光田健一さん・インタビュー
民衆に歌いかけるナンバーでは、その後との落差を意識しています光田健一 韓国出身。10年オーディションに合格し『エビータ』で四季での初舞台を踏む。『ジーザス・クライスト=スーパースター』ペテロ、アンサンブル、『ガンバの大冒険』『リトルマーメイド』『エクウス』『劇団四季ソング&ダンス The Spirit』『オペラ座の怪人』ラウル等を演じている。(C)Marino Matsushima
「20代後半のイメージで演じています」
――ディズニー長編アニメーション版は以前からご存知でしたか?
「僕は劇団四季に入るまでは知りませんでした。韓国ではユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』の舞台版といえばフレンチ・ミュージカル版(『ノートルダム・ド・パリ』)が有名で、僕も学生時代にそちらの曲をよく聴いていたんです。
それが、四季に入って2011年にコーラスで出演した『劇団四季 ソング&ダンスThe Spirit』のオープニングで、『ノートルダムの鐘』のナンバーが使われ、ディズニー版もあるんだと知りました。それから数年が経って、この作品の舞台版を四季が上演するということになり、それぞれの役を調べたところ、フィーバスは役柄も音域も自分に合うような気がして挑戦したんです」
派手な作品ではない分、演出の見事さに圧倒されます
――オーディションではどんなことに留意したのでしょうか?
「当時、僕はまだメインの役を勤めたことがなく、自分にとっては台詞が大きなチャレンジでした。また言葉だけではなく、役の雰囲気をいかに出すかにも、集中して取り組みました」
――そして横浜公演でフィーバス・デビュー。実際に出演してみていかがでしたか?
「考えていた以上の衝撃を受けました。この作品は装置にしても照明にしても、それほど派手ではないのですが、会衆が喋りながら転換をするのが斬新ですし、音楽が素晴らしいのはもちろん、強いメッセージ性を持っていて、圧倒的な作品の力にとても惹かれます。
苦労したのは、登場時のナンバー“息抜き”で、野性味を出すことです。普段の自分とは全く性格が違うので、フィーバスらしく登場できるよう、特に気をつけていますね。二幕ではエスメラルダへの一途な思いを大切に演じています」
――役をつかむのに、どんな工夫をされましたか?
「“息抜き”では決められた動きが多いので、視線や歩き方まで自分の中で細かく設定して稽古しました。どうしたらもっと色男に見えるかといったことも研究しましたね。繰り返しやっていくなかで体に役柄がなじみ、通し稽古では“フィーバスらしい余裕が見えるよ”と言っていただけるようにもなりました」
“パリの人々よ……”と呼びかけるくだりは希望に満ちて歌っています
――お気に入りのシーンはありますか?
「囚われの身だったフィーバスが縄を解かれて、民衆に歌で訴えかけるところですね。とても大事なメッセージを伝えていますし、メロディも好きです。前奏も気に入っていて、わくわくするほど。エキサイトしすぎて物語から浮かないよう、注意しています(笑)」
――その後の展開とは落差がありますね。 「そうなんです。だからこそ、ここで希望をもって演じることが大事なんだと思います。後の展開とのコントラストがより鮮明になると思って、僕は晴れやかに歌っています」
――中世の物語であるこの作品を今、上演する意義はどんなところにあると思いますか?
「人間の本質は、昔も今もあまり変わっていないんだと思います。金持ちであろうとなかろうと、権力を持っていようといまいと……。そういう姿を見ながら、今を生きる人たちが力強いメッセージを受け取ることのできる作品なんだろうと思います」
――シリアスな作品ですと、カンパニーの雰囲気もおのずからシリアスな感じでしょうか?
「『ノートルダムの鐘』のカンパニーの人たちは、本当にこの作品が好きですし、稽古や出演を重ねていくうちにさらに好きになっています。この作品のメッセージをお客様に届けたいという気持ちで繋がっているので、先輩も後輩もなく、自由で、和気あいあいとした雰囲気がありますね。後輩も多いのですが、稽古の後にアドバイスしてくれて、すごく勉強になります」
始めと終わりで全く違うキャラクターに変化するのがフィーバスの魅力
――稽古でスコットさんから言われた言葉で、印象に残っていることはありますか?
「役についての疑問点をフィーバス役の3人で話し合うことが多いのですが、フィーバスの最後の行動についてアドバイスをいただけたのが印象に残っていますね。1幕で登場した時には明るく見えるキャラクターが、最終的にはまったく変わっているというのがこの役の魅力なのだ、と。名古屋ではここを掘り下げていきたいです」
――フィーバスの今後についても気になりますね。
「自分でもいろいろ研究してやっていこうと思っていますが、ぜひお客様にも想像していただきたいです」
――この部分に限らず、名古屋公演に向けて、全般的に深化している感触はありますか?
「いい意味で、変わったと思います。細かい疑問点が解決できたことで、今はより“リアル”な作品になってきたと思います。すでにご覧になった方にも、ぜひもう一度ご覧いただいて、変化を発見していただけたらと思います」
嘘のないリアルな芝居を、探求し続けたい
――プロフィールについてもうかがいますが、光田さんはなぜ劇団四季に入られたのですか?
「大学では演劇を専攻していて、ミュージカルは興味がないわけではありませんでしたが、歌やダンスを専門にやってきた人のものであって、自分がやるものではないだろうと思っていました。それが日本で研修の機会があり、劇団四季の舞台を観るうち、ここで稽古すればすごく勉強になるのではと思うようになったんです。特にバレエ等のレッスンが受けられることが魅力的でした」
――知らない世界に飛び込むのは大きな決断ではなかったですか?
「大学の先輩で劇団四季で活躍している方が何人かいたので、心の支えになりました。また、同期の神永、佐久間、谷原とは仲が良くて、いつも互いにアドバイスし合っているんです。さまざまな支えがあって、ここまで続けることができました」
――そして昨年、ついに『オペラ座の怪人』ラウル役に抜擢されたのですね。
「一番演じたい役だったので、初めてのメインの役がラウルでとてもうれしかったです。合格したと分かった瞬間のことは、今も忘れられません。その後、1年半くらいの稽古を経てラウル役としてデビューしました」
――ラウル役で一番大切なことは何でしょうか?
「立ち姿から何からたくさんありますが、特に歌ですね。『ノートルダムの鐘』はお芝居の中に歌が入っている印象ですが、『オペラ座~』は基本、全編が歌。きちんとした発声でないと何を言っているか分かりませんし、歌で芝居をするということの難しさを痛感しました。この経験があったからこそ、今のフィーバスにつながっていると感じます」
――どんな表現者を目指していますか?
「舞台の上で嘘がないように生きたいですね。長期にわたって一つの役を演じるなかで、毎日新鮮に演じることの難しさをあらためて感じました。“リアル”に生きる姿をお見せすることを、これからも大切にしていきたいです」
――例えば恋に落ちるシーンを毎日演じるにあたって、どんな工夫をされていますか? 以前、韓国で『アイーダ』のラダメス役の方にお会いした時、“毎日、目であるとか肌であるとか、相手役の違う箇所を見つめるようにしている”というお話をうかがったことがあります。
「そうですね、自分のこれまでの人生体験などと比較しながら、新鮮さを持ち続けるよう心掛けています。また、劇団四季では一つの役を複数の俳優が演じており、例えば『ノートルダムの鐘』横浜公演では、4人のエスメラルダ役の俳優と共演できました。4人とも台本にある言動は同じでも、(間合いなど)役へのアプローチが少しずつ違う。こういう場合はこう受け止めて反応するといいんだな、と勉強になりましたね。スコットさんも、“キャストが固定化していないことで、劇団四季の舞台はその都度、新鮮。それがこのカンパニーの良さなんだよ”とおっしゃっていました。こうした機会を通して研究を続けていきたいです」
*公演情報*『ノートルダムの鐘』上演中~3月31日分まで発売中=名古屋四季劇場 公式HP