2022年度から高校で必修となる「金融教育」
2022年度から始まる高等学校の学習指導要領では、家庭科(家庭総合)と公民(公共)で「金融教育」の項目が追加されました。いったいどんなことを学ぶのでしょうか。 高等学校学習指導要領によると、家庭科では、持続可能な消費生活・環境の中で「生涯を見通した生活における経済の管理や計画、リスク管理の考え方について理解を深め、情報の収集・整理が適切にできること」とあります。また公民では「政治・経済」「倫理」の他に、新たに「公共」という科目が設けられて「金融の働き」について学ぶ項目が追加されました。経済に関わる事項として「市場経済の機能と限界、金融の働き、経済のグローバル化と相互依存関係の深まり」などを身に付けるとあります。
もう少し具体的に紹介すると、起業のための資金確保、フィンテック(IoT、ビッグデータ、AIの活用)と呼ばれるICTを活用した革新的なサービスや商品、電子マネーなどのキャッシュレス社会、仮想通貨などさまざまな金融商品を活用した資産運用にともなうリスクとリターンなどについて学ぶことになります。
なぜ今、金融教育? 民法改正、仮想通貨など大きな社会変化が背景に
なぜ今、金融教育なのか、それは、民法の改正で2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられたことも関係していますが、ここ数年、キャッシュレス決済や仮想通貨などが登場して目まぐるしく変化する社会の中で、金融が生活と密接な関係になってきたことが背景として大きいでしょう。例えば、これまでは起業やイベントのための資金確保の方法は、銀行などの融資に限られていましたが、今はクラウドファンディングなど、個人でも比較的簡単に資金を確保することができるようになりました。また、「仮想通貨(暗号資産)」のような新たな金融商品も登場し、そのリスクについても学ぶ必要性が出てきました。
日本トレンドリサーチ(運営会社:株式会社NEXER)が実施した全国の男女計1250名を対象にした「高校での『金融教育』必修化に関するアンケート」によると、高校での「金融教育」の授業導入について「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた割合は、合わせて92.4%です。「どの科目の先生が担当したらいいと思いますか」という質問には、外部の講師と答えた割合が55.9%、次いで社会の先生の31.6%となりました。なお外部の講師の例としては、ファイナンシャルプランナー、銀行、証券会社、会計士、経済学者、民間の投資家など、多岐にわたります。
このように、ほとんどの人が何らかの形で金融教育の必要性を感じているのです。
金融教育の前にまず養いたい“金銭感覚”
さて、金融教育の必要性はよくわかりましたが、では具体的にいったいどんなことを学べばいいのでしょうか。金融教育といっても漠然としすぎていて、ただお金について学べばいいわけではないでしょう。そこで一つポイントになるのが“金銭感覚”だと思います。私の友人で「おかず1人500円デー」を実践している家族がいます。子どもも含め、家族全員が予算500円以内で、各々好きな夕食のおかずを買うのです(ご飯や調味料などは別)。
ルールは、「家族全員が満足できるおかず」であること。ですから自分の分のデザートだけを500円分買って、おかずは家族が買ったものを食べるというわけにはいきません。家族全員で公平に分けるのが前提です。兄弟姉妹や親子で金額を合算して食材を購入してもかまいません。
そしてもう一つ重要なルールが「おつりはお小遣いにしてもいい」というものです。予算を使い切った方がいいか、今回はおさえ気味にしてお小遣いに回した方が得かといった判断力が求められます。
この実践、どんなメニューにするか家族での話し合いが必要なため、コミュニケーション能力の育成にも役立ちますが、金銭感覚が身につくのが最大のメリットです。限られた予算内でどんなものが買えるか、スーパーなどで値段をよく見ていないといけません。例えば、トマトの相場はいくらか、同じ肉でも産地によって値段が異なるなど、相場という金銭感覚が自然と身につくのです。
資産運用・株式投資で社会の構図が見えてくる
そういった日常的な相場感覚が養われた上で、もう少しスケールの大きな金銭感覚を養うのに必要なのが、資産運用や株式投資などでしょう。資産運用には大きく分けて2つあります。1つは、ファンドなどに任せて運用してもらう方法です。株式投資は難しくてよくわからないとか、毎日株価をチェックしている余裕がない人は、投資のプロに任せるのがいいでしょう。もう1つが、自分で直接株式投資や不動産投資を行う方法。こちらはある程度の知識や経験が必要です。どちらがいいかは人それぞれです。
ちなみに私は20年の株式投資歴がありますが、この間、金融危機(リーマンショック)や東日本大震災など、株価はグローバルな出来事と大いに関係があることを体感しました。また、それに伴い株価が大きく変動することも痛感してきました。株式投資にはこのようなリスクも伴いますが、値上がりや配当収入などリターンもあります。
また、日本の株式市場の特色として、株主優待という制度があります。株式投資のことはよくわからないが、株主優待制度には興味があるという人もいるでしょう。このお店とあのお店は実は同じ会社が経営していたなど意外な発見もあります。
こうしたリターンとリスクのバランスをとりながら、政治や経済の仕組みを学べるのも金融教育の特徴です。
株式チャートを読むための数学的視点や、円安の仕組みを学ぶための経済の知識なども必要
高校の家庭科や公民で、こうした生活に関連したことが学べることはとても重要です。一方で実学的な内容に偏りすぎではないか、という懸念もあります。従来の教科の勉強との兼ね合いはどうなるのでしょうか。 例えば、株式チャートを読んだり、平均株価や移動曲線などテクニカルな指数を活用したりするには、数学的な視点が必要になります。現在、中学校で「箱ひげ図」を学びますが、株式チャートや経済指標などを読み取るには、こうした基礎的なデータを読み取る力が必要です。フィンテックと呼ばれるサービスや商品開発には、AIやビッグデータの活用など数学やプログラミングなどの知識も必要です。また、政治や経済といえば、歴史と同じくらい暗記教科の代表とされています。しかし、円安になるとなぜ自動車会社の株価が上がるのか、政策によって株価がいかに変動するかなど、社会の仕組みを学ぶのに必要な教科でもあります。
実は、こうした学びは教科書的な学びにとどまらない、生活の質の向上に関わる教育としてとても大切です。2022年から高校で始まる新しい教育、これを機に、教科書的な学びにとどまらない実践的な学びとして金融について学んでみましょう。
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