ストレス

なぜかむなしい、満たされない…人間関係で築くべき本当の親密さとは?

【公認心理師が解説】仕事も趣味も充実しているのに、どこかむなしい。友だちはたくさんいるのに、満たされない。そんな思いを抱える場合、「親密」という成人期の発達課題に取り組めていないからかもしれません。大人になりきれない自分を脱するための「親密モラトリアム」の乗り越え方について、解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

充実しているのにむなしい……「親密」の発達課題に目を向けるべきタイミング

友だち関係

仕事、趣味、友達との時間、充実しているはずのになぜかむなしい……。人との関わり方に課題があることも

年齢的には成人、毎日きちんと働き、社会人として生活している。仕事も趣味も楽しみ、忙しい毎日を送っている。友だちとワイワイ騒いで楽しんでいる。それなのに、心のなかにむなしさが募ってしまうのはなぜ? そんな思いが浮かぶなら、その年齢で取り組むべき課題に目を向けてみるとよいかもしれません。
 
人には、その年齢だからこそ取り組むべき「人生のテーマ」があります。これを偉大な心理学者E.H.エリクソンは「発達課題」と名付けました。エリクソンによると、人の一生には8つの発達課題があります。成人期、つまり多くが社会人になるおおよそ20代後半以上の年齢の人が取り組むのは、6番目の発達課題「親密」です。
 
「親密」とは、他者との間で互いの「アイデンティティ」に基づいて、本音でかかわりあうことです。「アイデンティティ」についてさらに詳しく知りたい方は、「大人になっても「思春期」な女性が抱える憂うつ」記事をご参照ください。
 

「親密」とは……信頼しあえる特別な人と語りあい、成長しあう関係

「親密」という言葉の響きから、ベタベタ付き合うことイメージする方もいるかもしれませんが、「発達課題」における親密の意味は異なります。縁のあった人のなかから信頼しあえる人を見つけ、その特定の人との間で「アイデンティティ」に基づいて深く語りあい、成長しあっていく。そうした関係のことです。
 
実際、社会人になると、「親密」の経験は多くのシーンで求められます。仕事では、同じ仕事に取り組む者同士が互いの人間性に触れ、互いを肯定的に理解しあわないとチームワークが組めません。事務的なやりとりをするだけでは、他者と一緒に創造的な仕事をすることができないのです。
 
私生活でも同様です。家族以外の人と信頼しあえる人を築き、自立的で創造的な関係をつくっていく。そうすることで互いに刺激を与えあい、学びあう。これが成人期に取り組む「親密」の課題です。
 

「恋愛」は苦しいからこそ、「親密」を最も深く学べる

「親密」の発達課題を最も深く、強く経験できるものは、なんといっても「恋愛」です。個性の異なるカップルが、互いの存在を身も心も深く知りあい、認めあっていくことです。
 
恋愛は楽しいことばかりではありません。期待が外れてがっかりしたり、自分の気持ちをわかってもらえなず、さびしく思ったり……。うまくいかないことの連続ですが、その経験が互いを大人へと成長させてくれます。
 
相手の気持ちは相手のものだから、期待が外れることもあり、気持ちをわかってもらえないこともある。個性も考え方もが違う2人だからこそ、一緒にいると視野が広がり、たくさんのことを学びあえる。長くつきあっていくと、このようなことを実感します。すると、「親密」という発達課題が自分を成長させてくれることに気づくことができるのです。
 

人と深い関係が築けない場合、「親密モラトリアム」の可能性も

ところが、世の中には「親密」の発達課題に向きあわず、「大人になりきれない自分」の期間を引き延ばしている人が少なくありません。この現象を、私は「親密モラトリアム」と呼んでいます。
 
「親密」を経験するには、信頼し、好きになれる相手に出会うことが必要です。その出会いの段階からしり込みし、自分の殻に閉じこもっている人が少なくないのです。この関門は自分を磨き、勇気をもって人と向き合うことでしか突破できません。ですが、傷つくのを恐れていると、この段階でアクションを起こせないのです。
 
また、「親密」が始まっているのに関係性を育てられないのも、「親密モラトリアム」です。目の前の人とじっくり向き合おうとしない。相手の良いところを見出し、認めようとしない。そして、どこかにもっと良い人がいないだろうか、と目移りする。こうした行動は、「親密モラトリアム」の人によく見られます。
 
「親密モラトリアム」を続けていると、どこか心が満たされず、大切なことを忘れているようなモヤモヤした感覚をおぼえます。仕事や趣味に没頭している間はその感覚を忘れられるのですが、一人になるとふとその思いに襲われ、憂うつになってしまいます。
 

自分の気持ちを柔らかくし、「親密」のチャンスを広げる

「親密モラトリアム」のモヤモヤから脱するには、自分の本心に立ち返るしかありません。つまり、自分の気持ちに“素直になる”ことです。「親密」の経験を通じて成長したいと願う、心の成長欲求を認めていくことです。
 
繰り返しますが、「親密」を経験するには、信頼し、好きになれる相手が必要です。そうした人は気づかないだけで、身近にいることが多いものです。自分の気持ちを柔らかくし、人の良いところを見出し、優しい気持ちになること。すると、身近な人との関係が少しずつ深まっていきます。そうした人が身近にいなければ、行動範囲を少しずつ広げ、出会いのチャンスを増やしていくとよいでしょう。
 
人の心は一生をかけて成長します。成人期には「親密」という発達課題をじっくり経験し、心を大きく成長させていきましょう。すると、中年期に入るころには「世代性」(生殖性)という次の発達課題に出会い、心はさらに熟成し、人間性が磨かれていくでしょう。
 
【お知らせ】「親密モラトリアム」をより深く理解したい方にお勧めの書籍――『大人になっても思春期な女子たち』青春出版社より好評発売中!
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます