もっとも、5日間連続して乗車する必要はなく、どれか1日だけ乗車することも可能なので、オールグリーン車の特急列車とはいえ、「ななつ星」ほど敷居が高くはない。どんな列車旅ができるのか、今回は5日目(月曜日)の「金の路」(博多駅発、長崎駅行き)の乗車レポートをお届けしよう。
「36ぷらす3」のコンセプト
「36ぷらす3」は、かつて特急「つばめ」(1992年から博多~西鹿児島<現在の鹿児島中央>間を運転)、その後「リレーつばめ」として走り、今も九州各線の特急列車として活躍中の787系電車のうち1編成をリニューアルし、ブラック塗装にした6両編成の列車だ。何とも風変わりな列車名だが、36というのは、九州が世界で36番目の大きさの島であることに由来している。九州を楽しむ35のエピソードを詰め込み、お客様が楽しんだ後、自身で36番目のエピソードを語ってほしい。そんな想いを込めているそうだ。そして、「ぷらす3」とは、この列車で「驚き、感動、幸せ」を届け、「お客さま、地域の皆さま、私たち」でひとつになって39(サンキュー)=感謝の輪を広げていく。以上のようなコンセプトでこの列車を運行しているとのことである。
「36ぷらす3」の行程を以下に記しておこう。
木曜=赤の路 博多 ⇒ 熊本 ⇒(肥薩おれんじ鉄道経由)⇒ 鹿児島中央
金曜=黒の路 鹿児島中央 ⇒ 宮崎
土曜=緑の路 宮崎空港 ⇒ 宮崎 ⇒ 大分 ⇒ 別府
日曜=青の路 大分 ⇒ 別府 ⇒ 門司港 ⇒ 小倉 ⇒ 博多
月曜=金の路 博多 ⇒ 佐賀 ⇒ 長崎/長崎 ⇒ 佐賀 ⇒ 博多
車内の様子、デザインは水戸岡鋭治氏
さて、いよいよ博多駅から列車に乗り込む。指定された車両は6号車。この日は長崎寄りの先頭車だった(九州を一周するのだが、環状線になっているのではなく、小倉駅から門司港駅に向かい折り返すと進行方向が逆になるので、運転日によって先頭が1号車だったり6号車だったりする)。 通路を挟んで2人席と1人席が並ぶというゆったりした車内だ。そして面白いことに6号車は床が畳になっているので、デッキで靴を脱いで車内へ入る。入口に座席番号が書かれた靴箱があるので、取り違える恐れはなく安心だ。ちなみに隣の5号車は畳ではない普通の車内だが、2人席と1人席という配置は変わらない。車体をはじめ車内のデザインを担当したのは、JR九州の車両デザインではすっかりおなじみになった水戸岡鋭治氏である。今回は一人旅だったので、進行方向右側の1人席に腰をおろした。
博多駅を発車、まずは腹ごしらえ
10時51分、定時に発車。駅員さんたちが大勢一列になり、ホームで旗を振って見送ってくれる。車内は9割近く席が埋まっていた。まもなく、女性のアテンダントさんが現れ、マイクを使ってご挨拶。何だか観光バスみたいだ。特急列車とはいうものの、南福岡、原田、基山の各駅で5分くらいずつ停車していく。ドアは開かず、いわゆる運転停車である。鹿児島本線には、多くの優等列車や快速電車が走っているため、遠慮して定期列車に道を譲るのだ。この列車に限っては、特急とは「特に急がない列車」という意味なのだろう。 11時を過ぎてしばらくすると、係員がお弁当を運んできた。「36ぷらす3」オリジナルの風呂敷に包まれた二段重ねの箱に入っている。福岡市内にある西村貴仁氏が手掛けるレストランの個性的なお弁当だ。元々はフレンチ・レストランなのだが、和洋折衷、さまざまなジャンル・技法を融合した独自のもので「世界を旅するフュージョンBOX」と謳われている。
糸島豚、呼子のヤリイカ、福岡里芋、それに明太子など福岡を中心とした九州の食材を巧みに取り入れた個性的なものだが、口に入れてみると何の違和感もなくおいしく食べることができた。
長崎本線に入り、佐賀駅に停車
鳥栖駅から長崎本線に入り、佐賀平野を快走。吉野ケ里遺跡をかすめ、市街地に入って高架の佐賀駅に停車する。博多駅出発以来、はじめてドアが開く。13分も停車するので気分転換も兼ねてホームに降りてみる。 列車独自の記念スタンプが押せるというので、いただいた列車のリーフレットを持参してホーム中程に向かう。すでに列をなしていたが、スタンプ台は2つ用意されていたので、スムーズに順番が来て押すことができた。地元の人たちが総出で旗や扇子を両手に持って歓迎してくれる。写真を撮っているうちに発車時間がやってきたので車内に戻る。フリースペースの3号車と4号車、そして1号車と2号車の個室
ここで、車内を少し見学してみよう。4号車はマルチカーといって、フリースペースの車両だ。大きなモニター画面があり、沿線の見どころなどをビデオで流していた。テーブル席もあるので、この車両で飲食しながら画面や車窓を眺めてもよさそうだ。その隣の3号車は半分近くが個室で、残りのスペースはビュッフェ。飲食はもちろん列車のグッズも販売している。ついつい色々なものを買ってしまった。JRなのにSuicaは使えず、PayPayで購入した。
なお、1号車と2号車は個室になっている。定員6名と4名の部屋があり、営業運転中はのぞくことができないので、2020年9月に小倉総合車両センターで行われた報道公開時に撮影した写真を掲載しておこう。(取材協力=JR九州)
肥前浜駅で50分停車、街歩きと駅前のイベント
佐賀駅を出てしばらく走ると佐世保線との分岐点である肥前山口駅に停車。やはりドアが開かない運転停車で、特急「かもめ」とすれ違う。この先、諫早駅までは単線区間なのだ。これまで、ほぼ西に向かって走ってきたが、ここからは大きく左にカーブして南下する。 佐賀駅を出て1時間ほどで肥前浜駅に到着。長崎本線は、これまでにも何回か全区間乗車したことがあるけれど、「かもめ」ばかりだったので、特急が通過するこの駅のことは知らなかった。それゆえ、50分以上停車するので興味深くホームに降り立った。 まずは、駅周辺の街歩きをするというので、旗を持った地元のガイドさんに先導されて駅を後にした。大きな集落ではないので20分ほどで戻って来るそうだ。どんなところかと思ったら、この地は江戸時代に宿場町として栄え、とくに酒蔵が多いとのこと。国選定の重要伝統的建造物群保存地区になっていると年配の女性ガイドさんが胸を張って説明してくれた。 駅に戻ると、駅前広場では地元鹿島の日本酒利き酒コーナーが、無料ということもあって人気で長蛇の列をなしていた。なかなか順番がまわってきそうもないので諦め、とりあえず、駅に入って列車の写真を撮影した。駅前に戻ると列は短くなっていたので並んでみた。利き酒は3種類、その特徴を記した文章と結びつけるクイズがある。よく分からないままに直感で答えたら、これが見事に全問正解! ガラポンの挑戦権を得た。さすがに日本酒は当たらなかったけれど、地元・有明海産の焼き海苔をゲットできたので嬉しかった。
有明海沿いの絶景区間を行く
途中下車を楽しんだ後、地元の人たちに見送られて再び列車旅は再開。有明海に沿ってのんびりと進む。長崎本線の中でも一二を争う絶景区間であろう。ただし、カーブが多いのでスピードは出ない。西九州新幹線のルートから離れてしまったのも仕方がないのかもしれない。マルチカーでのイベントに参加
諫早駅が近づいた頃、車内放送があり4号車のマルチカーでイベントがあるというので、出かけてみた。アテンダントさんが、クイズ形式で沿線のエピソードを紹介していく。かつての長崎街道が「シュガーロード」と呼ばれるワケ、「金の路」にちなんだエピソードなど。そして、あらかじめ乗客から募集していた36番目のエピソードを披露し、最後は列車名にちなみ、39(サンキュー)のポーズを全員で大きくとって終わった。 席に戻ると、列車はJR九州の在来線では最長の長崎トンネルを抜け、浦上駅が近づいていた。そして、新しく高架になって間もない長崎駅に到着すると、真新しいホームでは大勢のJR九州の社員さん達が小旗を振ってお出迎え。特急「かもめ」ならほぼ2時間の博多~長崎間を5時間近くかけて走った長旅もあっけなく幕を閉じた。 駅で、街中で、そして車内で、いたるところで温かいおもてなしを受けた列車旅は、いつまでも思い出に残る貴重な体験の連続だった。機会があれば、「36ぷらす3」の残りのコースも辿ってみたいと思う。「36ぷらす3」公式サイト
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