アドバイス1 すぐの早期退職でも資金的には問題なし
早期リタイアのご相談ですが、ご相談文にあるように「今すぐ辞めてしまって」もマネープラン的にはまったく問題ありません。希望される時期に退職してください。仮に今月退職されて、来月以降は治療を兼ねての完全休養とします。当然、ご主人の収入(給与手取り30万円、ボーナス年間手取り110万円)は来月からなくなります。普通、これだけ世帯収入が減額すれば、何かしら家計を節約しなくてはなりませんが、それもしなくて済みそうです。
毎月の生活費が24万5000円。対して、奥様の給与が手取りで月額25万円ですから、奥様の収入だけで日々の生活費はカバーできることになります。固定資産税、自動車保険、それと家族のレジャー費はボーナスから捻出しています。これが年間20万円。新たに増えるコストとして確実なのは、健康保険(+介護保険)は奥様の扶養になりますから、ご主人の国民年金保険料くらいでしょうか。これを加味しても、現状では家計赤字は出ません。それどころか、年間50万円は貯蓄できる計算になります。
教育費については、高校と大学は私立になりそうとのこと。大学を学費が高めの理系に進学するとすれば、高校と合わせてかかる学費は1人800万円。2人で1600万円ですから、仮にご夫婦の退職金から捻出したとしても、まだ400万円が手元に残ります。
奥様は5年後に早期退職してパートで働くということですから、それまでに50万円×5年間=250万円、貯蓄が上積みされます。さらに、ご主人が3年後にアルバイトで社会復帰して、それが月8万円とすれば、それが奥様退職まではほぼ貯蓄に回りますので、2年分で約200万円。つまり、5年後の時点で貯蓄は5450万円になっています。これに教育費を差し引いた退職金の残り400万円と、養老保険の満期金100万円を加算して、計5950万円。これがいわゆる老後資金となるわけです。
奥様が52歳からは夫婦ともパート・アルバイトで月16万円(手取り)の収入とします。これを公的年金が支給開始となる65歳まで継続するとします。その間、教育費や保険料など、その他生活コストが下がる一方、児童手当の受給がなくなるなどもあり、仮にトータルで今の生活費と変わらないとすれば、月の不足額はボーナスから捻出している固定資産税や自動車保険も合わせて、月10万円。13年間で1560万円。先の老後資金から差し引いて、残り4390万円。これが65歳以降の手持ち資金となります。
公的年金は夫婦合わせて、税金、社会保険料を差し引いた額で月20万円はあるのでは。そうなると、毎月の生活費は固定資産税等を加えても、年金でほぼカバーできるはずです。今後の大きな支出として、クルマの買い替えが2回程度、これに住宅の修繕・リフォームがあるとして、合計1000万円も予算を組んでおけば十分でしょう。これに介護費用や医療費を考慮しても、一般的な額であれば、資金的には十分余裕があります。
アドバイス2 夫の社会復帰は5年後に延ばしてもいい
この試算結果を踏まえてアドバイスをすれば、まずはご主人の社会復帰の時期ですが、治療を最優先とすれば、余裕をもって5年後くらいにしてはどうでしょう。ご自身が言われる「2~3年後」は、もちろん順調に回復すればそれで構わないですが、その目標が逆に焦りになって、体調が万全でないまま復帰してしまう。これだけは避けなくてはいけません。また、奥様も仕事がハードとのこと。ご主人が退職すれば、余計、奥様に精神的な負担がかかることも考えられます。したがって、奥様の退職も5年後と言わず、3年後に前倒ししてもいいのでは。もし、奥様が体調を悪くして働けなくなったら、それこそ大変です。
例えば、ご主人の復帰が5年後で、奥様の退職が3年後とすると、収入は先の試算より800万円ほど下回ります。それでも、65歳のときの手持ち資金は3600万円ほど。私はこれでも資金的に老後で大きく困ることはないと考えます。
アドバイス3 必要以上に心配せず、これからは生活を楽しむ
大事な点は、ここまでの試算が、ご主人の体調が戻り、夫婦とも健康を維持するというのが前提ということ。そのためにも、必要以上に資金面に不安を抱かず、逆により生活を楽しむことに意識をシフトすべきだと考えます。それでなくとも、25歳から「心の病」を患い、今まで働き続けたのですから。そのために多少支出が増えても構いません。家計管理は十分できる世帯ですし、もし将来足りないと感じたら、65歳以降もアルバイトを続ければいい。そのくらいに考えておけばいいでしょう。
最後に保険について。ご主人の終身保険は払済保険にしていいと思います。また、2本の共済は保険料1000円の方を残し、もう1本は解約します。ただし、ともに勤務先での加入なら、退職と同時に解約となります。だとすれば、一般の共済保険で、同等の死亡保障と医療保障を確保(保険料月額2000円程度)してください。もし、健康面で新規に加入できない、あるいは保険料が割高になるなら、これだけ現金があるのですから、あえて加入しない選択肢もあります。それがどうしても不安なら、先の終身保険は継続でいいかもしれません。また、奥様の養老保険は保険料を前納してしまっていいと思います。
相談者「むね」さんから寄せられた感想
仕事を辞めてしまっても大丈夫か、誰にも相談できず、しばらく1人で悩みを抱え込んでいました。深野先生にアドバイスを頂き、大変勉強になりました。また自分の中で思い悩んできたことについても、気持ちがかなり楽になりました。今後は楽しみも持ちつつ、無理をせずに家族とともに力を合わせて頑張って行きたいと思います。ありがとうございました。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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