小1で入塾待機? 進む中学受験通塾の「低年齢化」

低年齢化

中学受験の厳しい競争に勝ち抜くには、早くから塾に通うべき?

中学受験が過熱する中、首都圏の大手進学塾では「新1年生で満席」といった事態になるなど、通塾の「低年齢化」が進んでいるようです。あたかも幼い頃から中学受験へ向けて英才教育を施さねば、厳しい競争には勝ち抜けないかのようですね。でもそれってどこまで本当のことなのでしょうか。

中学受験は、東大はじめ優秀な大学合格への近道という考え方の親御さんもいらっしゃるようです。 東大合格者は毎年約3千名。首都圏の中学受験者数は、大手塾などの推計によると一般的には約5万人とされています。その中から、偏差値60以上というトップ層の私立中学にいく子は、定員を合計したところ全国で約8千人(便宜上、大学付属校は除く)でした。さらにそれらの学校で公式発表されている、2020年度の東大現役合格数を計算すると合わせて約千人です。首都圏の中学受験者約5万人に対してこの数は、「中学受験は優秀な大学への近道」とは言い難い、決して高い確率とはいえないものではないでしょうか。

もちろん優秀な大学に入れなかったからといって、その子の教育が「失敗だった」というわけでは決してありません。私立中学へ通う目的やメリットも大学実績だけではないことも事実です。ただ、早くからエリート教育を受けさせていればそれで万事OK、というわけでは決してないと私は考えます。
 

大手塾の「青田買い」戦略、華やかな合格実績にもカラクリが

最近の大手塾の戦略は「いかに優秀な生徒をつかまえるか」にシフトしてきています。そのため、他塾よりも早く募集を開始して、抱え込みをはかろうとするわけです。いわゆる「青田買い」戦略です。

宝くじの季節になると特定の売り場に人が群がります。かつてその売り場で高額当選者が出たため、それにあやかろうと考える人が多いからです。千枚の売り場に対し、その10倍の1万枚の売り場の高額当選の絶対数は10倍近くになると考えられます。そのためその売り場にはますます人が集まります。しかし、よく考えてみてください。あくまでも皆さんが買う1枚1枚の当選確率は変わりません。そもそも、宝くじの当たりはランダムで、どの番号も同じ確率のはずですよね。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」ということわざの通りです。

中学受験塾にも同じことがいえるのではないでしょうか。特定の塾にたくさんの生徒が集まれば、その塾からトップ校の合格者がたくさん出るのは当たり前です。なにしろたくさんの生徒が集まっているわけですから、その中に一定数混じる優秀層が合格実績を稼いでくれるわけです。

2021年中学受験を終えた今、塾の合格速報では華やかな実績が輝いています。この「合格実績」の数にも注意が必要です。たとえば都内のトップ校である開成中の公式合格発表数は398名ですが、首都圏大手進学塾の合格者実績数を合わせると500名を超えています。本来は一人の生徒がひとつの合格を勝ち取るはずですから、学校の合格発表数と塾の合格実績数合計は一致していないといけません。裏を返せば優秀な生徒がふたつみっつの塾を掛けもちして、合格実績を底上げしているという現実があるということです。
 

飽きてモチベーション低下も? 早期入塾で生じる弊害

早期からエリート教育のコースに進ませることには、深刻な弊害が生じる場合もあると私は考えます。上述の偏差値60以上、つまり高校受験でいうところの偏差値70以上のようなトップ層の私立中学に通う8千人が、もし各地方の公立高校に進学し、その高校でトップレベルの成績を収めていたとしたら、少なくとも自己肯定感はものすごく高かったのではないでしょうか。

私事で恐縮ですが、私は私立武蔵(首都圏御三家と呼ばれる学校の一角)に通っていて、成績は常に下位でした。当然「オレは頭が悪い奴」と思って生活していました。何しろ周りはできる人ばかりでしたからね。今でも同窓会には気後れして出席できませんし、同期の華やかなキャリアとわが身を見比べて、勝手に卑屈な気持ちになって落ち込んでいます。「都立高校に進学していたら違った人生もあったろうな」と思うことも時々あります。ですから、早くから塾に通ってまで、私立中学校に入学することがどの子にとってもベストな進路であるかと疑問に思うのです。
勉強に遅れをとられないように早期入塾したものの、飽きてモチベーションの低下にもなりかねない

勉強に遅れをとられないように早期入塾したものの……

また、長く中学受験の生活を送っていると、だんだんと受験勉強に飽きてきてしまう子が出てきます。もちろん大手塾などでは定期的にクラス変更がおこなわれ、緊張感を持続しやすいように工夫されてはいます。しかし、下位クラスでずっと過ごしている生徒などの場合には、成績も上がらずクラス変更もないので、学習に対する情熱がどんどん失われていってしまいかねないのです。

早くから受験勉強させていればやる気が育まれて学力もグングンついていく、というのは幻想です。もちろんそういう子もいるでしょうが、ごく一部に限られるのだと私たちは知っておく必要があります。
 

子どもの成長は千差万別、「適齢期」は親が見極めを

忘れてはいけないのは、子ども達の成長するパターンは千差万別であるということです。早い段階で才能が開花する子もいれば、ゆっくり進んで高校2年生くらいで開花する子もいる。

ゆっくりな子に無理をさせ、「子どもは競争社会で切磋琢磨させることが一番いいのだ」と早期教育に放り込んでしまうと、かえって自己肯定感を低めてしまい、自信を喪失させて勉強嫌いにしてしまう危険性があります。これは実にもったいない話です。
 
中学受験は第一志望に合格できないどころか、全落ちも珍しくない厳しい世界です。企業戦略に踊らされ、煽られるがままに慌てて中学受験をスタートさせるのではなく、我が子には本当に競争社会でやらせることが合っているのかどうか、ダメだった時に親がきちんとその現実を受け止められるかどうか、いま一度冷静に考えてみてください。

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