アドバイス1 大幅減収なら老後資金不足は現実と認識したい
現在の収入が、手取りで月収90万円、ボーナス200万円ですから、年間1280万円。額面で年収1900万~2000万円でしょうか。ご相談文には「最悪、年収400万円に減収」とあります。単純に5分の1になります。もしもそれに備えるなら、ドラスティックに家計支出を見直す必要があります。今後どの程度減収となるのか、あるいは退職勧告となった場合、新たな勤務先でどの程度の収入を得られるのかは、ここでは不確定ですが、ともあれ「最悪」とご自身がいわれる年収400万円となった場合の、今後のキャッシュフローを見ていきます。
年収400万円は手取りで320万円ほど。ここで生活費を今と同様とするなら、月額51万円ですが、便宜上、教育費は別途差し引きますので、生活費は41万円に。ただ、5万円程度の使途不明金がありますから、実質46万円とします。ボーナスからの支出は55万円ですから、年間支出は教育費を除くと607万円。結果、年間287万円の赤字です。教育費は第2子の方の大学費用4年分で250万円。これを貯蓄から差し引くと、残る金融資産は3250万円。ここから、赤字を補てんすると、9年後、Mさん65歳のとき、手持ち資金は670万円ほど。
ただし、定年後の生活費は月40万円希望とのことですから、これをボーナスからの支出も月割りで加算したものとするなら、60歳以降の生活費は今より、年間127万円下がりますので、それが実践できれば、65歳のときに手持ち資金=老後資金は1300万円ほどとなります。
65歳からの公的年金額ですが、直近の「ねんきん定期便」が20万円だったとすれば、今後の減収により、年金額も下がることが考えられます。ここでは、ご夫婦で手取り25万円とすると(奥様は国民年金満額支給とする)、不足額は月15万円。それでも、65歳以降、収入が年金だけなら、およそ7年、Mさん72歳のときに資金は底を尽きます。
しかもこの試算は、60歳以降も5年間は年収400万円を確保した場合です。しかし、この金額は再就職、再雇用ともに、かなりハードルは高いはず。さらに、本来、老後資金は公的年金の不足分を補うだけでなく、予備費(医療・介護費、クルマの買い替え、住宅の修繕・リフォーム費など)の準備という目的もあります。金額としては、夫婦で少なくとも500万円、できれば1000万円近くはほしいところ。そう考えれば、実質70歳前に資金不足に陥る可能性が高いと言えます。
アドバイス2 今から家計の見直しに着手することが重要
現在の家計において、すでに住宅ローンが完済、お子さんの教育費も第2子の方のみで、かかる学費はあと250万円という点は、強みです。退職金はないとのことですが、手持ちの金融資産は3500万円。これも数年後には老後であることを考えれば、一般にはさほど困らない額とも言えます。では、なぜ試算結果はきびしいのでしょうか。これは明解です。想定されている生活費が高額だからです。
ただ、手取り収入が1280万円であれば、支出額が高いのも当然と言えば当然。しかも、それでも年間400万円以上貯蓄ができていたのですから、ある意味、家計管理は問題なかったとも言えます。
しかし、状況は変わりました。少なくとも減収は避けられないなら、支出も下げるしか有効な手だてはありません。定年後に、あるいは公的支給の時期にではなく、今から見直します。急に見直して、それが実行できない場合、家計はよりきびしくなります。今から取り組むことが肝要です。
アドバイス3 65歳以降にもう一段、見直しが必要
具体的にどう見直すべきか。常套手段は保険ですが、すでに最近すべて解約されたとのこと。そうなると、他の支出を思い切ってカットすることになります。例えば、食費と趣味娯楽費、家族の小遣い、雑費で計30万円。これらをトータルで10万円削減したい。それができれば、生活費は31万円(教育費除く)。ボーナスからの支出も固定資産税とクルマの維持費だけにして15万~20万円にすれば、年間支出はおよそ400万円。年収400万円なら、60歳までの4年間、家計赤字は320万円ほどですから、60歳時の手持ち資金は2930万円(教育費差し引き後)となります。60歳以降、生活費は月40万円が希望でしたが、引き続き31万円+ボーナスからの支出分で年間400万円支出とします。一方、年収は300万円を目指します。手取り240万円とすれば、年間赤字は160万円。65歳までの5年間で800万円。結果、65歳のときに手持ち資金は2130万円となります。
その後、公的年金の不足額を月3万~4万円に抑えられれば、100歳まで生きたとして取り崩すのは1500万円ほど。まだ予備費として600万円程度が残ることになります。ただし、そのためには、公的年金は先の試算では手取り25万円としましたから、65歳以降の生活費はさらにもう一段下げる必要があります。
もちろん、これは試算に過ぎません。Mさんの収入が400万円まで下がらず、800万円程度であれば、試算結果はまったく異なったものになります。65歳以降も働く、あるいは奥様もパートで働くということでも、試算はかなり変わります。そう考えれば、そこまで大幅な生活費削減は必要ないかもしれません。しかし、退職勧告も含め、大幅減収の可能性があり、今後何歳まで働けるかも不確定である以上、コストダウンは今から取り組むべき重要な課題だと考えます。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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