退職後、毎日が無気力に……老年期うつ病とは

孤独な老人

退職後にすっかり無気力になってしまった……実は認知症よりも多い高齢者のうつ病。早期発見ができにくい問題も抱えています



生きがいや張り合いのある老後の過ごし方は、誰もが真剣に考えるべき大きなテーマの一つです。そもそもいつからが「老後」なのかは、仕事のスタイルや個人の考え方、健康状態などによってもかなり違うでしょう。いずれにしろ「人生100年」と言われるような時代では、老後という概念自体も変わっていく可能性があります。

もし「老後」をそれまでの生活に区切りをつけて、違う生活スタイルに入っていく後半生と考えるならば、定年退職をして仕事から完全にリタイアしてからが老後だと考える方が多いかもしれません。専業主婦の方は子どもが巣立ち、配偶者が定年退職をしてからと考えるかもしれません。いずれの場合も「第二の人生の始まり」と前向きに楽しめることがベストですが、老後に気を付けるべき心の病気もあります。

今回は、多くの方の老後の生活の質に大きく関わる心の病気の一つである「老年期うつ病」について解説します。
 

認知症より発症率が高い高齢者のうつ病……うつ病の好発期でもある老年期

加齢とともに心身の機能は変化します。人によっては、身体の自由がかなり効かなくなってしまうこともあるでしょう。若い頃とは見た目も変わりますし、体の機能も変わっていくのはある程度避けられないものです。自分が思うような速さで歩けずもどかしく思っているところで、誰かが軽やかに脇を走り抜けていき、ハッとするようなこともあるかもしれません。こうした心身の変化や、特に中枢神経系や内分泌系の機能の変化は、うつ病のリスク要因の一つになります。

また、年齢が上がるにつれ、悲しい出来事に直面することも増えがちです。自分の両親や配偶者、身近な古い友人の心身の不調や死別などに強いショックを受けることもあるでしょう。こうした心理的な問題も加わるため、老年期は実はうつ病の好発期なのです。実際にどれくらいの数の方が老年期にうつ病を発症するのかというデータには、統計によってかなりの幅がありますが、だいたい10~20%ぐらいの数字が示されています。

言葉を変えれば、老年期に多くの方が心配される病気である認知症よりも、発症率が高い病気だと言えます。
 

認知機能の衰えや認知症と思うことも……老年期のうつ病に気付きにくい理由

うつ病を発症した場合、早い段階で治療を開始できるかどうかは、その後の経過の良し悪しに大きく影響します。しかし、うつ病は早期治療が大切だとわかっている方でも、実際には治療の始まりが遅れがちなことが多いものです。特に老年期はうつ病の可能性に自分も他人もすぐに気づけないことがあります。

まず一般に、うつ病の症状にはかなりの個人差があり、決して皆同じように発症するわけではありません。またうつ病の発症時には異なるタイプのいくつかの問題が同時に現れてくることが多く、記憶力や集中力などの認知機能に問題が現れることも少なくありません。
 
うつ病を発症するということは、中枢神経系の機能に何か治療が必要な問題が生じています。それゆえに心身の機能がスローダウンしてしまい、頑張りたくても頑張れないような状態になっていきます。頭の回転も普段よりかなりスローダウンして、場合によっては口から言葉を出すことすら億劫になることもあります。もし年配の方がそのような状態になれば、周りの方は認知症を疑われるかもしれません。しかしうつ病を発症しているとは、全く予想できないことがあります。
 

原因不明の頭痛・腰痛などの体の不調がうつ病症状のことも

また、うつ病で現れる症状は、必ずしも精神的な問題ばかりとは限りません。頭痛や腰痛などの身体的な不調も、うつ病の発症時に深刻化することがあります。個人差がありますが、気持ちの落ち込みよりも、これらの身体症状に強く悩まれる方もいるほどです。

その場合はうつ病とは本人も気づきにくく、精神科ではなく整形外科などを受診されるでしょう。年齢とともに増えがちな身体症状が、うつ病発症時にも現れやすい症状であるということも、ぜひ頭に入れておいてください。

 

自殺の原因にもなるうつ病・精神科での抗うつ薬処方で適切な治療を

うつ病の問題点の一つは、自殺願望が現れやすくなることです。もし当人の口から死をほのめかすような言葉が出た場合、軽い気持ちで聞き流してしまってはいけません。実際にはうつ病による深刻な気持ちにもかかわらず、周りがそれらの言動が認知の低下によって出た言葉だとあまり真剣に受け止めないこともあります。

自殺願望が出現した段階では、すでにうつ病がかなり深刻化している可能性もあります。自殺とうつ病の関わりが深いことはよく覚えておいていただきたいことです。実際に自殺が起きた状況では、およそ半数近くの方がその時点でうつ病と診断できる可能性があると推定されています。

自殺問題はどの年代でも深刻な問題ですが、老年期の自殺問題はこの時期のもっとも深刻な問題の一つです。対処のための基礎知識として、「死にたいという言葉は、深刻化したうつ病の症状」として、あらかじめ頭においておきたいものです。そしてもしもの際は、すぐ精神科を受診すべきことはぜひ覚えておいてください。

そしてうつ病を精神科で治療するということは、その原因になっている中枢神経系の問題に適切に対処することです。治療の柱になるのは抗うつ薬です。また、症状を深刻化させている心理的な問題がある場合は、一般に認知行動療法などの精神療法を並行して行い、対処していきます。
 
その際、周りは励ましが逆効果になりやすいことも知っておきましょう。通常なら効果があるかもしれませんが、「頑張って」という強い励ましや、楽しいイベントへの誘いなどが、相手の気持ちを楽にするとは限りません。かえって相手の気持ちを辛くさせてしまう可能性もあります。うつ病を発症するということは、本人が頑張りたくても頑張れない状態になることだからです。また、今まで楽しかったことをまるで楽しめなくなることも、うつ病の基本的な症状であるということをぜひ知っておいてください。
 

老年期うつ病の予防法・対策法……孤独な生活環境を避けることも大切

老年期に限らず、うつ病の完全な予防法は、残念ならが現時点ではありません。しかしうつ病のリスク要因をできるだけ避けていくことで、かなり違いが出てきます。これは、病気のタイプは違いますが、風邪やインフルエンザの場合でも、100%の感染予防法はないものの、マスクの着用や手洗いなどを心がけることで、かなり違いを出せることと同じです。

具体的には、老年期うつ病の心理的なリスク要因の一つである、孤独な生活環境を避けることなども有効と言えるでしょう。なるべく普段から社会的なネットワークを大事にすることは、老年期うつ病の対策にもなります。

また、うつ病は中枢神経の機能に問題が生じることがその本態であるため、中枢神経系に作用する薬物に注意することも有効です。具体的には飲酒問題などを抱えている場合、それを解決することはうつ病のリスクを下げることにもなります。

また、何らかの病気を患うことで不安になり、元気がわかなくなることもあるでしょうが、これも同時にうつ病のリスク要因になってしまいます。できる限り気持ちを前向きにし、普段から食事や睡眠、そして定期的な運動習慣を持つことで体の状態をしっかり維持し、生活習慣病などをしっかり遠ざけていくことも、結果的に有効なうつ病対策法と言えるでしょう。

以上、今回は老年期うつ病について詳しく解説しました。最後に繰り返しますが、老年期のうつ病はなかなか自分もまわりも気付きにくいことがあります。もし老年期うつ病の可能性があると気付かれたときには、どうかすぐ精神科や神経科を受診して、必要な診断と治療を受けられるようにしてください。
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