架線がなくても走れる電車「DENCHA」
九州の福岡市内とその近郊を走るJR香椎(かしい)線は、架線が張られていない非電化路線である。福岡都市圏にありながら、排気ガスを吐き、重厚なエンジン音を響かせてディーゼルカーが走る路線は、あまり都会的ではなかった。JRになってから香椎線の列車本数が増え、一時は昼間でも1時間に3往復走っていた(現在は2往復)。これくらいの頻度であれば電化してもよさそうであるが、その計画はなかった。 ところが非電化区間のまま、2019年3月から車両に蓄電池電車DENCHAが投入され、それまで走っていたディーゼルカーがすべて置き換えられ、近代化が完了したのである。それでは、DENCHAとはどのような車両なのか、現地を訪問して体験してみた。JR香椎線は、どんな路線?
博多駅からJR鹿児島本線の門司港方面行きの電車(普通、区間快速、快速)に乗ると10分ほどで香椎駅に着く。電車を降り、跨線橋を渡って3~5番線の香椎線乗り場に行く。香椎線というのは、西戸崎(さいとざき)~香椎~宇美(うみ)を結ぶ25.4kmの路線で、香椎駅で鹿児島本線、長者原(ちょうじゃばる)駅で篠栗(ささぐり)線に接続するものの、両端の起終点駅はいずれも他の路線との接続がない行き止まりの駅という現在では他に例のない路線だ。
全線を直通する列車が少ないので、香椎~西戸崎、香椎~宇美という2つの盲腸線が合体した路線にも見える。海沿いに走るのが西戸崎行き、山の方に向かって走るのが宇美(うみ)行となっていて、発音を聞いただけでは混乱しそうだ。
架線からのエネルギーと電池からのエネルギー
香椎線の香椎駅構内は、架線が張られ電化区間になった。停車中のDENCHAはパンタグラフを上げ、架線から電気を取っている。これだけを見ると、普通の電車と何ら変わらない。しかし、架線が張られているのは香椎駅の構内だけなので、充電が完了して発車するときはパンタグラフを下げて走行する。 乗ってしまえばパンタグラフを上げているかどうか分からないのだが、車端部にモニター画面があり、DENCHAがパンタグラフを上げて充電中なのか、パンタグラフを降ろしてバッテリーに充電した電気で走っているのかが分かるようになっている。ちなみに、10分間の充電で90km走れるとのこと。香椎線の香椎~西戸崎は12.9km、香椎~宇美は12.5kmと、どちらの区間とも往復しても25kmほどしかないので西戸崎駅と宇美駅に充電施設がなくても大丈夫なのだ。
DENCHAの車体と車内の様子
DENCHA(車両の形式名はBEC819系)先頭部のブラックフェイスなどは、これまでの近郊型電車817系に酷似している。側面は白い塗装の上、ドアやロゴなどの文字が青で統一されている。この青は、地球をイメージし、環境へのやさしさを表現したとのことだ。DENCHAとは、Dual ENergy CHArge trainの文字を組み合わせた愛称だ。 車内は近郊型電車なのでオールロングシートだ。ただし、シートの図柄は何種類かあり、見ていると楽しい。水戸岡鋭治氏がデザインを担当したことは一目瞭然だ。通勤電車は味気ないと思われるので、ドアに特急「あそぼーい!」でお馴染みのマスコットキャラクターの「くろちゃん」を描いたり、ドア脇に木製の小さなテーブルを配置するなどの遊び心があって楽しい。ドアを入ったところの吊り手が円形に配置されているのは817系と同じである。香椎駅から西戸崎駅へ
香椎駅から西戸崎行きのDENCHAに乗ってみた。動き出すときは、普通の電車に比べると少し重々しい気もしたが、ディーゼルカーのように車体を震わせたり、重厚なエンジン音を響かせることはなく、いたって静かに走り出す。加速もスムーズで軽やかに進む。香椎線は単線で、上り勾配になり、一旦左に消えた鹿児島本線と合流し、高架で跨いでいく。左から単線で電化された西鉄貝塚線が寄り添ってくると和白駅に到着する。発車すると西鉄貝塚線の下をくぐり左にカーブしていく。 奈多駅に続いて雁ノ巣駅に停車した後、林の中を通り抜けると、「海の中道」と呼ばれる細長い陸繋砂州の上を走る。砂丘になっていて、右は玄界灘、左は博多湾である。線路と道路が並走していて、砂州は狭いところで幅500mほどだ。車内からはちょっと見にくいけれど、左右ともに海だ。 しばらく走ると海ノ中道駅に到着。近くには公園、水族館、リゾートホテルなどレジャー施設がいくつもあるので、週末には家族連れや若いカップルが大勢降りていく。 次が終点の西戸崎。行き止まりの終着駅だが、反対側の終着駅宇美も行き止まりなので、西戸崎駅が香椎線の起点になっていて、駅ナンバリングはJD01、ゼロキロポストもある。西戸崎の駅舎は海岸の駅らしく、ヨットをモチーフにした洒落たデザインの建物だ。水戸岡鋭治氏がデザインしている。 DENCHAはわずかな停車時間で香椎方面へ折り返していく。香椎~西戸崎の所要時間は、ディーゼルカーのときより2分ほど短縮された。今回は、香椎と西戸崎の間を往復しただけだったが、次回は宇美方面へも足を延ばしてみたい。
香椎線以外のDENCHA、蓄電池電車の現況と今後
DENCHAは、平日の朝の1本(西戸崎駅7時46分発)に限り、香椎駅から鹿児島本線に乗り入れて博多駅まで直通運転を行っている。香椎~博多間は架線があるので、普通の電車同様架線から給電して走る。また、DENCHAは香椎線のほか、福北ゆたか線や若松線(運転系統の愛称)でも走っている。若松~折尾間が非電化区間なので、この区間をDENCHAは充電した電気で走行する。 DENCHAの走行区間は、いまのところJR九州の上記の運転区間に限られる。JR九州以外での蓄電池電車としては、JR東日本の烏山線と男鹿線があり、アキュムと呼ばれる車両が活躍している。いずれにせよ、今後の展開が気になるところだ。【おすすめ記事】
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