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佐々木勇気六段の凄さと伝説!藤井聡太を止めた男

佐々木勇気。一般には史上最年少棋士・藤井聡太の連勝記録をを止めた棋士として語られることが多いだろう。しかし、誤解を恐れずに書けば、そんなことは、たいしたことではない。佐々木の未来の将棋界に及ぼすであろう影響を考えれば、そう言わざるを得ない。今回は、そんな佐々木勇気の伝説に迫る。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド

「升田幸三賞」獲得!佐々木勇気の伝説

佐々木勇気の伝説

佐々木勇気の伝説
 

升田幸三賞は将棋界のノーベル賞である。升田については過去記事『升田幸三のエピソード!将棋でGHQを詰んだ棋士』を御覧いただきたいが、「新手一生」を掲げ、常に新しい戦法を希求し続けた昭和の大棋士だ。その功績をたたえ、新戦法を考案した者や、定跡の進歩に貢献した者に与えられるのが、この賞である。

2017年、その栄誉に輝いたのが今回ガイドする佐々木勇気だ。受賞対象となったのは「横歩取り勇気流」。「横歩取り」とは、序盤に飛車で横にある歩を取るという戦法だが、よほど将棋に詳しい方でなければ、ピンとこないであろう。この戦法を使うと序盤-中盤-終盤と進む将棋が、序盤からいきなり終盤に入ってしまうこともある。風雲急を告げる大乱戦への入り口でもあるのだ。ここで、2つの言葉を紹介し、その雰囲気だけでも掴んでいただこう。
 

「横歩取り」は激烈な戦いの入り口

まずは「横歩3年の患い」。これ、将棋格言の一つである。この戦法を用いるとどうにも形勢が悪くなる。まるで病魔に襲われたように。使わぬに越したことがない。そういう意味である。昭和初期まで、常識とされた格言だ。一方で使うなと言われれば、試してみたくなる棋士もいる。荒海だからこそ、あえて飛び込む者も出てくる。次は、そんな棋士の、将棋史上に刻まれた言葉である。

元・日本将棋連盟会長の米長邦雄(関連記事『米長邦雄(前編)~先手を指し続けた男』)は南芳一王将への挑戦の際にこう挑発した。

『横歩も取れない男に負けては、ご先祖様に申し訳ない』

暴言とも思える言葉には、タイトル戦を盛り上げようという米長独特の意図も見え隠れするが、何より、「横歩取り」はプロ棋士をもってしても覚悟のいる激しい戦法だということも観衆に伝わる。ちなみに、挑発された南は堂々と横歩を取り、勝利も手にした。米長の煽りも含め、歴史に残る勝負となった。

盤上を大乱世へといざなう「横歩取り」。これを研究し、オリジナルな工夫を加え、升田賞を受賞したのが佐々木勇気だ。名は体を表す、というが、まさしく佐々木は勇気ある棋士なのだ。
 

大一番で羽生も採用

一般には史上最年少棋士・藤井聡太(関連記事『藤井聡太七段の凄さを現役プロ棋士に聞いてみる』)の連勝記録をを止めた棋士として語られることが多いだろう。しかし、誤解を恐れずに書けば、そんなことは、たいしたことではない。佐々木の「横歩取り勇気流」は未来永劫の将棋界に大きな影響を与えるものであり、継承されるものだ。

その証左を挙げよう。2017年7月、当時永世六冠だった野獣・羽生善治は最後の獲物「竜王戦」へ爪を研いでいた。その本戦において、村山慈明、そして稲葉陽を相手に「勇気流」を採用。激烈な将棋へ引き込んで勝利した。「勇気流」を永世七冠獲得への大きな武器としたのだ。
では「横歩取り勇気流」とはどんな戦法なのか。あまり将棋に詳しくない方のために解説しよう。興味のない方は飛ばしていただきたい。
 

「横歩取り勇気流」とは

以下の局面を御覧いただきたい。先手(下側)が「勇気流」だ。まず、緑の丸印に注目していただきたい。飛車が後手(上側)の3四歩を取っている。これが横歩取りである。そして、赤丸、玉将が6八に上がっていることにも注目してほしい。これが「勇気流」なのである。えっ?これだけ?そうお思いの方も多いだろう。実は、そうなのである。

だが、ここで、青丸の金将を見てほしい。この時点で、この金将を守る駒はない。つまり、無防備だ。であれば、例えば後手が角交換をし、その角をピンクのマスに打ち込めば、金将を取られるか、あるいは、開始早々に馬を作られてしまう。先手、万事休すではないか。

やはり「横歩3年の患い」だ。ゆえに研究されてこなかったこの局面。ところが、佐々木はここから新戦法を研究し始めたのだ。そして、既述のように羽生でさえ採用する恐るべき戦法へと成長させた。守らずに攻めに転じる秘策だ。ここから先は専門的になりすぎるので省略するが、佐々木の勇気だけはおわかりいただけたと思う。
横歩取り勇気流

横歩取り勇気流


佐々木は強い。近い将来、棋界を背負って立つ棋士となる。それがガイドの確信だ。そして、強さ以外にユニークという観衆を引きつける魅力を持っている。これは、プロとして大いなる財産だ。ここまでは硬い話で進めてきたが、ここからは、佐々木の個性を、伝説と言ってもいいかもしれないをエピソードとともにガイドしたい。
 

佐々木勇気エピソード

1.スイス生まれ
出生地はスイスである。「あなたのお家はどこ?」と聞かれたブレネリが答える、あの「スイスランドよ~」なのである。その第2の都市ジュネーブで、1994年8月5日、産声を上げた。そして、2歳までをフランスで過ごしたという。だからどうした?と言われれば、それまでだが、英雄伝説を感じさせる生い立ちではないか。生意気を言わせてもらうなら、伝説が英雄を生むのではない。逆に英雄が伝説を生むのでもない。英雄を楽しもうとする大衆の感性が伝説を生むのだ。その後、埼玉県三郷市へと居を移す。ちなみに佐々木自身は出身地を三郷市としている。

2.祖父の気配り
子育てを経験した方なら痛いほどわかると思うが、幼児は何でも口にする。だから手の届くところに、うかつに物はおけない。囲碁好きだった佐々木の祖父は、碁石を眺め、こう考えた。

『碁石はチョコレートに見えるぞ。孫の勇気が口にしたら危ない。囲碁は危険だ』

それで、将棋が選ばれたという。たしかに碁石はそう見えなくもない。だが、将棋駒だってクッキーに見えなくもないと思うが。いずれにせよ、孫思いの祖父の気配りが「勇気流」誕生の遠因となっていたのだ。

3.普通に高校生活
成長した佐々木は、16歳でプロ棋士となる。都立白鴎高校在学中のことだったが、これは、2018年現在、史上6番目の年少記録だ。ちなみに1位から順に、藤井聡太、加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明。そうそうたる面々だ。プロ棋士になるための奨励会という生き馬の目を抜く世界。高校進学を諦めたり、退学をしてまで将棋に打ち込む奨励会員たちもいる中での快挙。

これは、当時の将棋連盟会長であり、教育委員としてこの学校の設立にも関わった米長を歓喜させた。上気していわく、

『東京都教育委員会が「日本の伝統文化重視」という目標を掲げ、設立したのが中高一貫の都立白鴎高等学校です。伝統文化を積極的に取り入れている学校の在校生がプロ棋士になった事は、都教委の勝利でもあります』

米長の勝利宣言によって、快挙は偉業へと昇華する。そして当の佐々木は語る。

『ただ普通に高校生活を送りたかったんです』

このギャップ。最高である。

4.スキップする棋士
ある日、佐々木はスキップをしながら将棋会館へやってきたという。これは、大先輩棋士の森下卓が暴露した。ちなみに目撃したのは将棋会館の職員だそうだ。

『しかも職員さんに気づかずにスキップで素通りしたらしいです。幸せだったんでしょう』

将棋会館といえば、佐々木の勤務地であり戦場だ。そこにスキップでやってくる感性。これは尋常ではない。これを聞いた元竜王・糸谷哲郎(関連記事『「怪物大王」糸谷哲郎とハイデガー』)は「佐々木勇気伝説」と呼んだ。ちなみに、佐々木自身はこの伝説を否定している。

『違います。スキップは帰りだったと思います』

と語ったそうだが、いやはや、すごい感性だ。

5.餅に餅
佐々木は食事にも「新手一生」を好むようだ。みろく庵という店の「肉豆腐」の鍋に、ある食材のトッピングを注文した。それは餅である。この餅トッピングは反響を呼び、それ以降、注文が激増したという。でも、ここで終わらないのが勇気流。なんと「力うどん」を注文した際にも餅トッピングを頼んだという。

ご存じない方のために野暮を承知で書こう。きつねうどんにはアゲが入っているし、月見うどんには玉子が入っている。力うどんとは、餅が入ったうどんだ。つまり、この注文は、餅の上に餅をトッピングという奇手なのである。いや反則手の「二歩」であろうか。対局の食事にはお盆とコップを持参しするというコダワリ派だが、さすがに出前部門の升田幸三賞は無理か。

6.下見
その昔、剣豪・宮本武蔵は、吉岡一門との果たし合いの際に、決戦の地一乗寺下り松の山道をしっかり下見した。天才イチローは試合前に球場を下見することが子どもの頃からの習慣だという。佐々木も同様のことをした。藤井聡太との戦いを前に、藤井の対局を観戦に行ったのである。報道陣でごったがえすであろう対局室の隅に、他に誰もいない時から、その姿はあった。これも異例中の異例。目撃した前出の森下は、冗談交じりにこう語っている。

『異様な感じで……。佐々木くん、佐々木くんと話しかけても返事もしないし、大丈夫なのかなと思いました。眼も危ないし……』

後ほど、佐々木は「(藤井の対局を)肌で感じるために来ました」と述べているが、森下が異様と感じた、この凄み、勝負にかける執念こそ、勝負士・佐々木の本当の姿ではないだろうか。ガイドもこの時の映像を目にしているが、その表情はまさしく升田幸三のそれであった。森下は続ける。

『その後に事務所であったらニコニコして……』

このギャップこそ、佐々木勇気の魅力なのである。
 

終わりに

再度書く。佐々木勇気は強い。必ずや棋界の未来を背負って立つ。これからも、公私ともに新手を指し続けてくれるだろう。そして、ガイドはその佐々木を見続けていく。お読みいただき、ありがとうございました。
 

追記

■敬称に関して
文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
  1. プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
  2. アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
  3. その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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