損害保険/損害保険関連情報

親名義の家に子が住む場合の火災保険は?管理組合編

【連載:第3回】今回は、親が所有する分譲マンションに住む人の、火災保険コンサルティングの最終回。分譲マンションは、専有部分と共用部分に分かれています。専有部分は各区分所有者が、共用部分はマンション管理組合が火災保険をかけることになっています。今回、マンション管理組合が加入する保険、主に地震保険について見ていきます。

清水 香

執筆者:清水 香

火災保険の選び方ガイド

  • Comment Page Icon

「マンション管理組合」が加入する火災保険・地震保険

実際にガイドが受けた火災保険コンサルティングの様子をコラム上で再現してお届けする連載の最終回です(第1回「基本編」第2回「親の保険編」)。

相談者は、引き続き30代会社員のMさん。父親が所有する分譲マンションに住んでおり、室内(専有部分)の火災保険は父親が、家財の火災保険はMさん自身が加入しています。分譲マンションではもうひとつ、保険の掛け手がいます。それは「マンション管理組合」。マンション管理組合が加入する保険は、災害時の生活再建を進める上で非常に重要な役割を果たすもの。

そこで今回は、マンション管理組合が加入する火災保険・地震保険について見ていきます(掲載に際しては、Mさんの同意および承諾を得ています)。
 
管理組合

共用部分は、マンションの管理組合が火災保険に加入する


清水 先日、分譲マンションでは「火災保険が3つ要る」とお話ししました(第1回「親名義の家に子が住む場合の火災保険は?基本編」参照)。まずは専有部分。Mさんのお住まいでは、マンションの所有者であるお父さまが建物、つまり専有部分の火災保険に加入していますね。そして家財の火災保険については、入居しているMさんご自身が加入しています。

Mさん そしてもうひとつが、マンション管理組合、でしたね。父が所有していることもあって、あまり意識したことはなかったのですが。
対象物ごとに違う、火災保険の加入方法。分譲マンションの共用部分は、マンション管理組合が入る。

対象物ごとに違う、火災保険の加入方法。分譲マンションの共用部分は、マンション管理組合が入る。

清水 そういう方が多いかもしれません。ですが、マンション共用部分にきちんと保険がかけられていないと、災害で被災した後などに、生活再建がうまく進めることができないことがあるんです。非常に重要なポイントですね。

Mさん えっ、重要なんですね。ぜひ教えてください!

清水 はい。ではまず、おさらいから。多くのマンションが採用している国土交通省のマンション標準管理規約によると、専有部分とは「壁から内側の部分」を指しています。室内の設備、内装などの部分です。それら以外の「壁より外側の部分」は、共用部分と言います。建物の躯体部分とか、エントランス、エレベーター、その他の設備ですね。意外ですが、ベランダや窓、玄関扉も共用部分です。

この共用部分については、マンション管理組合が一括で火災保険や地震保険に加入するのが一般的です。前述の国土交通省のマンション標準管理規約では、火災保険や地震保険について以下のように記しています。
 

(損害保険)
「第24条 区分所有者は、共用部分等に関し、管理組合が火災保険、地震保険その他の損害保険の契約を締結することを承認する。
2 理事長は、前項の契約に基づく保険金額の請求及び受領について、区分所有者を代理する。」
出典:国土交通省のマンション標準管理規約


Mさん ということは、共用部分については、すでに火災保険や地震保険に入っていると考えていいんでしょうか?

清水 そうですね、少なくとも火災保険には加入しているはずです。契約内容によりますが、多くの場合はそれによって共用部分の設備や施設の事故、共用部分が被った風水害等の自然災害による損害をカバーできます。
ハザードマップを見ると、Mさんがお住まいのエリアは水害の危険があるので、ご自身が入る保険(お部屋や家財)はもちろんですが、マンション管理組合が入る共用部分の保険にも、水災補償がついている必要がありますね。そのほかに、マンション施設内で起きた他人への事故をカバーする施設賠償責任保険などがセットされている場合もありますし、全居住者用に個人賠償責任保険をセットしていることもあります。個人賠償責任保険はご自身で入っている保険と重複する場合もあるので注意しましょう。ただし、地震保険は加入していないことも多いので、確認が必要です。
 

マンション修繕には多額の費用がかかる。住民合意に高いハードルが……

管理組合

地震保険は「住民の合意形成を図るためのツール」


Mさん そもそもマンションの建物自体に、地震保険って必要なんですか? 部屋の中が地震で揺れて内装や設備が壊れたり、家財が落ちたりして壊れることはよくあるし、だから住民が個別に地震保険に加入したほうがいいのはわかります。でも、マンション自体は丈夫で壊れにくいはずですよね。

清水 確かに、マンションは丈夫なイメージがありますね。ですが東日本大震災では、仙台だけでも100棟以上のマンションが仙台市から全壊認定されているんです。熊本地震でも19棟が全壊するなど、マンションであっても深刻な被害を受けることがあります。しかし、被害を受けたマンションを再建あるいは修繕するには、大変な費用がかかります。

Mさん 住民が負担している「修繕積立金」がありますよね。それでは足りなくなることもあるのかな?

清水 修繕積立金は、マンションの老朽化で必要になる将来の定期的な修繕に備えて、住民みんなで貯めておくお金です。ですが、日本経済新聞の調査によると、全国のマンション物件の修繕積立金のうち、75%が国の目安を下回っていたとのデータもあります。さまざまな原因があるとは思いますが、予定通り貯められなければ、定期的な修繕ができません。老朽化に対する修繕積立金が十分でない時期に地震が起きれば、もっと大規模な修繕がすぐに必要になる可能性もあります。

Mさん まだ修繕資金が貯まっていないのに、突然、修繕を要する場合もあるわけですね。確かに、地震が起きる時期は私達にはわかりませんからね……。

清水 生活再建を進めるには、まず住まいをどうにかしなくてはなりません。再建するか、あるいは修繕するか。その時、住民みんなで話し合い、一定の合意を形成して先に進めることになります。ですが、財源が不足していたら、修繕にあたり、住民全員の追加負担が必要になるかもしれません。仙台市で全壊認定を受けたあるマンションの例ですが、被災後に建て替え費用を試算したところ、約30億7000万円が必要で、1戸あたりの負担は約1600万円になったそうです。

Mさん それは厳しい。部屋の中も被災しているわけですからね、さらに一時金の負担なんて。余計に払えない人もいるかも。

清水 ローン返済中の人もいれば、年金暮らしの高齢者もいるでしょう。財源が確保されていないと、被災後にマンションをどうするかの住民合意が困難になる可能性が高いのです。

Mさん それで地震保険で財源確保、というわけですね。

清水 そういうことです。マンション管理組合が加入する地震保険は、建物の構造部分(主要構造部)の損害に着目して保険金が支払われるので、構造部分(主要構造部)に損害が出たら保険金が支払われます。一戸建てと同じで、火災保険金額の30~50%の範囲で地震保険金額を設定します。支払われる保険金は損害に応じ「全損(100%)」「大半損(60%)」「小半損(30%)」「一部損(5%)」の4区分(※契約始期が2017年1月1日以降の場合)。たとえば、共用部分の火災保険金額が5億円なら、2億5000万円が支払われる地震保険金の上限ですね。

Mさん 実際にはどう払われているんですか?

清水 東日本大震災で被災した仙台市のあるマンションの例を見てみましょう。宮城県は地震保険をセットしている火災保険契約が8割を超えていて、地震保険が日本一普及しているところです。そのマンション管理組合では、地震保険金額を2億6000万円で設定していました。東日本大震災で半損(※契約始期が2016年12月31日までは「全損・半損・一部損」の3区分)の認定を受け、1億3000万円の保険金を受け取りました。修繕工事費の見積もりは約1億円だったので、保険金の範囲で工事ができることになり、当初うまく行かなかった住民合意が、その後はスムーズに進んだといいます(一般社団法人宮城県マンション管理士会『震災とマンション』<平成23年11月10日版>より)。ただ、保険金だけで修繕できないケースももちろんあるので、ケースバイケースです。

Mさん 少なくとも地震保険金がなかったら、1億円の修繕の合意すら難しかった、ということですね。そういえば、マンションのエレベーターや貯水槽が壊れることもありますが、この部分は「構造部分(主要構造部)」ではないですよね? そういう場合も支払われますか?

清水 エレベーターや貯水槽は構造部分(主要構造部)ではないので、その部分の損害だけだと保険金は支払われません。ただ東日本大震災では、マンション構造の損害とエレベーターの損害に相当程度の被害相関が認められています。つまり、エレベーターに損害が出ているマンションだと、主要構造部にも損害を受けている可能性が高いわけで、そういった場合はもちろん保険金が受け取れます。

 

管理組合の地震保険加入率は「4割足らず」

管理組合

分譲マンションこそ地震保険が重要な役割を果たす


清水 前述の『震災とマンション』では、「今回の震災では、管理組合が地震保険に加入していたかどうかで、その後の復旧工事に対する合意形成の進み方が大きく異なっています」「地震保険に加入していない場合は、復旧工事に向けての資金面での合意形成が大変に難しくなります」と、地震保険の重要性が指摘されています。分譲マンションでは、一戸建てとは異なる合意形成の難しさを踏まえた準備が必要なんですね。

Mさん なるほど、こうした点はあまり考えたことがありませんでした。深刻な問題ですね。でも、マンション住まいの人でも、知らない人は多いのではないですか?

清水 そうかも知れません。マンション管理組合の地震保険の加入率は、4割足らず。火災保険に地震保険をセットしている人は64%ですから、全体から見てもずいぶん低いです。

Mさん ウチの管理組合はどうなんだろう……。調べたほうがいいですね。もし、入っていなかったらどうすれば入れますか?

清水 マンションの管理組合が、新たに地震保険に加入する場合、住民の合意が必要です。理事会・総会で過半数の支持があれば契約できるとされていますが、月数千円程度とはいえ個々の住民の負担が増える話なので、反対する人がいるかもしれません。しかし、大きな地震でマンションに被害が生じたら、その費用は莫大なものになる可能性があるのです。住民全員のその後の生活設計、ひいては人生に関わる問題なので、住民がその危機意識を全員で共有して、準備を進められることが望ましいでしょう。

Mさん 「備えあれば憂いなし」ですよね。早速、父と一緒に調べてみます。今回はとても勉強になりました!

【関連リンク】 
親名義の家に子が住む場合の火災保険は?基本編
親名義の家に子が住む場合の火災保険は?親の保険編 
【編集部からのお知らせ】
・「家計」について、アンケート(2024/11/30まで)を実施中です!

※抽選で30名にAmazonギフト券1000円分プレゼント
※謝礼付きの限定アンケートやモニター企画に参加が可能になります
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます