アドバイス1 大学の仕送り費用は多めに予算取りを
まずは、今後のキャッシュフローを見ていく必要がありますが、教育費が年によって大きく変化しますので、最初に試算しておきます。長女はあと2年で大学を卒業。年間にかかる費用は、学費(学食費込み)が71万円、仕送りが月8万円×12カ月=96万円ですから、計167万円。卒業までに334万円となります。
次女は、現在高校3年生。この1年は、毎月の学費3万8000円×12カ月に、塾費用が年間70万円ですから、約116万円がかかります。翌年大学に入学されるとして、第一希望の場合、学費が4年間で500万円、さらに所得制限で大学寮は利用できないとなると、民間の賃貸住宅となります。
食費や教科書代等も含めて、月15万円ほど見ておく必要があるかもしれませんので、多めに見積もり4年間で860万円としました。他に、現在、通学費が年間35万円とのことですので、長女と次女が大学通学中に今後120万円が発生すると仮定します。
これらをすべて合計すると、1430万円。これを踏まえて、ご主人が定年となる60歳までのキャッシュフローを考えてみます。現在の支出ですが、毎月43万4000円から、教育費の12万円を差し引くと31万4000円。世帯の月収が手取りで46万円ですから、黒字額は14万6000円。
ボーナスからの支出は、塾の年間受講料70万円、通学費35万円(2人分)がなくなりますので、年間105万円。ボーナスでの黒字は175万円となります。
合わせて、年間350万円ほど。3年間で1050万円ほどとなります。これに今ある貯蓄(確定拠出年金は元本のみ加算)、ご主人の退職金、あと、スナフキンさん加入の個人年金保険の年金額600万円を合算すると、計7500万円ほどとなります。
ここから先の教育費を引くと、6100万円ほど。教育費については、一部、前倒しで差し引いていますが、これが60歳時の手持ち資金=老後資金となります。
アドバイス2 住宅購入は可能、ポイントは老後の生活費
60歳を機に住宅購入とあります。ローンも組めますが、現実的ではありませんので、現金での購入となります。スナフキンさんが悩まれている物件価格ですが、上限価格を割り出すには、今後必要な老後資金を考えなくてはなりません。ご主人は定年後、再雇用での勤務が可能ですが、時給制ということで、勤務時間も含めて、ここでは収入は読めません。それよりも心配なのは、健康面です。もしも治療、療養が必要なら、再雇用で働くこと自体きびしくなります。
したがって、ここではご主人は定年後、フルリタイアとして試算をします。そうなると、世帯収入はスナフキンさんの月5万円だけ。想定されている定年後の生活費が月25万円とのことですから、差額20万円を貯蓄から捻出します。公的年金が支給となる65歳までの5年間で1200万円。これを差し引くと、ご主人が65歳の時点で手持ち資金は約5000万円となります。
ご主人の公的年金の受給額は手取りで14万~15万円でしょうか。このとき、仮にスナフキンさんの収入がゼロとなったとして、毎月の赤字額は10万~11万円。赤字額は6年間でざっと750万円ほど。ご主人が71歳のとき、スナフキンさんの年金受給も始まります。手取りで7万円が加算されるとして、毎月の赤字額は3万~4万円に減ります。ここから30年間(ご主人101歳、スナフキンさん95歳)で、赤字額は約1250万円。これらを合計すると赤字額は2000万円となり、5000万円から差し引くと手持ち資金は3000万円ほど。
老後の予備費(医療・介護費用、住宅の修繕・リフォーム費用など)を、あくまで目安ですが700万円として、残り2300万円。途中で車を手放すことも考えると、貯金はもっと残るはずです。住宅購入の諸費用として100万円としても、希望されている2300万円の物件価格は、購入可能といえるのではないでしょうか。また、愛犬と過ごすための費用も、今後の家計を工夫することで捻出可能と考えます。
アドバイス3 今から家計を見直し、老後に備える
結果、あくまで試算ではありますが、きびしく見た試算結果ですから、住宅購入について大きく不安になる必要はないと考えます。そもそもご実家での親御さんとの同居が精神的にかなりの苦痛なら、迷わず購入を選択すべきでしょう。また、「若いうちにローンを組むべきだった」とありますが、逆に今まで購入しなかったことで、長期間、割安な家賃の社宅を利用でき、貯蓄ペースが上がったのですから、その点については悲観する必要はありません。しかも、60歳からご夫婦で過ごすことに適した住宅をローンなしで購入できるのです。早期で購入した人には真似できない、合理的な住宅取得だと言えます。
不安があるとすれば、老後の生活費でしょうか。実際に月25万円(愛犬コストで+1万円)で収まるかどうか。
家賃と教育費がなくなり、保険料が半減し、あと食費や水道光熱費も2人暮らしになりますから、その分も考慮して、確かに生活費は月24万~25万円となりそうです。ただし、生活費は毎月の固定費だけでなく、今までボーナスから捻出していた不定期支出もあります。現在のままであれば、月割りにして6万5000円ほどですから、これを加算すれば月31万円。これに固定資産税が新たに加わり、計32万円にはなりそうです。それは、老後資金の目減りが想定より早くなることを意味しています。
もちろん、スナフキンさんが60歳以降も収入を得ることや、終身保険の解約返戻金を充当することで、支出をカバーすることもできます。ですが、同時によりコストを下げた生活を意識することが重要と考えます。
とはいえ、そういった切り詰めた生活は、定年になって急に目指したとしても、実践できるかどうかはわかりません。できれば今から取り組み、よりコストタヴンの確実性を増すことを目指すべきです。
では、どこを見直すか。
まず保険となります。ご主人加入の、医療特約を付加した終身保険とがん保険は、今後を考えると継続した方がいいと思います。しかし、それ以外の保険(終身保険と変額保険)は払済保険にします。スナフキンさんと次女の共済はともに不要です。
あとはコストを下げられるところから手をつけます。金額だけで見れば、食費、家族の小遣いは見直し余地がありそうです。ボーナスから捻出している交際費、レジャー費も同様です。いきなり大きく節約モードにするのではなく、徐々に慣らしていき、3年で習慣化されればと思います。
最後に、クルマに関して。本来であれば、残価設定型で買い替えを繰り返すより、現金で購入して乗り潰すという形の方が、トータルコストは抑えられます。ただし、短いサイクルで、常時、新機能のクルマに乗り換えることをご主人が希望されているなら、このまま継続してください。今後もご主人が元気でいるための必要経費とも言えるからです。
相談者「スナフキン」さんから寄せられた感想
教育費がピークを迎える中での住宅購入、しかも現金一括は無謀かと半ば諦めておりましたが、深野先生より具体的なキャッシュフローをご提示いただき、今後に希望が持てるようになりました。さっそく生命保険や共済、小遣い、交際費を見直します。再検査の結果、経過観察は必要なものの、主人はがんではありませんでした。しかしこの機会に、年金受給までの生活設計を夫婦で話し合いたいと思います。主人の健康面や次女の進学後にまでご配慮いただいたアドバイスに、心より感謝申し上げます。自分たちで築いた財産で前向きに生きていきます。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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