「日経平均株価3万円超」のニュースが速報で流れるなど、株高が続いています(※編集注)。でも足元の実体経済は、それほど良くなっている感覚がないかもしれません。この株高をどう考えればいいのか。経済を専門分野とするセゾン投信中野晴啓会長の考えを聞いてみましょう。

(※編集注:本記事の取材は2021年3月上旬に実施。その後、日本銀行が政策決定会合を行い、投資信託(ETF)の購入方針見直しを発表したことで、日経平均は一時急落しました)

今回の質問はこちら。 

Q:日経平均3万円回復といわれていますが、実体経済はどうなんでしょうか。

 

株高でも経済が良くなっているイメージがない

中野さん:日経平均株価が一時3万円台を回復したりと、株価だけ見ると日本経済(GDP)が良くなっているイメージがあります。でも社会を見れば、新型コロナウイルス感染症で外出自粛になり、飲食店は時短営業、観光産業は大打撃というニュースがあって、とてもじゃないけれど日本経済が良くなっているとは思えません。

実際に内閣府の四半期別GDP速報(※1)では、2020年の日本の実質GDPは4.8%のマイナスです。だから違和感があるのは当然だと思いますね。そんな中での株高ですが、これは日本だけではなくて、世界全体で起きていることでもあります。
 
参考資料
※1「四半期別GDP速報」内閣府
 

そもそも「株価」とは、未来を値付けするもの

未来を値付けするのが株価

未来を値付けするのが株価

中野さん:そもそも株式市場が何を見て株価をつけているのかというと、今ではなく未来です。通常なら1年くらい先ですが、今の日経平均株価の水準で考えると、もっと先だろうと僕は考えています。例えば2022年に経済が回復できるかというと、ちょっと疑問ですね。日本経済は実質4.8%もマイナスになっているので、2022年は4.8%増えればいいという話ではありません。なぜなら凹んだ分を取り戻さないといけないからです。

今の株価が新型コロナウイルスが感染拡大する前よりも高いということは、マイナスになった部分を取り戻して、さらに経済が大きくなることが前提になっています。つまり、アフターコロナで日本経済が急激に回復をしてくるとともに、新しい社会構造が経済成長を加速させていると予想した株価ということです。これはすごく楽観的だと僕は思いますね。
 

実体経済が良くなっていないのに株価が上がる理由

中野さん:2023年、あるいは2024年に経済が良くなって、実体経済と株価のバランスが取れるようになるかどうかは、僕にもわかりません。それはどんな人でも同じです。でも今株価が上がっているのは、実体経済が良くなっている未来を想定して株式市場にお金が入ってきているからです。

例えば国が国民に一律10万円の特別定額給付金を出しましたよね。それに新型コロナウイルス感染症の影響で家にいる時間が増えて、お金を使わなくなりました。だからその分を投資にまわそうと考えた人もいるかもしれません。あるいは将来が不安になって資産運用を真剣に考えたのも理由の1つになると思います。国民のお金が株式市場に入ってきたから、株価が上がったのも理由として考えられます。
 

日本銀行の金融緩和の影響

中野さん:それともう1つの大きな理由は、日本銀行(日銀)が行った量的緩和です。量的緩和というのは、中央銀行が市中から国債をはじめ金融資産を買い上げることで、市場に出回るお金を増やしていくことです。

政策金利はすでにマイナス金利が常態化しています。これ以上マイナス幅を深掘りすれば、金融機関の経営が危うくなるなど限界水準まで下げ切ってしまっているのです。そうした状況下で採用されたのが、お金の量を増やす「量的緩和政策」です。

日銀は政府が発行する日本国債を大量に買い上げるだけではありません。日本の上場株式を、ETFという投資信託を通じて継続的に買い続けています。その目的は、株式市場を活性化させることによって国内景気を下支えすること。
 
コロナ禍で実体経済が悪化するとなれば、政府は財政投入してそれを食い止めようとします。加えて、株価下落局面では日銀のETF買い入れが想定されるため、マーケットは不安が払しょくされます。だから安心して株式を買えるという楽観ムードがあって、右肩上がりの株価上昇につながっているわけです。

リーマン危機後の相場低迷時から始まったETFの買い入れは、かれこれ10年以上続いています。ニッセイ基礎研究所によると、日銀の保有残高は一時50兆円規模にまで積み上がりました(※2)。

参考資料
※2「日銀はETF買入を減らすか~「政策点検」の先を読む~」ニッセイ基礎研究所
 

投資とは何なのか?

本当の投資には時間がかかる

本当の投資には時間がかかる

中野さん:今株価が上がっているから、それに乗って儲けたいという人は少なくないと思います。でもその背景には「すぐに結果を出したい、すぐに儲けたい」という気持ちがありますよね。これは短期的な考え方で、本来の投資の意義、資産形成を考えてのことではありません。

投資本来の意味は、経済にお金を投入することで経済を支えたり、もっと成長させることでリターンを得ることなんです。例えばある会社の株を買うことで、その会社は技術を高めたり研究の成果を出して社会に認められる会社になるかもしれません。そうなったときの利益が投資家に分配されるわけで、これが投資のリターンです。でもそうなるまでには、時間がかかりますよね。何年、何十年とかかることもあるでしょう。だからこそ、長期的な考えが重要になってくるのです。
 

日経平均株価が3万円を超えて、売りたくなってしまう人は

中野さん:逆に日経平均株価がこれだけ高いのだから、いったん売って利益確定をしたい気持ちもあると思います。でも、そういう人はまた株を買うことになると思いますよ。なぜならもう1回儲けたいと思うからです。しかも次に株を買うときには、もっとお金を増やしたりもします。でも株式市場はずっと上がりっぱなしになっているわけではなくて、大きく下げるときもあります。そうなったときにとんでもない痛手を負うわけです。
 
そもそも株式市場はプロが戦っている場所です。そこに素人が入ってきて、コンスタントに勝つのは困難です。だから下手に売り買いをしないで、プロに任せた方が賢明ではないでしょうか。

――次回は「投資はいつからどう始めればいい?」について聞いていきます。

教えてくれたのは……
セゾン投信株式会社 代表取締役会長CEO 中野 晴啓(なかの はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役会長CEO 中野 晴啓

セゾン投信の中野晴啓会長



1987年クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資産運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金運用のほか、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、クレディセゾンインベストメント事業部長を経て、2006年セゾン投信株式会社を設立。2020年6月より現職。現在2本の長期投資型ファンドを運用、販売しており、顧客数は約15万人、預かり資産は4000億円を超える。一般社団法人投資信託協会理事。公益財団法人セゾン文化財団理事。著書に『預金バカ』(講談社+α新書)、『つみたてNISAはこの8本から選びなさい』(ダイヤモンド社)など。
 

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