井上ひさしによる“幻の傑作”が復活『どうぶつ会議』
1月24日~2月3日=新国立劇場小劇場PIT『どうぶつ会議』の見どころ 井上ひさしさんがエーリッヒ・ケストナーの児童小説をベースに1971年、劇団四季のために書き下ろした作品が、半世紀ぶりに、こまつ座によって上演。人間たちの戦争や環境破壊に悩まされる動物たちが、“地球を美しくするにはどうしたらいいのか”を考えるべく、会議を開く。そこで飛び出した名案とは……?
のどかでかわいらしい物語の中に、井上ひさしさんらしい社会的メッセージがこめられた作品。国広和毅さんによる、どこかとぼけた音楽も魅力です。都会のサーカスで暮らすライオン役に栗原類さん、アフリカで動物会議を束ねるライオンのアロイス役に大空ゆうひさんら多彩なキャストが、大人も子供も楽しめるひとときをプレゼントしてくれることでしょう。
ゾウのオスカール役・上山竜治さんインタビュー
上山竜治 東京都出身。01年から男性ユニット“RUN&GUN”として活動し14年に卒業。03年、映画「ROUTE58」主演で俳優デビュー。04年、弱冠17歳にして宮本亜門演出『INTO THE WOODS』のジャック役に大抜擢。主な舞台作品として『冒険者たち~The Gamba 9~』主演、『ブラック メリーポピンズ』、『夢の裂け目』、『宝塚BOYS』、『るろうに剣心』等で多彩なキャラクターを演じ活躍。本年4月よりミュージカル『レ・ミゼラブル』が控える。(C)Marino Matsushima
――上山さんは今年『夢の裂け目』で井上ひさし作品に初出演。闇ブローカーにして実はインテリの青年・成田役を骨太に演じていらっしゃいましたが、井上さんは上山さんにとってどんな劇作家ですか?
「蜷川幸雄さん演出の井上ひさしさん作品『天保十二年のシェイクスピア』は自分の演劇熱に火をつけてくれた作品でしたし、こまつ座の舞台も観に行っていました。井上戯曲には憧れていたし、目標にもしていましたね。
社会的なメッセージ性や、“役者ってこういう言葉を扱うべきだよね”と思わせてくれるような日本語の美しさ、面白さにも感動しましたが、何より、観ていて気持ちを抉られるような感覚があるんです。それは役者が振り切った芝居をやっていてこそ。全てを伝えきっている役者さんはすごいなと思って観ていました。感情がフルスロットルでないと伝わらない、こういう作品ができるようになりたいとずっと思っていましたね」
――実際に出演されてみていかがでしたか?
「大変でした(笑)。『夢の裂け目』で僕が演じた成田耕吉という役には、井上ひさしさん自身の思いが託されているようなところがあって、演出の栗山民也さんにも“お前が大切な台詞を言うんだぞ、竜治”と言われました。役者を十数年やってきて、あんなに舞台で緊張したことってなかったかもしれません(笑)。それを背負って、一字一句間違えてはいけない、動きも決まった動きの中でやるという難しさがありましたが、その分、成長させていただけたかなと感じています」
――ミュージカルでは政治的な側面はあまり追求されませんが、井上作品はミュージカルであれ音楽劇であれ、明確な政治的メッセージがありますね。
「そうですよね。『夢の裂け目』はブレヒト(注・ドイツの劇作家)の異化効果を取り入れた趣向で、お客さんに完全に感情移入していただくのではなく、どこか客観的に見てもらうということだったので、役者の意見も求められました。(作品のテーマである)東京裁判について、上山竜治としてどう考え、その上で成田としてどう思うのか。勉強していくなかで、問題の本質は何十年もたった今も同じなんだと分かりました。今を生きる上山竜治としてこの国をどう見るか、が問われました」
平和でかわいらしいだけでない、エッジのきいた作品
――そして今回、再びの井上作品。台本の第一印象は?
「動物たちが立ち上がって戦争や地球環境を考えるという物語で、おじさんたちではなく動物たちが集まるというのがなんとも平和で、かわいらしいと思いました。でもその中にとがったものがある。僕の解釈の中では、この作品の“動物たち、子供たち”は井上ひさしさんが言うところの“普通人”(一般の民衆)。そして“大人たち”は国家であったり権力者のたとえではないかと思っています。ファミリー・ミュージカルとして親子で楽しんでいただきつつ、実はお父さん・お母さんたちにもメッセージを送っている。エッジのきいた作品だなと感じましたね」
――子供たちにも響くものがありそうですね。
「昨日の稽古の中で僕の意見としてみんなに話したのですが、終盤で動物と子供たちが歌を歌うシーンは、井上ひさしさんが、大人=権力に対して声をあげようというメッセージを込めているような気がします。初演は1971年なのですが、当時は井上さんのお嬢さんたちが小学生で、娘さんたちを楽しませながら“声をあげるんだぞ、日本を変えていくんだぞ”と託しているように感じるんですね。この歌の場面はとても大切にしないといけないなと思っています」
――とても50年近く前の作品には見えないですね。
「そうなんですよ。戦争や環境汚染、子供の遊び場がなくなってきているという状況は今も全く変わっていなくて、残念です。でも言い続けていかないといけないですよね」
――上山さんが演じるのは、動物会議を開催する動物協会のナンバーツーである、ゾウのオスカール。どんなキャラクターとして演じていますか?
「世界動物組合の理事長が大空ゆうひさん演じるライオンのアロイスで、僕が演じるゾウのオスカールはその副理事みたいなポジション。寛大で未来のことを考えているキャラクターで、誰よりも子供のことを思っています。世界中の子供たちから届いた手紙を読むシーンから始まるのですが、子供たちと同じくらい地球環境について胸を痛めているというくらい、優しく、感情豊かな象を目指していますね」
――上山さん自身も子供好きですか?
「子供好きというより、僕自身がまだ子供なので(笑)。友達の子供とよく遊んだりしますが、同じ目線で楽しく遊べますよ」
――国広和毅さんの音楽はどんな感じでしょうか?
「『夢の裂け目』のヴァイルの音楽にも通じるような、“不安定さの中にある居心地のよさ”が面白いです。コミカルな感じで、ずっと口ずさんで歌ってしまうような“やみつき感”がありますね」
『レ・ミゼラブル』アンジョルラスのような“ラッパ感”を大切に
――多彩なキャストも今回の公演の見どころですが、例えば都会のサーカスで暮らしているライオン役を演じるのは、栗原類さん。
「独特の空気感をお持ちで、自分の感性を通して役を作っていらっしゃいますね。無理して役作りしないのがすごく素敵です。正直、ライオンが栗原君と聞いた時にはイメージがあんまりつながらなかったけど(笑)、実際稽古に入ると、サーカスにいてストレスを感じているということで、すごく想像を掻き立てられるライオンになっています」
――NHK-BSの『おとうさんといっしょ』でお馴染みの木戸大聖さんも、ヒョウ役で出演されます。
「すごく自然体でかわいいですよ。ピュアに演じているので、心洗われます」
――そして動物会議を仕切るライオンのアロイス役は、大空ゆうひさんです。
「大空さんのかっこよくも美しくもある、中性的な魅力がライオンの抽象的な雰囲気にぴったりです。パートナー役なので、最終的にどんなライオンになるのかとても楽しみですね」
――お稽古はどんな段階ですか?
「本稽古は10日目くらいなのですが、6か月くらい前からワークショップがあって、みんなで意見を出し合って探り探りやってきました。全くバラバラなものが徐々に組み立てられ、城みたいになってきている。こんなに贅沢な稽古もないなと感じています」
――ご自身の中でテーマにされていることはありますか?
「“ラッパ感”ですね。『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスにも通じるのですが、ラッパを吹いて人々を立ち上がらせ、動かしていくだけの情熱、迫力を出さなければと思っています。その内面に優しさ、深さがあるからこそ出せることで、決して勢いであったりノリで盛り立てるということではないと思っています」
――どんな舞台になりそうでしょうか?
「まずは子供たちにたくさん来てほしいですね。そのいっぽうで、子供に発信してはいるけど、動物を通して崇高なことが書かれた作品だと思います。大人も心洗われるし、演劇としても楽しんでいただける舞台になると思います」
――井上さんの作品は苦い余韻の残る作品がほとんどですが、本作については……。
「ハッピーエンドです。ただし、“To be continued”という感じで、ここからが大事、と次世代に託してるように思います」
二枚目でも三枚目でも、“人間味”を大切にしたい
――少しだけプロフィールについてもうかがいたいのですが、先日の『るろうに剣心』では弾けた武田観柳役。以前、拝見して印象に残っていた『ブラック・メリーポピンズ』での、二枚目路線の演技とのあまりの落差に驚きました。
「『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役をご覧になった方からも“こんなことしていいの?”と驚かれましたね(笑)。でも、以前から自分でコントの脚本を書いたりしていたので、コミカルな芝居は自分の中では珍しくないんです。『るろうに~』では演出の小池修一郎さんが自由にやらせてくれる方で、自分でいろいろ足していって要らないものは言ってくださいとお願いして作っていきました。のびのびやらせていただき、楽しかったです」
――いろいろな役を演じていらっしゃいますが、どんな表現者を目指していますか?
「どんな二枚目でも三枚目でも、人間味を大事にしたいと思っています。それが自分のやる意味なのだと思いますね。アンジョルラスのようなヒーロー的な役を演じるにあたっても、泥臭さを出したいです。人間味のある役者になっていきたいです」
――憧れる俳優さんはいらっしゃいますか?
「例えば『夢の裂け目』でご一緒した段田安則さんもかっこいいなと思いましたし、アル・パチーノも好きですね。“泥臭さがかっこいい”と思える、迫力ある役者を目指したいです」
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“ベルばら”の世界観、歴史を堪能できる『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来~』
1月27日~2月9日=東京国際フォーラムホールC 2月16~24日=梅田芸術劇場メインホール 『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来~』の見どころフランス革命を描いた池田理代子さんの漫画を舞台化し、1974年に初演。以来上演の度に話題を呼び、宝塚歌劇団の代名詞の一つにも数えられる『ベルサイユのばら』の45周年を記念したステージが、初演に出演した榛名由梨さん(オスカル役)、初風諄さん(マリー・アントワネット役)はじめ、そうそうたる顔ぶれ(交互出演)で上演されます。
プログラムは本編の名場面を抽出した“ダイジェスト”に名曲ライブ、公演時のエピソードトークと盛りだくさん。『ベルばら』という作品を多角的に知ることが出来、ファンはもちろん、宝塚初心者にもぴったりの内容です。何人ものオスカルやアンドレを見比べることが出来る点でも貴重な機会となることでしょう。
観劇レポート 歴代の出演者が一人ずつ登場、持ち歌を少しずつ歌う華やかな幕開け。続いては歌劇団専科で初演出演者でもある汝鳥伶さんの進行で、『ベルサイユのばら』初演からの軌跡を資料映像で振り返ります。 日替わりで出演者が変わるトークコーナーでは、この日は脚本と(長谷川一夫さんとの)共同演出をつとめた植田紳爾さんを囲んで、月組、花組、雪組の初演時トップスターが登場。すでに人気漫画だった『ベルばら』の舞台版とあってプレッシャーの中での初演開幕だったことなど、今だから話せるエピソードの数々が、まるで昨日のことのように語られます。 続くソングコーナーではトークとは異なる顔ぶれで“白ばらのひと”“愛の巡礼”等、本作の名曲の数々が思い入れたっぷりに歌われ(曲目も日替わり)、いよいよお待ちかねのダイジェスト上演。 まずは女性であるオスカルが兵士たちに認められ、上官として迎え入れられる“我が祖国フランス”。
続いて、失明していたにもかかわらず愛する人を守り続けてきたアンドレ、そしてオスカルが次々と銃弾に倒れるクライマックス。 そしてフェルゼンが恋人マリー・アントワネットを思って歌う“賭けろペガサスのごとく”に、覚悟を決めたアントワネットが王妃としての神々しさを放つ牢獄シーンと、主要登場人物の見せ場がたっぷりと再現されます。 この日各役を演じたオスカル役の稔幸さん、朝海ひかるさん、アンドレ役の水夏希さん、湖月わたるさん、フェルゼン役の和央ようかさん、アントワネット役の白羽ゆりさんの、とてもダイジェストとは思えぬ迫真の演技が、観る者をたちまち作品世界に引き込みます。 そして終盤はお楽しみの、華やかなフィナーレ。 この日は汀夏子さん、麻路さきさんらがニュアンスたっぷりのダンスや歌唱を披露、そして最後に全員が再登場。祝祭気分の中で『ベルばら』の世界観を堪能できると同時に、当時の感動がよみがえり、しばしタイムスリップできる楽しさもある公演となっています。
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*次頁で『キューティ・ブロンド』をご紹介します!