気持ちが浮かない、やる気が出ない……心の不調が続くとき
日常的な不調と、心の病気の中間にある「病み期」。どちらに近い状態かを把握し、適切に対処することが大切です
気持ちが浮かない、何だかイライラする、落ち込んで、やる気が出ない……。こうした心の不調は誰にでもあるものです。一方で、これらの精神的な不調の深刻さや継続期間には大きな個人差があります。一晩ぐっすり眠れば朝にはスッキリしている人もいれば、数週間以上不調が続いてしまう人もいるでしょう。不調が長引き、いわゆる心の「病み期」に突入してしまったと感じることもあるかもしれません。
今回は、心の病み期から抜け出す方法を、精神医学的な見方から詳しく解説します。
心の「病み期」とは……気持ちが優れず、精神的な不調を自覚
「病み期」という言葉は、正式な医学用語ではありません。普段より気持ちが優れず、精神的な不調を自覚しているときに一般的に使われている俗語的なものと考えてよいでしょう。精神医学的に見ると、「病み期」という言葉の意味合いは、精神医学の用語でいうところの「エピソード」に近いものだと感じます。「エピソード」という単語自体は、海外ドラマなどでのエピソード1、エピソード2といった使われ方で耳慣れているかもしれませんが、精神医学の用語として使われる場合は少し異なります。例えば「精神病性のエピソード」といえば、それまで特に問題なく日常を送っていた人に、ある時期から幻覚や妄想などの精神病性の問題が始まり、しばらくの期間続き、次第に落ち着いていき、元の問題のない日常に戻っていくまでの、一連の期間やその時に現れていた問題のタイプを指して使われます。
例えば、問題なく日常生活を送っていた人が、ある時期を境に気持ちが落ち込み始め、うつ病を特徴づける抑うつ症状が一定期間続き、ある時期を越えてから次第に気持ちが軽くなっていき、また元の日常に戻っていく……。このように抑うつ症状がはっきり現れていた時期と抑うつ状態だったという一連の不調の内容を、「うつ病のエピソード」と言います。「病み期」はこれと同様、不調を感じている期間とそのときの精神的な不調の状態などを含めて使われる言葉かと思います。
「日常的で短期的な不調」と「心の病気」の間にある「病み期」
病み期は、誰にでも起こり比較的短時間で治る「日常的な気持ちの不調」と、先述したうつ病のような明らかな「心の病気」との中間にあたる心の問題と言えるでしょう。大切なのは、自己判断で「病み期に入ってしまった」と片づけるのではなく、適切な対処が必要な心の病気ではないかも考えることです。もしそのいわゆる「病み期」に生じている問題が、うつ病と、日常的な冴えない気持ちの中間にあたるものならば、その病み期は「うつ病的な病み期」と言えるでしょう。日常的な気持ちの落ち込みとははっきり違うものの、うつ病と診断されるレベルではない、ということもあると思います。
心の病気かそうでないかを見分けることは、「脳内に起きている不調のレベルを正しく見極めること」とも言えます。なぜなら精神症状の本態は、心の病気というよりも、脳内の不調を意味しているからです。最も簡易な見分け方としては、それが原因で「日常生活に生じている問題がどれくらい大きいか」「どれくらい続いているか」という2点です。
実際に、心の病気は、うつ病、統合失調症など病気のタイプによって、現れやすい精神症状に違いがあります。しかしいずれの場合も、それが原因で日常生活に生じている問題の深刻さ、そして、その持続期間が、心の病気の深刻度を判断する際の重要なポイントになっています。いわゆる「病み期」が、気分的な不調のみで日常には支障がないのか、日常生活に支障をきたしているのかは区別して考える必要があります。
定期的に病み期に入る場合の対処法・克服法……PMSや冬季うつ病等の可能性も
なかには、定期的に「病み期」に入ってしまうという方もいるようです。「疲れやすくなる」「昼間の眠気が強まる」「イライラが抑えられず、暴飲暴食をしてしまいがち」等、病み期の症状は人それぞれですが、もし病み期に入る時期に一定のパターンがあるならば、ぜひ把握しておきたいところです。例えば、「毎月、月経前になると病み期になる」「毎年秋から冬にかけて病み期だ」といった自分のパターンがわかれば、あらかじめ対策することもできるでしょう。症状の深刻度によっては、専門家の力を借りるべきだということも頭に入れておきましょう。このようなパターンがある場合、俗語的な「病み期」ではなく、「PMS」や「冬季うつ病」といった正式な病気が関連していることもあるからです。一方で、気分的に浮かなくても日常生活は何とか問題なく回っている場合、つまり、するべき勉強や仕事などもそれなりにこなせており、家族や友人との人間関係も維持できている状態であれば、一般に心の病気のレベルとは見なしにくいです。言葉をかえれば、専門家の力を借りる必要はまだなく、自力で充分対処できるレベルであるとも言えます。
例として「冬季うつ病」的な病み期が辛いのであれば、冬季うつ病の対処法を取り入れて自分で対処してみるのもよいでしょう。人工光を浴びる光療法を始め、晴れた日にはなるべく外へ出て太陽の光に当たるといったちょっとしたことが、冬季うつ病的な病み期対策としても有効なことです。
「病み期」の注意点……悪い習慣が身に付きやすい病み期
上記のような病み期から抜け出すためには、その病み期にあらわれている問題のタイプに応じて考えるべきですが、病み期の問題をさらに深刻化させないためにおさえておきたいポイントは、どのタイプの問題にも共通するポイントがあります。まず、病み期は、いわゆる悪い習慣、言葉を変えれば、後で後悔するような習慣が身につきやすい時期です。それには病み期の、当人の心の辛さを解く手段になり得る面があるからです。たとえばタバコの本数がかなり増える、あるいはお酒の量がかなり増えるようなケースもあります。
問題は、それでその時は心が軽くなっても、それは病み期の人が抱えがちな、日常の何か厄介な問題を解決することにはなりません。また、中枢神経系に作用する物質は量が過剰になると、一般に病み期の脳をさらに病的にしてしまう可能性もあります。こうした悪い習慣をなるべく身に付けないでおくことは、病み期の方が特に気をつけたいポイントといえます。
病み期は「自分に有効なストレス対策」を考えるタイミング
病み期のつらさが増すような場合、しばしば日常生活からのストレスが関わっていることがあります。病み期は普段以上にしっかりとストレス対策をしたい時期です。最適なストレス解消法は人それぞれですが、基本的なアプローチとしては、精神医学的にも広く推奨されている「睡眠時間の確保」「栄養バランスの取れた食事」「運動習慣」などの実践をしてみるのがよいでしょう。生活リズムを整えて、適切に運動等でエネルギーも消費できていれば、先に挙げたような悪い習慣につながる行為をする時間やエネルギーがなくなりやすいというメリットもあります。適切なストレス対策は、病み期を悪化させず、また、病み期からより早く抜け出すために有効です。
病み期の原因が精神病性的な場合の注意点
一方で、そもそも本人が自分が病み期に入っているとう自覚が薄かったり、なかったりするケースもあります。たとえば病み期に生じる問題に「精神病性」的な面がある場合です。「精神病性」という問題は、それが精神疾患のレベルになれば、一般に幻覚や妄想などが現われて、それらが現実でないということも分からなくなっている状態と考えてください。これは統合失調症などの精神病性障害を特徴づける問題でもあります。病み期の問題が気持ちが落ち込むといったうつ病的なものではなく、もっと精神病性的なものになると、他の問題が現れてきます。空耳や迷信を信じたりするようなことは、多くの人にもある問題のないものです。一方で、事実無根でもパートナーの浮気などを強く疑ってしまい、精神的なバランスを失いそうになってしまうようなケースは、精神病性的な病み期の問題になり得ることです。
こうした場合は、自分自身でいかにその誤りに気付けるかということが克服のポイントになります。いわゆる病み期と呼べるような問題で、まだ精神病性障害のレベルになっていなければ、冷静に考えることで、自分でも自分の思考の極端さや間違いにある程度気付くことができると思います。
具体的な手順としては、まずはどのような状況になると自分の誤りに気付きにくくなってしまうか、と逆の視点から考えていくと、分かりやすいかもしれません。たとえば、自分一人で悩みや問題を抱え込んでいると、その疑いや苦しみがいっそう強まると感じた場合、そうならないために誰かに思い切って相談してみることも良いでしょう。口にしただけで気持ちが軽くなり、客観的に自分を見るきっかけにもなる可能性があります。また、相手の意見を聞くことで自分の間違いに気付けるかもしれません。
また、身近な人がもしこのような病み期に入っていてそれに対する自覚がなさそうだと気づいた場合、精神病性的な深刻さが高くなっている可能性もあります。そうした際は精神科の受診をすすめてみることも事態を良い方向に向けるために大切なことは、ぜひ念頭に置いておいてください。
以上、今回は病み期から抜け出すために知っておきたい、精神医学的なポイントを詳しく解説しました。最後に繰り返しますが、もしいわゆる病み期による問題が深刻になっていて、心の病気の状態に近いと感じた場合は、自力で無理に対処しようとするのではなく、精神科などで専門家の力を借りるべきという点は、どうかご注意ください。