次>

王将戦は「マラソン」

王将戦は7番勝負、先に4勝を挙げた者がタイトル獲得となるシステムだ。第1戦の静岡を皮切りに、大阪、石川、2月に入っては東京、島根、そして3月の佐賀、栃木と、かように全国各地で開催される。ただし、結果が確定すればその時点で終了になってしまう。1局の持ち時間は各8時間、2日間にわたっての対局である。

参考までに、藤井が保持する5つのタイトルのひとつ「棋聖」戦は、5番勝負、持ち時間各4時間の1日制だ。陸上競技に例えれば、王将戦はマラソンであり、短距離走の棋聖戦と異なり、いわゆる瞬発力ではなく、ペース配分が重きを占める戦いだ。スタート位置(最初に動かす駒は何か?)、給水所の栄養ドリンク(食事やおやつは何を選ぶのか?)、折り返し地点(1日目終了時の封じ手はどちらになるのか?)と興味はつきない。
 
また、この王将戦は2人にとって大きなターニングポイントとなった歴史がある。
 

羽生善治九段と「王将戦」

今回の王将戦にタイトル通算100期をかけて挑む羽生。時計の針を1995年に戻してみよう。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いの羽生は24歳で六冠。史上初の全冠(七冠)制覇をかけて、谷川浩司王将に挑戦した。しかし、阪神・淡路大震災で被災した谷川はフルセットの末、タイトルを死守。これが、羽生にとってタイトル挑戦での初敗北となった。

羽生はこの敗北から多くを学び、この年のタイトル戦をすべて勝利、翌1996年、六冠のまま、谷川との王将戦に臨む。なんと羽生は初戦から4連勝し、前人未到の七冠独占を果たす。高熱をおしての大偉業だった。ちなみにこの1カ月後に、当時のトップアイドル女優・畠田理恵と結婚する。世紀のカップル誕生だ。王将戦は羽生のプライベートにとっても、大きなタイトル戦となった。
 

藤井聡太五冠と「王将戦」

藤井の師匠は杉本昌隆八段である。勝負の世界では師匠に勝つことを「恩返し」と呼ぶが、藤井のそれは2018年の王将戦の予選だった。大注目の師弟対決は、なんと「千日手」という決着のつかぬ展開で、いったん終了となるも、その後の再勝負で藤井が勝利。藤井、わずか15才にしての恩返しとなった。

一方、杉本は師弟対決での「千日手」という大きな体験を弟子への置き土産にした。2022年の広瀬章人八段との第35期竜王戦7番勝負、第6局感想戦での「千日手」指摘は記憶に新しい。

恩返し後の藤井はさらに脅威の成長を遂げ、なんと10代(19歳6カ月)にして五冠を獲得、最年少記録を塗り替える偉業を成し遂げた。これが当時、名人位をも持つ渡辺明王将とのタイトル戦であった。七冠達成時の羽生同様に、初戦から4連勝での王将位獲得だった。藤井はそれまでの最年少記録22才10カ月を大幅に更新し、棋界をどよめかせた。破られた記録の保持者は羽生だった。
 

過去のデータでは測れぬ戦い

藤井王将と羽生九段、今回の王将戦がタイトル戦での初対決である。これまでの公式戦は、藤井の7勝1敗、圧倒的に優勢である。だが、ここまで述べたように王将戦は持久戦である。冬からの長丁場を考えれば、精神の維持だけでなく、体調管理も大きく影響する。心技体の全面闘争だ。これまでの対戦成績では予測できぬ戦いとなるに違いない。
 
筆者が、観る将のみなさんにも注目してもらいたいポイントは、ずばり藤井の「桂馬」と羽生の「銀将」だ。先に動き出すのはどちらか、じっと待機を選ぶのか。この2種類の駒の活躍によって、勝負が決まると見ている。
 

王将戦ならではの番外編

ちなみに、王将戦には番外のお楽しみがある。勝者罰ゲーム(筆者には「ごほうび」に思えるが)と呼ばれる記念撮影だ。これは30年以上続く恒例行事で、対局地にちなんだコスプレ姿が翌日のスポーツニッポン紙を飾るのである。

藤井の圧巻は昨年(2022年)の大阪の食い倒れ人形。羽生は安木名物のどじょうすくい(2016年)だ。神々しささえ漂う対局姿から、バンジージャンプさながらの落差。これも王将戦ならではのもの。第1局が終わったあとの「初日の入」もお楽しみに。 
 
※段位、タイトル数は2022年12月末時点
※プロ棋士の活動は公的であると考え、文中で敬称を略しています

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