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音楽のためだけのパソコン?!

ハードディスクトランスポートと呼ばれるパソコンがあります。音のためにはすべてをつぎ込む人々が作り出した究極のパソコンを紹介します。

執筆者:中村 伸



音のためにすべてを捧げる人々

 皆さんはパソコンでいつも何をしていらっしゃいますか?メールやWEBブラウズ、Officeソフトを使ったり年賀状を作ったり、デジカメやビデオのデータ処理、テレビの視聴というのが通り相場でしょう。筆者もご多分に漏れず、メールやWEBブラウズは毎日、デジカメのデータも週に1回程度データ処理を行い、ビデオ代わりのテレビ録画も結構行っています。筆者が多くの皆さんと違うのは、それぞれの処理に専用のパソコンを用意してある、ということでしょう。今回取り上げるPCM-S1「ハードディスクトランスポート」と呼ばれる、ハイエンドオーディオのための機器は、実はパソコンのちょっと変わった使い方が発展して出来た、ある意味でジュークボックスのような専用の装置なのです。

 ハードディスクトランスポートという名称は、ハイエンドオーディオの世界ではすでに当たり前になっている、CDトランスポートに対して付けられた名称です。で、CDトランスポートって何?と言う質問になりますね。ハイエンドオーディオの世界では、単機能の機器をさらに細分化して、それぞれのパートに最高の設計とパーツをつぎ込む、ということが日常的に行われています。ということで、CDトランスポートとは、CDプレーヤーの機械部分のみを取り出したものです。ディスクの回転機構やピックアップなどを吟味に吟味を重ね、デジタル-アナログ変換はそれ専用の機器に任せるという、まさに機械部分のみの機器です。単体ではアナログの信号を得ることが出来ません。デジタル-アナログ変換器を通さなくては音が聞けないのです。CDをかけて「再生」するからCDトランスポート、これに対し、HDDに「録音」しておいて「再生」するのでHDDトランスポートというわけです。

 そして、これが至って音が宜しい、という特徴を備えています。一般人には理解しがたい価格にもかかわらず、音を愛してやまない人々はこれを購入して、日々良い音に酔いしれているとのことで、筆者の古いおつきあいのイケオンさんで実物を取材させて頂きました。

日本でも有数のハイエンドオーディオショップ「イケオン」

 ここでちょっとイケオンさんを紹介しましょう。東京は池袋西口に店を構えるハイエンドマニア向けのオーディオショップです。筆者も20年以上前から足繁く通って、いろいろとオーディオの経験を積ませて貰っていました。しばらくご無沙汰していたのですが、最近オーディオ担当の蓮見さんとひょんなことからばったりお目にかかり、「ハードディスクトランスポート、いいよ!」と勧められていたので、じゃあ機会を見つけて拝見させてください、ということで見せて頂くことになった次第です。

取材というより、オーダー試聴会

 今回の取材では、PCM-S1のもう一人の生みの親である株式会社デノンの長江さんも同席されての楽しいひとときとなりました。長江さんが再三「これはオーディオ機器であってパソコンではないと思ってください」と仰るのですが、オーディオ機器というのは「百見は一聴に如かず」であり、「百聞は一聴に如かず」なので、さすがに筆者もパソコンとしてどうなのか、の延長線から抜け出ることが出来ません。

 スペックを簡単におさらいしましょう。Intel、またはMSIのマイクロATXマザーボードにCeleron、若しくはPentium 4を搭載し、ハイエンドオーディオカードを付けた、それだけではごく普通のPCです。が、なんとケースがオーディオ機器並みの、押し出しアルミなどをふんだんに使った贅沢な作りになっています。電源もしかりで、はやりではない、本格ファンレス電源を搭載しています。ハードディスクトランスポートの命とも言えるHDDは、やはりアルミの頑丈なフレームでがっちりシャーシにくわえ込まれています。そう、ケースと言うよりシャーシと言った方がふさわしいほどの出来映え、重量を持っています。静音ブーム真っ青の静けさを持ち、シャーシを触っても振動一つ感じないほど丈夫です。

 取材と言うこともあり、一通りの説明を受けた後、現在のイケオンさんのスタンダード試聴システムとなる、KRELLのアンプにWILSON AUDIOのスピーカを使い、特等席で視聴させて頂きました。合計1000万円ほどになるという、尋常な価格ではないシステムです。ハイエンドオーディオの比較視聴をしても、慣れていない人には違いがほとんどわからないのが普通なのですが、これはあまりに違うのでおそらく誰でもわかって頂けるのではないかと思われるほどで、筆者も本当にびっくりしました。HDDトランスポートから出たデジタル信号を、デジタル-アナログ変換器を分離可能なCDプレーヤー、デノンのDCD-S1改造品に入力して同じ音楽ソースをCDとHDDトランスポートで切り替え視聴しましたが、CDの音がまるでラジカセのごとくに聞こえてしまうほど、PCM-S1は音が良くて驚かされました。

 音の粒立ち、定位、クリア感、どれをとっても今までに聞いたことの無いような再生音です。CDの場合、ドラムを叩く音は「ああ、あの辺にドラムがおいてあって叩いているんだ」という感じなのに対し、HDDトランスポートではハイハットがここでタムがここ、バスドラのフットペダルはここを叩いている、などと正確な位置まで聞き分けることが出来るほどです。久しぶりにめまいのするようなクリアで強烈な音を堪能することが出来ました。実際ドキドキして、軽いめまいも感じるほどでした。
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