舞台という場がないのなら、作ってしまおう
―企画を最初に考えたのはいつなんでしょう。8月です。実は、歌舞伎が再開したのは8月。3月から7月までは舞台がなくて、それはそれで大変つらかったのですが、8月になって歌舞伎が再開し、出られる人間と出られない人間が出てきました。出られない人間にとっては、もう自分は必要とされないんじゃないかなと思ってしまう別のつらさが始まったんです。
もう、表現の場とかどうこうよりも、人から忘れられないでいられるというのが大事で。僕は幸いにしてお手伝いの場を与えられたのですが、それがものすごくうれしくて、逆に声のかからなかった仲間はどんな気持ちかを考えて、ぜひやりたいと思いました。
―歌舞伎は大きな舞台にたくさんの役者が出て華やかな演目があるのも特徴ですが、今はかなり、人数制限をしていますから、出演者は限られてしまいますね。
はい。長く役者をされている人はもちろん、せっかく歌舞伎の世界に入ってきてくれた若い子たちも、全然舞台に出られない人がたくさんいます。本人たちもそうですが親御さんたちがどう思うかと。だからこの企画に若い子たちにも出てもらって、少しでも「歌舞伎の世界に入っていてよかった」と思ってくれたら。ご家族にもそう思ってもらえたらうれしいですね。
コロナ以降、舞台に出られていない人たちにとって貴重な場となった
―猿翁さんら一門の師匠や先輩はどんな言葉をかけてくださいましたか。
みなさん、大丈夫?と心配してくださり、宣伝もしてくれ、優しく支えてくれたのが大変な原動力になりました。人の優しさに触れて、久しぶりに甘えたなという感じもしました(笑)。
―不易流行は、今後どういう形で展開をしていこうと思っていますか。
とにかく1回目こうやって、媒体としてうまくいきました。これからは、基本的には僕の思うやりたいことをやっていこうと思う反面、いろいろな人に参加していただいて、助け合って、将来的には大いに「不易流行」でおもしろいこと、みんながやりたいこと、必要としていることに使ってくれればいいなと思っています。
―ぜひ、がんばってください。ありがとうございました。
底力を見せる歌舞伎
新型コロナウイルスは、確かに大きな厄難です。しかし、歌舞伎界ではコロナ禍で個性豊かな様々なチャレンジが生まれてきました。われわれ観客にとっても、変化はありました。今まで遠くに感じていた役者を身近に感じられたり、初めて舞台を観たり、歌舞伎の底知れないパワーを感じた人もいるでしょう。
もともと歌舞伎は、常に時代の最先端を走り、時代に合わせて変化し、進化してきたもの。「永遠に未完成の芸術」といわれている所以です。これから、どんな新しい歌舞伎が生まれ、どう継承されていくのか。将来「コロナの時代があったから今がある」と話せるようになるのか。どう伝統芸能が継承されていくのか。
未来は決して暗くない。歌舞伎の底力を私たちが目の当たりにするのは、これからです。