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PSVR アストロボットはジュゲムで遊ぶマリオ?

SIEから発売された、PlayStation VR用タイトル『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』は、VRで面白く快適に遊べるアクションゲームを作るにはどうしたらいいかという問いに、1つの解答を示しました。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

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VR界のマリオ?

アストロボットの図

ジャンプアクションという意味では、3Dマリオのフォロワーと言っていいでしょう。ただし、VRに関しては先駆者です

こういう言い方は、とても安易で、雑な発想ではあるんですが、知らない人に一言で説明するのであれば、VR界のマリオというのが1番分かりやすいかもしれません。ニンテンドー64の本体同時発売ソフト『スーパーマリオ64』は、その当時、ドットによる平面表現からポリゴンによる3D空間表現へと切り替わっていったゲーム業界に大変な衝撃を与えました。3D空間を表現できるようなゲームが、どんな遊びを提供できるのか、多くのメーカーが模索していた中で、これこそ答えだと言えるようなゲームが、ニンテンドー64本体と同時に発売されたのです。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントが2018年10月4日に発売した、PlayStation VR用タイトル『ASTRO BOT:RESCUE MISSION(以下アストロボット)』は、3D空間を使ったジャンプアクションであるという点からも、そして、VRをどうゲームに落とし込んでいくか多くのメーカーが模索していくなかで、1つの答えを示しているという点からも、スーパーマリオ64を想起せずにはいられません。

もちろん、細部にわたってマリオそっくりだ、というわけではなく、むしろ、VRならではの新しいアイデアに満ち溢れています。このゲームは、PSVRと同時発売された『THE PLAYROOM VR』に収録されている『ROBOT RESCUE』というゲームを進化させて、単体でパッケージにしたものです。ROBOT RESCUEの時点ですでにかなり面白かったのですが、THE PLAYROOM VRは複数人で遊ぶパーティーゲーム的な側面の強いゲームが多数収録されているため、初期の非常に台数が限られたタイミングでPSVRを購入したコアなゲーマー層とはうまくマッチしていなかったかもしれません。

アストロボットはこのROBOT RESCUEだけを取り出して、1本のパッケージとしてのボリュームをつけ、1人でじっくり遊べるタイプのVRゲームとして発売しました。そしてその作りこみ、完成度は、VRで遊ぶアクションゲームの1つの方向性をはっきりと示すに足るものとなりました。PSVRを持っている人はもちろんのこと、持っていない人にも、VRにおけるアクションゲームの可能性が感じられるこのアストロボットをご紹介したいと思います。
 

プレイヤーはジュゲム役

THE PLAYROOM VRの図

THE PLAYROOM VRには、ヘッドセットをしている人と、してない人が一緒に遊べるパーティーゲームがたくさん収録されていました

まずは簡単にどんなゲームかご説明したいと思います。このゲームは、主人公であるロボットのアストロを操作して遊ぶアクションゲームです。アクションは、敵を倒すパンチと、そしてジャンプ、ジャンプボタン長押しでできるホバリングで主に構成されています。スーパーマリオ64を想起すると言いましたが、いわゆるジャンプアクションのゲームと言えるでしょう。

ステージは基本的に手前から奥に進む1本道。自由自在にどこまでも探索しにいけるというわけではありません。上下には立体的ではありますが、奥に進むだけの一本道のステージで、道々に隠れているアストロの仲間のロボットを探し、ゴールするのがこのゲームの目的です。ゲームは5つの惑星を旅する設定になっていて、1つの惑星に4つのステージと1体のボスが存在し、各ステージに8体のロボットが隠れています。ボスと戦うには各ステージを回って、一定数以上のロボットを回収する必要があります。1本道のステージを進み、仲間のロボットを助け、ボスを攻略する、これがこのゲームの主な流れとなります。

このゲームの魅力についてお話する前に、もう1つ説明しておかなければいけないことがあります。それはカメラです。このゲームのカメラはそれこそスーパーマリオ64などと同じようないわゆるサードパーソン、第三者視点のカメラですが、自由に動かすことができません。向きは自由に変えられますが、場所はアストロの後方にいて、アストロが進むとカメラも自動で進んでいきます。ステージが手前から奥に進む一本道なので、カメラも基本的にアストロが進むにつれて、一本道をまっすぐ進むだけの動きをします。一直線のレールに乗っているようなイメージでしょうか。アストロは後ろにも戻ることができますが、カメラは一旦前に進むと、後ろに戻ることはできないようになっています。

そしてこれが非常に重要なことですが、このカメラ、実はこのカメラこそがプレイヤーです。このカメラの位置には、アストロとは別のロボットがいて、プレイヤーはそのロボットとしてゲームの世界に存在してます。このロボットはPlayStationのコントローラー、デュアルショックを持っているんですが、これがプレイヤーの手に持っているコントローラーとピッタリ同期しています。基本的に自分の姿を見ることはあまりありませんが、下を向けば足元は確認できます。

プレイヤーはアストロを後ろから追いかけるロボットです。このロボットであるプレイヤーが、手元のコントローラーでアストロを操作して、ゲームを進めます。プレイヤー自身は自由に歩くことはできませんが、一本道をまっすぐ、アストロの後ろをついていきますので、アストロを進めることで、プレイヤーも前に進みます。カメラの向きは自由に動かせるといいましたが、要はプレイヤー自身なので、プレイヤーが顔を動かして周りを見れば、移動こそできませんが首が動く範囲で自由に見渡せます。

プレイヤーはおそらく最初この複雑な構造に気がつかず、単なる第三者視点のアクションゲームだと思ってプレイするんですが、実際には、第三者視点のカメラがプレイヤーの主観視点になってるというVRならではの構造で、これを利用した仕掛けがいくつも出てきます。スーパーマリオ64で言えば、プレイヤーはカメラを持っているジュゲムなのです。
 

プレイヤーが見たところにアストロボットを向かわせる

PSVRの図

PSVRですから、プレイヤー自身がゲームの世界に入っているのです。ただし、アストロではありません

最初は、プレイヤーは普通のジャンプアクションだと思うかもしれませんが、本当は違います。これはVRのゲームで、プレイヤーはアストロを操作するロボットとして、ゲームの世界に入っています。その仕掛けが至る所に仕込まれています。

普通、ゲームのカメラはキャラクターがいる場所をうつしますよね。でも、このゲームは、一本道をアストロと一緒に進む自分自身が見える場所が、カメラです。だから、カメラとキャラクターの関係が逆で、アストロが向かうところをカメラが写し続けるのではなく、プレイヤーが見ているところに、アストロを操作して行かせるのです。例えば、スタートしたら、プレイヤーはまず周りを見渡すんです。もしかしたら、後ろを振り向けば仲間のロボットがいるかもしれません。そうしたら、アストロを操作して、自分の背面に向かわせれば仲間をゲットできると、こういう形になります。

この、プレイヤーが周りを見渡すという行為がゲームの随所に必要となっていて、崖があったら下を見れば、底の方に行けそうだといってアストロを落としてみたり、あるいは空を見上げて、自分の上にある足場をアストロに渡らせることもあります。また、進行方向から外れた遠くの場所に目をこらせば、何かありそうで、なんとか行けそうだと向かわせるのですが、その場合は、ずーっとむこうの方にいるアストロを遠目で眺めて操作することになるんです。

見渡したり、振り返ったり、顔を前に出してみたり、あちこち眺めながらこのゲームは進んでいきます。例えば、ちょっとした小部屋があって、アストロは端っこにある入り口から入れそうなんですが、外からは中の様子が見えないとしましょう。そんな時に、覗き穴をみつけたら、当然プレイヤーはそこから中をのぞいてみます。うまく中が見えて、敵がいるのでアストロボットを向かわせて倒そうと思うと、その敵がこっちに向かって粘液をかけてくる、なんてことも起こります。こっちというのはアストロじゃないですよ、プレイヤーに向かって粘液をかけてくるんです。
 

プレイヤーもゲームの中に居る

スーパーマリオ オデッセイの図

3Dマリオと決定的に違うのは、マリオではプレイヤーはゲームの中に居ません。マリオがプレイヤーの分身です。でも、アストロボットは、プレイヤーがゲームの中に居ます

敵から粘液をかけられるとどうなるか。目の前にべっとりと気持ちの悪い液体がへばりついて、視界が悪くなります。やっととれたと思ったら、同じ敵がまたベッと粘液をかけてくるではありませんか。そこで思わず顔を動かして粘液をかわすと、そう、かわせるのです。ただのカメラだと思っていたものが、自分自身だと気がつく瞬間があります。

飛んでいる蜂がアストロではなくカメラの方を攻撃してきて、ぶつかると目の前にヒビがはります。また来たと思ってとっさによけると、粘液と同じように、顔を動かしてよけられます。あるいはよけるだけでなく、よけるだけではありません。敵がサッカーボールを蹴ってきたらどうするでしょう。そう、頭を振ってヘディングで返します。目の前に壁がきたら、思い切って頭突きをすると壊せてしまうこともあります。

手に持っているコントローラーは、ゲームの世界と現実とをつなぐアイテムです。実際に手に持っているコントローラーと同期して、ゲームの世界に干渉できます。頭突きと同じようにコントローラーでモノを壊すこともできますし、あるいは、コントローラーからワイヤーを発射して、そのワイヤーの上をアストロに渡らせる、なんていうギミックもあります。コントローラーは水を放射したり、手裏剣を飛ばしたりと、色んなギミックを搭載させて、アストロボットを助けたり、一緒に戦ったりできます。
 

VRのアクションゲーム

PS4の図

今後発売されるVRのアクションゲームにも、大きなヒントをもたらしたのではないでしょうか(イラスト 橋本モチチ)

このゲームの構造は、VRならではの面白い仕掛けだけではなく、より多くの人が快適に遊ぶための仕掛けでもあります。もし、プレイヤーがアストロの視点で飛んだり跳ねたりして遊んだとしたら、それは大変にエキサイティングかもしれませんが、かなりの人がひどいVR酔いを起こすでしょう。一方、このゲームは、プレイヤーは自由に歩き回ることができず、一本道を手前から奥に進むだけですから、かなり酔いにくくできています。それでいて、アストロボットはあっちへジャンプして、こっちへ跳ねて、がけから飛び落ちて空に跳ね上がってと、大冒険を繰り広げます。

また、他のゲームにあるような仕掛けも、VRになることで迫力が倍増します。おそらく、ノーマルなアクションゲーム部分についても、VRということでこれほど面白くなるものかと驚く人は多いと思います。アストロボットをジェットコースターのような乗り物にのせて、次々と崩れていくレールをジャンプで渡りながら進むシーンがあります。よくある仕掛けですが、これはVRですから、スピード感や迫力がまるで違います。本当にジェットコースターに乗っているようなスリリングな体験が楽しめます。もちろん、飛んだり跳ねたりするのはアストロボットですから、酔うような動きは極力押させえられて快適に遊べます。ここが分離してあって、プレイヤーの視点は快適さを優先し、アストロボットはアクションを優先した作りにしているところがとにかく上手いくできているのです。

VR酔いは人によるので、絶体に誰でも大丈夫と保証はできませんが、ガイドはあまりの面白さに、4時間ずっとヘッドセットをつけて遊び続けていましたが、全く問題ありませんでした。そして、ゲーム自体も、じっくり何度も遊べるような、やりこみに耐えられる作りになっています。

おおむね、後半、それなりに難易度の高い箇所もありますが、アクションゲームとしての難易度は簡単な部類でしょう。また、リトライが非常に素早く行える上、リスタートするチェックポイントが短い間隔で置かれているので、ストレスなく何度も挑戦できます。

やりこみに関して言えば、ボス戦を介抱するのに必要な仲間のロボットは簡単に集まるものの、全ての仲間のロボットを見つけるには注意深くゲームの世界を見てまわらなければいけません。また、ゲーム中、透明になって隠れているカメレオンを見つけると、チャレンジコースが解放されます。カメレオンは各ステージに1匹隠れていて、それぞれのステージの特徴を反映した、難易度の高いコースが楽めます。これがまた、やりごたえがあって面白いのです。

アストロボットは、VRでどうしたら本格的なアクションゲームを快適に遊べるか、考え抜かれて作られています。VRのゲームで、長時間夢中になってやり込めるアクションゲームを、しかもプレイヤーが快適に遊べるように作るということを、大変高い完成度で実現させています。このゲーム自体の面白さはもちろんのこと、これからのVRゲームの発展にも、大きな影響を与える1本となるかもしれません。

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