あおり運転とは……死傷者を伴う交通事故も
死傷者を伴う交通事故を引き起こすこともあるあおり運転。その心理傾向を知り、正しく対処することが大切です
あおり運転とは、道路を走行している運転者が、近くを走行している他の車やバイク、自転車等の運転者に対して威嚇や挑発を行い、危険を感じさせる危険運転のことです。交通事故を引き起こして相手を死傷させてしまった場合は、危険運転致死傷罪、暴行罪、殺人罪等により懲役刑等に処される可能性があります。
あおり運転による事件・事故の報道は少なくなく、2017年6月には神奈川県内の東名高速道路で、あおり運転などの危険な運転による交通事故のため、夫婦2名が死亡、4名が負傷しています。同年1月には、神奈川県の横浜横須賀道路でゴミ収集車があおられて横転し、運転していた男性が負傷しました。
2019年8月には茨城県内の常磐自動車道で、あおり運転を行っていた男が被害者である男性を殴り、加害者の同乗の女が殴る様子を撮影するという事件も大きく報道されたので、記憶に新しいのではないかと思います。
普通の人でもハンドルを握ると気が荒くなることがあるのはなぜ?
とりわけ短気ではない人でも、ハンドルを握ると気が荒くなることがあります。運転中は、普段とは異なる特別な心理状態になりやすいのです。自分の体では決して出せないスピード感は爽快感やスリルをかきたてますし、ハンドルやアクセルの判断ミスが自他の命を左右するというプレッシャーは、過剰な緊張感を駆り立てます。したがって、運転中は、集中と緊張、快感と興奮が同居した状態になるのです。
また、運転中は車体という丈夫な「要塞」に守られていること、ハンドルを握ってアクセルを踏むだけで他者を威圧できるということからも、運転者の優越感が刺激されやすくなります。
あおり運転をする人の心理・傾向・性格の特徴
あおり運転をする人の心理は一概にはいえませんが、自己愛が強く、誇大妄想を持ちやすい人は加害者になりやすい傾向があると考えられます。そもそも、スピード感による爽快感やハンドル一つでどこにでも行ける解放感は、運転することの魅力でもあります。ただの移動手段としてではなく、ドライブが趣味という方は多いでしょうし、仕事や人間関係などで気分がクサクサするようなことがあると、夜中の高速道路をぐるっと一周ドライブするだけで気持ちがリフレッシュでき、自信を取り戻すことができるという人もいるでしょう。
しかし、自己愛が強く誇大妄想を持ちやすい場合、通常の安全な運転の範囲での爽快感や解放感のレベルでは満足できません。自分が周りよりも優位であるという実感を得たいので、近くを走る車との間で気に障ることがあると、過剰なまでに心外に感じ、感情を抑えられなくなることがあります。
そして、危険な運転によって相手を攻撃して恐怖感を与えることで、自分は万能であり、圧倒的に優位であるということを実感しようとします。こうした、過剰な自己愛や誇大妄想はゆがんだ考え方であり、反社会的な行為であると言わざるを得ません。
もし、自分自身がハンドルを握ると興奮し、攻撃的になり過ぎる、実際にあおり運転をしたことがあるという方は、一度精神科医やカウンセラーに相談されるとよいでしょう。自己の考え方や行動傾向と向き合っていくことが、有効に働くと考えられます。
あおり運転をされた場合の心構え……ヒートアップや委縮は避け、冷静に
あおり運転をする人は、常軌を逸した精神状態に置かれていることが多いです。相手のあおりに反応せず、取り合わないことが大切です。そして、相手の怒りを刺激しないことも大切です。法定速度の安全運転で走行しながら、相手が諦めて立ち去るのを待つ。相手が何をしかけてきても、自分自身の安全運転を優先させ、前を向いてフラットな心情で運転する。相手に道をふさがれ、相手が車を降りて抗議しにきたときには、窓を閉めて確実にドアのロックをする。窓を叩いたり、ドアを蹴とばされたりしても、決して外には出ない。
そして、110番に電話をし、警察が到着するのを待つ。その間に、相手の車のナンバープレートを控えておく。といったことを心がけていきましょう。決して一緒にヒートアップしたり、恐怖心にかられて言うなりになったりせず、冷静さを保つことが大切です。
自分や家族があおり運転をしてしまう場合、心がけるべきこと
運転中、他の車にヒヤッとさせられることがあると、誰でも苛立ちを感じてしまうことはあるでしょう。とはいえ、多くの人はそのときの苛立ちに任せて、相手の車をあおったりはしません。思わずあおり運転をしてしまうのは、カッとなったときに自分の衝動を抑えられず、衝動の赴くままに行動してしまう傾向があるのだと考えられます。しかし、あおり運転は自他の命にも関わる危険行為です。相手を攻撃したくなるほど苛立ちを抑えられないと感じたら、その行動を制御するために、自分の思考と行動に工夫をすることが大切です。
まず、イラッとしたときには怒りのままに行動せず、いったん我に返ること。一般道路であればいったん路肩やコンビニのパーキングなどに車を止め、大きく息を吐き、深呼吸をしましょう。冷たい飲み物を飲み、一服したり、ストレッチして体をほぐしたりするのもよいでしょう。いったん運転から離れることで、すっと気持ちが冷静になります。
高速道路であれば、大きく息を吐き、呼吸を整えながら、次のサービスエリアまでは目の前の運転に集中しましょう。イライラが治まらないなら、車の中で何度も大きくため息をついたり、感じた思いを言葉に出して、感情を解放するといいでしょう。
そしてサービスエリアについたら、冷たい飲み物を飲んでぜひ休憩してください。このときにマッサージや足湯などで心身の疲れを癒し、過剰な興奮を緩めるとさらによいと思います。そして、できれば少し仮眠をとってから、運転を再開しましょう。すると、先ほどの苛立ちから解放され、リフレッシュして運転できると思います。