舞台中止の中での、新しい動き
さて、半年ものあいだ歌舞伎が中止となり、役者やスタッフはどうしていたのでしょうか。けがや病気で舞台に立てないのとは違い、元気なのに舞台に立てない。つらいですね。歌舞伎は、大きな舞台に大人数で華やかに舞台を彩るのが魅力の一つですがそれもかないません。密を避けるために、舞台に出る人も最低限に減らしているので、未だに出演できない人もたくさんいるのです。役者もスタッフも職人も、厳しい現状は今なお続いています。歌舞伎ファンにとっても、長く歌舞伎を観ることもできず、まさにコロナ憎しの状況でしたが、悪いことばかりでもありませんでした。1部1演目にしたことで、チケット代が安く設定されました。今までは、高くてなかなか手の届かなかった1等席で、演目を観られたというのが一つ。幕見のように短時間で楽しめたのも、初心者にはうれしかったかもしれません。もうひとつは、多くの役者が、自粛期間からさまざまな企画を通して、歌舞伎の楽しさを発信し始めたことでした。
歌舞伎役者は、ドラマなどでその魅力を発信することはあっても、「歌舞伎って何なの?」「歌舞伎の魅力って、どんなところにあるの?」ということを発信している役者や団体は少なかったのではないでしょうか。しかし、自粛期間中に、歌舞伎役者自身が、自分たちが今できることは何かと考え始めたのです。
・先鞭を切った「図夢歌舞伎」
まず、先鞭を切ったのが、松本幸四郎の「図夢歌舞伎」でした。ZOOMを使って「図夢歌舞伎」。内容は、「仮名手本忠臣蔵」です。「仮名手本忠臣蔵」といえば、登場人物も多ければ、上演時間も長く、とてもこの時期にできるものではありませんが、それをやるのが、企画力・行動力抜群の幸四郎流。
全11段を5週に分け、6月27日から毎週土曜に配信。
幸四郎が、高師直、加古川本蔵、大星由良助、斧定九郎、など主要キャストをほとんど一人で演じ、カメラワークを駆使、お家で子どもから大人まで楽しめる新しい忠臣蔵となっていました。
12月26日からは新作「図夢歌舞伎 弥次喜多」がAmazon Prime Videoでレンタル配信されます。幸四郎は弥次郎兵衛、相棒の喜多八は、猿之助です。歌舞伎でも大人気だった弥次喜多コンビが歌舞伎界初のAmazon進出となります。この後、Amazon Prime Videoでは「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」、「シネマ歌舞伎『スーパー歌舞伎IIワンピース』」、「シネマ歌舞伎『女殺し油地獄』」など合計11作品が順次レンタル配信されます。
・斬新な映像作品「ART歌舞伎」
若手の中村壱太郎と尾上右近による「ART歌舞伎」は、芸術性に重きを置いたもの。デザイン、衣裳などは最先端のアーティストと組み、斬新な映像作品となりました。歌舞伎の新しい可能性を見せてくれたと思います。好評となり、12月に再配信。さらにロシアでの配信も決定したとのことです。
・芸談や裏話が豊富「紀尾井町家話」
リラックスしながら、芸談や裏話まで聞けると評判なのが、尾上松緑の「紀尾井町家話」です。月に3~4回、気の置けないゲスト(歌舞伎役者)を呼んで話すので、まるで同じ部屋で一緒にお酒を飲みながら、話を聞いているような気にもさせられます。
配信は、歌舞伎美人にて随時お知らせされます。
・初心者から通まで楽しめる「歌舞伎ましょう」
また、日本俳優協会・伝統歌舞伎保存会が新しく始めた「歌舞伎ましょう」もおすすめです。
大御所や若手の歌舞伎役者たちのステイホーム中の様子を流したり、見得、隈取、トンボ、小道具の紹介を素顔の歌舞伎役者がしてくれるなど、熱烈なファンの人にとっても初心者にとっても興味津々でひきつけられる内容です。歌舞伎初心者もいつの間にか歌舞伎がとても身近な存在になりそうです。
・各自インスタグラム発信
日頃はちょっと近寄りがたい歌舞伎役者たちの素顔をのぞくことができるインスタライブも、今年、多くの役者が始めました。気になる役者がいれば、インスタグラムをチェックしてみてください。ステイホーム中、毎晩8時に本の読み聞かせをしてくれた役者さんもいましたよ。
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