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情熱に感謝し、創造性に期待する 任天堂とゲーム動画

2018年11月29日、任天堂は「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を発表しました。これによって、任天堂関連のゲームの動画は投稿しやすい環境ができます。ガイドラインの内容について、ご紹介したいと思います。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

ゲーム業界ニュースガイド

動画でゲームを知る娘

HIMAWARIちゃんねるの図

ゲーム投稿動画は、子ども達の間でも大人気です

ガイドには6歳の娘がいますが、その娘が夢中な遊びの中にYouTubeの鑑賞があります。ガイドは娘にAmazonのタブレットPC、Kindle Fire HDを買い与えて、いつでも動画の中身を親が確認できるリビングで、自分で好きな動画を観ることができるようにしています。テレビに関して言うと、ドラえもんだったり、プリキュアだったり、ある程度子どもにオススメしてみたこともあるのですが、YouTubeは彼女の興味にまかせっきりにしていました。

すると、6歳の娘は動画から動画へとたどって、自分の好きなものを見つけて鑑賞できるようになりました。ある日のこと、娘がハウステンボスに行きたいと言い出しました。ハウステンボスの話なんてしたことがありません、どこでハウステンボスのことを知ったのだろうと疑問に思いました。そこで気がつきます。そう、YouTubeでハウステンボスにお出かけする動画を観ているのです。娘は、欲しいもの、やってみたい遊び、行きたい場所の情報の多くをYouTubeから得るようになっていました。もちろん、その中にはゲームも含まれます。

娘はYouTubeだけでなく、テレビも観ます。ポケモンバラエティの『ポケモンの家あつまる?』は大好きですし、『妖怪ウォッチ シャドウサイド』も観ています。しかし、娘が新しい情報を得る割合は、どうもテレビよりもYouTubeの方が明らかに多いようなのです。もちろん、これはガイドの娘の話であって、全ての子どもがそうだとは限りません。しかし、例えば娘が好きな、7歳と4歳の女の子が色んな遊びをする『HIMAWARIちゃんねる』を観てみると、チャンネル登録者数は150万人を超え、動画は数十万、数百万回再生が当たり前という世界で、その影響力の大きさが容易に想像できます。

YouTubeやniconicoといった動画配信サイトが普及し、ゲーム実況という分野が世界的なムーブメントを起こす中、ゲーム業界は、ユーザーのゲーム実況動画投稿に対して、権利を主張せず、公式に認めもせず、黙認という形で曖昧な態度をとってきた時期が長くありました。しかし、ユーザーのゲーム実況動画が影響力を持つにしたがって、その態度は軟化しつつあり、歓迎に代わってきています。

2018年11月29日、任天堂は「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を発表しました。これによって、任天堂関連のゲームの動画は投稿しやすい環境ができます。任天堂が示したガイドラインの内容や、ゲーム業界と動画投稿の関係について、お話していきたいと思います。
 

任天堂のガイドライン

ニンテンドースイッチの図

例外的に、ニンテンドースイッチのキャプチャーボタンによる動画撮影機能を使ったものは、コメント等のつかないゲーム映像の複製でも許可されるようです

任天堂のガイドラインを説明する前に、このガイドライン以前はどうだったか、というお話をしたいと思います。任天堂はYouTubeやniconicoなどの投稿サイトごとに、動画を投稿するルールを設けていました。例えば、YouTubeに関して言えば「Nintendo Creators Program」という制度があり、動画投稿者が申請し、任天堂が審査することによって、任天堂は動画を認め、動画投稿者と任天堂の間でYouTubeで発生する広告料をシェアできる、というものでした。ただし、申請できるゲームは限られていまして、大乱闘スマッシュブラザーズシリーズや、ファイアーエムブレムシリーズなどで申請できないゲームがありました。これは、ゲームに任天堂以外のメーカーのIPが登場する場合や、開発元が任天堂でないケースにおける権利処理の問題が大きかったのではないかと思われます。

今回のガイドラインでは、まず各投稿サイトごとの取り決めではなく、動画や画像の投稿全般に関するガイドラインとなっています。そして、任天堂の全てのゲームに関し、ガイドラインを守る限り著作権侵害を主張しないとあります。

詳しくはガイドラインの方を確認していただきたいのですが、簡単に言えば、営利目的でないこと、動画や画像の単純な複製ではなくコメントなど投稿者の創作性があること、任天堂以外の権利を侵害しないこと、公序良俗に反しないことなどを条件を満たせば、好きなゲームの動画や画像を投稿して良いということになります。また、営利目的での投稿を禁止してはいますが、YouTubeやniconicoなど、任天堂が指定したサービスのシステムを使った方法であれば、動画の収益化も認めています。

【関連サイト】
ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン(任天堂ホームページ)
 

情熱に感謝し、創造性に期待する

動画を撮影する図

任天堂は、ゲーム体験が共有されていくことを応援すると宣言しました

さて、これらのことを総合すると、結局これまでと何が変わるのでしょうか。ガイドラインを読むと、常識の範囲内で、悪意なく動画を投稿する限り、ほとんどの場合は許可されると考えてよいでしょう。そして、申請の必要はいらなくなりました。また、問題があるかどうか厳密に判断できなくとも、任天堂は問題ある動画は削除する場合があるとしています。この削除に応じていれば、大きなトラブルにはなりにくいかと思います。

任天堂は、ガイドラインの中で「任天堂は当社が創造するゲームやキャラクター、世界観に対して、お客様が真摯に情熱をもって向かい合っていただけることに感謝し、その体験が広く共有されることを応援したいと考えております。」とし、さらに、「お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております。」とも書いています。

つまり、任天堂はゲームユーザーがゲームを遊んで、楽しくなって、そして自分の中で広がっていく世界を表現することを応援するし、期待すると、その為に任天堂もできることをしますよという意思が、このガイドラインからは読み取れます。
 

グレーからホワイト、そして自由に

スプラトゥーンの図

スプラトゥーンは動画投稿が非常に盛り上がり、それがゲームの盛り上がりにつながっていったタイトルでした

動画投稿サイトがあらわれ、ゲーム関連動画が投稿され始めた頃、多くの動画はグレーの中で投稿されていました。著作権侵害をしてはいるものの、メーカーが著作権侵害を主張しないために存続し続ける、という状態です。こういった状態の中で投稿を続けていた人達の中には、そのゲームの熱烈なファンであるにも関わらず、ある種のうしろめたさを感じていた人も少なくないのではないでしょうか。

その後、ユーザーの投稿動画が大きな強力を持ち始め、著作権を侵害されることによるリスクよりも、ゲームが盛り上がりマーケティング的メリットの方が大きいことがはっきりしてくるにしたがって、ゲーム業界は動画の投稿を認める方向に流れてきていました。今回任天堂が発表したガイドラインによって廃止されるNintendo Creators Programにしても、任天堂がユーザーのゲーム動画を認める為に動いた結果できた仕組みでした。Nintendo Creators Programなどの、任天堂が動画投稿を正式に許可する仕組みは非常にうまく動き、『スプラトゥーン』などのタイトルは、動画によって大変に盛り上がっていきました。

そして今回のガイドラインにより、最低限のルールだけで動画投稿をオープンにし、うしろめたさを感じることなく、むしろ任天堂に応援され、期待され、自由かつ気軽に動画を投稿できるようになります。
 

ゲーム文化と動画投稿文化

ポケモンピカブイの図

これをきっかけに、さらにゲームと動画投稿の文化がよりよい発展を遂げることを期待したいですね(イラスト 橋本モチチ)

15年前ぐらいには考えられないことでしたが、今やゲームの文化は、動画投稿の文化と切っても切れない関係になっています。eスポーツは対戦の観戦とセットでしか成立しえないことは疑いようもなく、ゲームの攻略はユーザー達の動画によって極めて丁寧に解説されるようになり、まだ流行っていない面白いゲームがユーザーの動画によって火がつくということも珍しくはありません。

また、かつてはゲーム動画の投稿と言えば、投稿するのも、観るのも、いわゆるゲーマー層が中心となっていましたが、いまやその裾野は非常に広くなっています。冒頭ご紹介した通り、子ども達の中でも、ゲーム動画の投稿文化は広がっています。

ユーザーによるゲーム動画投稿が登場したころ、それは非常に楽しく、刺激的で、そして危ういものでした。ガイドは、ゲーム動画投稿は大変に面白いものの、著作権との関係はデリケートで難しいと考えていました。しかし、ゲーム業界が、自身の権利を守るためにユーザーの盛り上がりを潰すような方向に動かず、ユーザーが盛り上がる方向に動くように強く願い、記事を書いたことをよく覚えています。

そしてそれは、今本当にいい方向に動いているのかもしれません。任天堂はゲーム業界において、世界的にも影響力の大きなメーカーです。その任天堂が、積極的にユーザーの創作的な動画や画像の投稿に対して期待し、応援する姿勢を明確にしたことは、ユーザーのゲーム動画投稿文化とゲームメーカーの関係がより良いものになっていく、象徴たる出来事と言えるかもしれません。

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【関連サイト】
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