年金の繰上げ受給・繰下げ受給って何?
国民年金や厚生年金などの受け取りは、原則65歳からとなっています。ただし、受け取りを開始する年齢は60歳から75歳の間で年金受給者が自由に決めることができます。65歳未満で受け取りを始めることを「繰上げ受給」、65歳超で受け取りを始めることを「繰下げ受給」と呼んでいます。75歳まで年金受給を繰下げることができるようになったが……
年金を繰上げ受給した場合、1カ月繰り上げるごとに0.4%年金額が減額されることになります。65歳で受け取ることができる年金額を100とすれば、64歳に繰り上げると95.2(4.8%減額)、63歳だと90.4(9.6%減額)……と、減額され60歳だと76(24%減額)しか受け取ることができません。
反対に繰下げ受給の場合、1カ月繰り下げるごとに0.7%の年金額が増額されます。66歳に繰り上げると108.4(8.4%増額)、67歳だと116.8(16.8%増額)、70歳だと142(42%増額)、72歳だと158.8(58.8%増)、75歳では184(84%増)になります。
繰上げあるいは繰下げを行った場合、その受給割合が生涯続くことになります。
ここまで紹介していた繰上げ&繰下げ受給の内容は2022年4月以降のもので、法改正があった2022年4月以前は、繰上げ受給の減額率が1カ月当たり0.5%(※1)、繰下げ受給の増額率は変更ありませんでしたが、受け取り開始の上限年齢が70歳(※2)でした。
※1:昭和37年4月1日以前生まれの方は現在も繰上げ受給の減額率が1カ月当たり0.5%です
※2:昭和27年4月1日以前生まれの方は現在も70歳までしか繰下げできません
75歳から受け取るメリットとデメリット
年金の繰下げはノーリスクで年金額を増やせるので利用したい制度といえますが、現実は年金を繰り下げて受け取っている人は数パーセントに過ぎない状況です。75歳まで年金の受け取り開始を遅らせることができれば、年金額は184%に増加するのですから、日常の生活費は年金でまかなうことができると思われ、多額の金融資産を準備する必要はなくなる可能性が高くなります。また、年金の受給額はこれから少なくなると予測されているので、その減少分も繰下げ受給でカバーすることができるでしょう。
一方で、75歳まで年金を繰り下げる場合、60歳あるいは65歳で仕事を辞めてしまうと、75歳までの期間は無収入・無年金で過ごさなければなりません。したがって、高額の金融資産を保有していないと生活ができないと思われます。
また、75歳まで年金受給を繰り下げると、年金受給額が増えるため、所得税や住民税の負担が重くなるうえ、国民健康保険料や介護保険料の負担も重くなるでしょう。医療費の窓口負担は、75歳以上の後期高齢者でも、原則1割が2割または3割負担(現役並み所得)になる人もいることでしょう。介護保険を利用した場合も、同様に原則1割負担が、所得により2割または3割負担になる人もいるはずです。
75歳からの年金受給で、老後生活が大丈夫なのはどんな人?
ノーリスクで年金額を増やすことができる「繰下げ受給」。検討の余地が大きいといえますが、上記で述べたデメリットもあるため、誰もが簡単に上限の75歳まで繰り下げられるものではありません。2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、企業が高齢者の継続雇用や就業機会の確保をしなければならない年齢は65歳から70歳に引き上げられ働ける年齢が延びています。それでも75歳まで繰下げ受給するには、65歳で働くことを辞めれば10年、70歳でも5年の無収入の時間が発生するのです。この無収入の時代をどのように乗り切るのかが、75歳まで繰り下げられるカギになると考えられます。
75歳まで働くことができ、かつ勤労収入で日常の生活費をほぼまかなうことができる人がその対象となるでしょう。勤労収入でほぼまかなうことができなくても、金融資産で不足分を補い、かつ75歳時点でも相応の金融資産額を保有している人も対象になるかと思います。
70歳まで働くことができる機会が増えたとはいえ、老後の時間をたくさん確保したい人は65歳で完全リタイアしても、多額の金融資産を保有していて無年金時代を余裕で乗り越えられれば、その人も75歳からの受け取りで大丈夫でしょう。
その他にも対象になる人はいるでしょうが、注意点を述べておきましょう。75歳まで働く人は、フルタイムの場合は自由な時間が少なくなると思われ、旅行などやりたいことができなくなる可能性があります。リタイア年齢も75歳ですから、健康でいないとせっかく繰り下げたメリットを享受できず、医療費に消える、あるいは楽しみに使うことができずに意に反して貯蓄に回ってしまうこともありえます。75歳まで働く人は「健康」がカギになるでしょう。
75歳まで働かない人、働いていても金融資産を取り崩さなければならない人は、よほどの金融資産を保有していない限り、生活費を抑えることが重要になります。老後に向けて生活をダウンサイジングしていくことが大切になります。また、多額のお金をかけずに余暇を楽しむなど上手にお金を使っていくことも大切な要素といえるでしょう。
結局、何歳から年金を受け取ればよいのか?
そもそも老後の生活を楽にするために、繰下げ受給を考えている人は「働く期間を1日でも長くすること」「生活費をダウンサイジングすること」が2大要素といえそうです。働く期間をあまり長くしたくないと考えている人は、生活費の削減とともに、早くから資産形成を行い金融資産の山をできるだけ高く築くことが重要です。「年金は何歳から受け取れば損をしないのか?」という質問をよく受けますが、年金は長生きに備えるための終身保険と言い換えてもよいでしょう。たくさん受け取りたい、あるいは損をしたくないなら長生きするしかないのです。生きている限り年金は、100歳、110歳、それ以降でも支払われるのですから。
年金の受け取り開始年齢に万人に共通の正解は、残念ながらありません。その人のライフプラン(老後)に合わせることが基本になりますが、実際には働く年齢(収入を含む)、保有する金融資産額、老後の生活費に準じて受け取り開始年齢を決めることになるでしょう。
あるいは夫婦であれば、夫は65歳から受け取り、妻は65歳超に繰り下げるなどの選択もありえます。くどいようですが、自分自身の老後のライフスタイルに合わせて、受け取り開始年齢は決めるべきでしょう。
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