退職後の支出をざっくり確認しておこう
最近、退職後のお金に関する相談が増えています。その際、私はざっくりと退職後の収支を試算することをおすすめしています。収支をあらかじめ予想しておくことで、心理的な負担も軽くなりますし、対策を練ることもできるからです。【年金ガイド・井戸美枝さんの動画も参考にしてみてください】
今回は、退職後の「支出」について考えてみましょう。もちろんお金の使い方は人それぞれ違います。ですが、毎月の生活費や、医療や介護にかかる費用の考え方は、多くの人に共通するはず。この2つの費用について掘り下げます。
普段の暮らしに必要な金額は
まずは生活費です。退職後の生活費はシンプルに試算できます。現在の支出から、退職後に不要となりそうな支出を差し引くだけです。
仕事で着るスーツ、クリーニング代、ランチなどの外食の費用、交際費……など、仕事に関係する出費はかからなくなるでしょう。子どもがいる場合は、独立すれば教育費などの支出が減ります。退職後は住宅ローンの返済が終わっているかもしれません。加入している保険があれば、退職後も本当に必要かを検討してもよいでしょう。
家計簿をつけている人は、1カ月分の支出をチェックしながら、不要になるであろう費用を差し引いてください。
家計簿をつけていない人は、現状の支出の7~8割程度を目安としておきましょう。退職後に不要となりそうな支出が具体的にわからないため、ざっくりとした予測になってしまいますが、基本的には働いていた頃よりも出費が減るケースは多いと思われます(できれば家計簿をつけて支出を把握することをおすすめします)。
総務省の「家計調査年報 2021年(令和3年)」を見てみます。高齢夫婦無職世帯の1カ月あたりの支出は、22万4436円でした。
<65歳以上夫婦のみの無職世帯の1カ月あたりの支出の内訳>
消費支出:22万4436円
<内訳>
・食料:6万5789円
・住居:1万6498円
・光熱・水道:1万9496円
・家具・家事用品:1万434円
・被服及び履物:5041円
・保健医療:1万6163円
・交通・通信:2万5232円
・教育:2円
・教養娯楽:1万9239円
・その他:4万6542円
(交際費、諸雑費、仕送り金など)
非消費支出:3万664円
<内訳>
・直接税:1万2109円
・社会保険料:1万8529円
・参考/総務省「家計調査年報 2021年(令和3年)」
予備資金も必要
こうした日常生活費とは別に、特別なイベントに使うお金のことも考えておきましょう。たとえば、持ち家であればリフォームや修繕の費用、家具や家電の買い換え、車を買い換える人もいるかもしれません。また、退職後は時間があるため、自分の趣味に打ち込んだり、学校や講座に通うこともあるでしょう。
こうした費用は、使い過ぎることのないように、ある程度年間の予算を決めておくことをおすすめします。人それぞれお金の使い方は大きく異なります。大切なことは支出を年金収入の範囲内に収めることです。
もしものときのお金:医療費
つづいて医療にかかるお金を見てみましょう。高齢になると、やはり病院に行く機会が増えます。病院で支払うお金は、年齢や所得によって異なりますが、かかった費用の1~3割です。
その自己負担額にも1カ月ごとの上限額が設けられており(高額療養費制度)、払いきれないような高額な医療費を請求されることはありません。健康保険が適用される治療であれば、1カ月あたりの自己負担額はおおむね10万円以内におさまる人がほとんどでしょう。
注意したいことは、健康保険適用外のサービスは全額自己負担になること。入院時の食事代、差額ベッド代、保険適用外の治療費や手術代、先進医療……などは保険が適用されません。
生命保険文化センター「令和元年度 生活保障に関する調査」によると、差額ベッド代や食費などを含んだ入院時の1日あたりの自己負担額は2万3300円。同資料の入院平均日数15.7日でした。単純に計算すると、2万3300円×15.7日=36万5810円。一度の入院にかかる費用は、平均約37万円となります。
一概に「いくら用意しておけばOK」とはいえないものの、保険適用外の費用を含めて、入院すると1カ月あたり40万円前後のお金が必要になる、と考えておくとよいでしょう。
・参考/生命保険文化センター「生活保障に関する調査」
もしものときのお金:介護費用
介護にかかる費用も、個人差が大きく、標準モデルはないのが実情です。上と同じく、介護保険制度内でサービスを受ける場合は、自己負担はかかった費用の1~3割です。加えて、それぞれの要介護度によって1カ月あたりの「利用限度額」が設けられています。
たとえば、「要支援1」の人の利用限度額は5万320円、「要介護5」の人の利用限度額は36万2170円です。この利用限度額を超えた分はすべて自己負担となります。
さらに、訪問看護のおむつやガーゼなど、介護サービスの内容によっては、介護保険の対象とならず全額自己負担となるケースもあります。
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(令和3年度)」によると、毎月の介護費用の平均は8万3000円(※1)。同資料での介護の平均期間は、61.1カ月(※2)で、その他にも住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時費用が平均74万円かかっています。
単純に合算すると、(8万3000円×61.1カ月)+74万円=581万1300円。1人あたりの介護費用の平均は約581万円ということになります。
介護の度合いや内容により異なりますが、おおむねこれくらいの費用と期間がかかると仮定しておくとよいかもしれません。
(※1)介護保険サービスの自己負担額も含む
(※2)現在介護を行っている人も含む
・参考/生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査 令和3年度」
毎月の生活費を年金で賄えればベスト
以上が、退職後の主な支出である生活費と医療や介護にかかる費用となります。理想をいえば、毎月の生活費は年金で賄い、特別なイベントでの支出や、医療や介護に関する費用は預貯金などで準備しておければベストです。
ただ、年金で生活費のすべてをカバーすることは難しいかもしれません。そういった場合は、生活費を見直す、年金を増やしておく(iDeCoへの加入・繰り下げ受給・追納制度の利用など)、貯金や資産運用する……といった対策をとることになります。
執筆協力:ファイナンシャルライター 瀧 健
参考本:『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』
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