劇場の涼しさが有難い季節がやってきました。劇場によってはブランケットの用意の無いところもありますので、羽織ものをお忘れなく。今月も少しずつ注目作の取材記事をUPしていきますので、どうぞお楽しみに!

(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローしていただけますと、記事更新時にお知らせします。)

《7月開幕の注目!ミュージカル》
『エビータ』←アントン・レイティンさんインタビューをUP!(本頁)
『キス・ミー・ケイト』←観劇レポートをUP!(本頁)
グーテンバーグ!』←鯨井康介さん、板垣恭一さん(演出)インタビュー&観劇レポートをUP!
ピーターパン』←莉奈さんインタビュー&観劇レポートをUP

《別途、特集記事掲載のミュージカル》
アニー』←藤本隆宏さん、青柳塁斗さんインタビュー、観劇レポートをUP!
『宝塚BOYS』←良知真次さんインタビューをUP予定
タイタニック』←藤岡正明さんはじめ出演者インタビューをUP!
 

エビータ

7月4日~29日=東急シアターオーブ

【見どころ】
『エビータ』

『エビータ』

恵まれない環境に生まれながらアルゼンチン大統領夫人に上り詰め、33歳の若さで亡くなったエヴァ・ペロン。その波乱の生涯をシニカルに描き、1978年にウェストエンド、79年にブロードウェイで開幕した名作が、待望の“初”来日。歯切れのいいティム・ライスの歌詞、「アルゼンチンよ泣かないで」に代表される、クラシックとラテン、ポップスを自在にミックスさせたアンドリュー・ロイド・ウェバーの音楽が、ハロルド・プリンスによるオリジナル演出で蘇ります。

エヴァ役を演じるエマ・キングストン(ウェストエンドの『レ・ミゼラブル』でエポニーヌ役)ら、実力派キャストがひしめく今回は、水先案内人的なキャラクター、チェを、人気俳優のラミン・カリムルー(『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン役等)が日本限定で演じるのも話題。劇団四季版(演出・浅利慶太さん)との比較も、楽しみにしている方が多いことでしょう。

【マガルディ役、『エビータ』レジデント・ディレクター
アントン・レイティンさんインタビュー】

1970年代のオリジナル演出が、
2018年という新たな時代のためにみごとに
“モダン化”された、と自負しています
Anton Luitingh(アントン・レイティン)南アフリカ出身。『キャッツ』マンカストラップ、『美女と野獣』ビースト、『レント』ロジャー、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ピラト、『シカゴ』ビリー・フリン、『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』ファラオなどを演じ、演出家としても活躍。「ミュージカル・シアター・ワークショップ」共同創設・経営者でもある。(C)Marino Matsushima

Anton Luitingh(アントン・レイティン)南アフリカ出身。『キャッツ』マンカストラップ、『美女と野獣』ビースト、『レント』ロジャー、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ピラト、『シカゴ』ビリー・フリン、『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』ファラオなどを演じ、演出家としても活躍。「ミュージカル・シアター・ワークショップ」共同創設・経営者でもある。(C)Marino Matsushima

――初日を拝見しましたが、とてもエネルギッシュな舞台ですね。

「(楽しんでもらえて)良かったです。感じてもらえたエネルギーは、今回、かなり(平均年齢が)若いカンパニーなのと、メインキャストは5名、そのうち主役級は3人でその他のアンサンブルが軍人や上流階級、民衆といろんな役を終始演じ分けている、その多忙さが醸し出しているものでもあると思います。ミュージカルの中には一回、出番があると次の出番まで30分間楽屋で待っているような演目もあるけれど、本作はそういうものじゃない。(皆が)出ずっぱりであることで一体感や、ライブパフォーマンスの良さも生まれていると思いますよ。劇場(シアターオーブ)もいいですし」

――この劇場、お気に入りですか?
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

「ええ、とても。美しいし、濃紺の劇場というのがいいですね。(故郷の)南アフリカでは、『ライオンキング』をやっている劇場のように内側が木の壁で、アース・カラーに統一されているところもあるけれど、ここはシンプルな作りで演目のカラーがその都度、反映される。また(最後列までの)奥行きがあるのに親密さが感じられる点もいいですね」

――今回は「オリジナル・プロダクション」とのことですが、70年代のウェストエンドやブロードウェイの公演とどの程度同じと考えてよろしいでしょうか?

「当時のビデオと見比べてみれば、ステージング、衣裳などは同じだと言えるでしょう。相違点を挙げるなら、例えば“You must Love me”というナンバーはご存知のように映画版(マドンナ主演)のために書かれた曲なので、オリジナル版にはありませんでした。

 

またロイド=ウェバーが編曲をアップデートしているので、オーケストレーションにはより厚みがあり、よりアルゼンチン音楽風でもある。(使う)楽器も一部変わっているし、“Buenos Aires”のダンスブレイクが長くなったりもしていますね。そして技術の進歩により、照明も映像も“完璧”化している。

同じプロダクションではあるけれど、2018年という新たな時代のためのモダン・バージョンになったと言えるでしょう。古めかしい感じは全くないですね。もう一つ、今どきの俳優は3拍子揃った人ばかりで、“歌えて、芝居ができて、踊れる”。曲調が変わっても、声楽の発声とロックの発声を使い分けて歌うことが出来るんですよ」

――今回、拝見していて、意図を教えていただきたい箇所が二つほどありました。一つは“You must love me”のシーンなのですが、エヴァが歌い終わるあたりでペロンが上手から登場しますが、二人は目を合わせません。これはなぜでしょうか?

「演出家の解釈によるものです。この頃、二人は別の人生を歩んでいます。エヴァはガンを患っており、舞台装置からもわかるように、二人は寝室を別にしており、しばらく肉体関係もない状態です。彼女は“それでも私を愛して”と彼に対して怒っているが、かつてのようなホットな関係は二人の間にはなくなっている。
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

またもう一つ、違うレベルでもこの曲は意味を持っていて、このタイトルはペロンだけではなく国に対しても向けられている。“私の中にはもうパワーも美貌もほとんど残っていないとしても、私を愛して”と言っているのです。以前、このシーンでエヴァがペロンの腕に抱かれ、横たわってこの曲を歌っているプロダクションを観たことがありますが、創作上の(演出家の)選択の違いということでしょうね。

この作品で、ロイド・ウェバーとティム・ライス、そして(オリジナル演出家の)ハル・プリンスは、観客が彼女をどう見るか……好きになるか嫌いになるか……を、観客に委ねました。プリンスとしては、ロマンティックな物語を見せるというより、二人の人物(ペロンとエヴァ)がいかに一つの国を動かしていったかを見せ、“これ(独裁)は健康的なことか?”と問いたかったのでしょう。人々はカメラの前での二人は知っていても、家の中では何を喋ってどんなことを企んでいたかは知らなかった。そんなエヴァも、病気で倒れて権力を失い、人々のスピリチュアル・リーダーになろうとする。ダイアナ妃のような存在にね。“神様なぜ(こんなことをするの)ですか、夢をかなえるために、もう少しだけ時間をください”と願うが、彼女はペロンの心はもちろん、民衆の心も、美しい容姿も失ってゆく。悲しいことです。
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

このドラマを、現代の観客はどう見るでしょう。彼女は野心家で、望んだものは何が何でも手に入れようとする人です。チャリティの名のもとに(上流階級から)金を取り上げては、(貧民に)バラまいたが、その一部を自分の懐にも入れていた。“聖女なのか、悪人なのか”という論議になるのです。判断が観る人に委ねられた、とてもうまく出来た物語ですが、これはロイド=ウェバーとティム・ライスが『ジーザス・クライスト=スーパースター』でもやっていたことなんですよね。『ジーザス~』では、物語がユダの視点で語られ、彼がイエスを裏切らなければならなかったことを“感じる”ことが出来る。その立場にならなければわからないことが“体感”できるという点で、『ジーザス~』もとてもいい作品です」

――もう一つ気になったのがラストシーンです。チェは最後の台詞を喋りながらペロンと間近に顔を見合わせ、ぷいと目を逸らせ、去る。まるでペロンを責めているように見えたのですが。

「まさしくその通りです。それまでずっと、チェとペロンは顔を合わせることがないのですが、最後の最後で面と向かい、チェは“あんたはなんてことをしてくれたんだ”とばかりに迫る。思えばペロンは権力の最高潮にあるときは、エヴァに操られる存在だった。『ジーザス・クライスト=スーパースター』で、イエスを処刑などしたくなかったかもしれないのに、人々からのプレッシャーでそうせずにはいられなかったピラトのようにね。エヴァから、そして民衆からのプレッシャーがあったとはいえ、国をとんでもない方向に向かわせ、エヴァが病に倒れてからは彼女を見捨ててしまった。

“あんたとエヴァがこの国をダメにしたんだ”と迫るチェは、観客(の代表)でもあり、物語の中の民衆の一人でもある。非常に面白い存在です」

――アントンさんは今回、レジデント・ディレクターでもありますが、一人の演出家として、このプロダクションのどの部分を気に入っていますか?
『エビータ』撮影:渡部孝弘

『エビータ』撮影:渡部孝弘

「今回、僕はレジデント・ディレクターとして、アメリカから(南アフリカに)やってきた人々(ハロルド・プリンスの弟子・ダニエル・カトナーら)から、ステージ上の人々の動きから照明まで、このショーのすべてを教わりました。オリジナル演出家のビジョンがよくわかり、改めていかにプリンスが“天才”であったか、再認識しましたね。

そんななかで僕が気に入っているのが、一つには椅子取りゲームのシーン。政治家たちの権力争いを、子供の遊びである椅子取りゲームで描き、一人一人脱落する様子を通して、この政治家たちはガキだ、と表現する。とても効果的でスマートだと思います。もう一つは、アンサンブルが15人しかいない中で、観客を民衆に見立て、映像も巻き込んで劇場全体が一体化し、(ペロンを支持する)何十万もの群衆を表現してみせるテクニック。シャンデリアがあるわけでも、猫が天上に上る装置があるわけでもないミニマリスティックでシンプルな舞台装置だが、客席との一体感によって観客を物語に引き込む、この70年代的な力技がなんとも好きですね」

――いっぽうでアントンさんはエヴァを郷里から(首都の)ブエノスアイレスに連れてゆく歌手・マガルディを演じています。どう楽しんでいらっしゃいますか?
Anton Luitingh as Magaldi - Evita International Tour - Photograph by Christiaan Kotze.

Anton Luitingh as Magaldi - Evita International Tour - Photograph by Christiaan Kotze.

「マガルディは本作で(純粋に)楽しめる唯一の役だと思っています。初めてこの作品に触れたとき、本作はロックオペラで、出演者たちにはリアルな芝居が求められるけれど、マガルディだけは遊び(誇張)が許されると思いました。お客さんはシリアスにとらえる必要がなく、彼をみて(しょうもない人物だと)笑うこともできる。僕はパントマイム(注・英国などでクリスマス・シーズンに数多く上演される、童話などの音楽劇)・スタイルで演じようと思いました。

まあ、タバコを吸いまくって多くの女性たちと付き合っているのだから、個人的には近づきたくないタイプの人間だけどね(笑)」

――アントンさんは南アフリカをベースに活躍されていますが、現地のミュージカルの状況を少しお教えください。

「2001年を境に、南アフリカのミュージカル事情は大きく変わりました。それまで、ミュージカルは国内の人々によって演じられていましたが、国境を越えていくことはありませんでした。それが、かつて『キャッツ』の英国初演時、出資者だったことでキャメロン・マッキントッシュやアンドリュー・ロイド=ウェバーに近しい存在だったピーター・トーリエンというプロデューサーが、2001年に『キャッツ』を南アフリカのキャストで上演し、そのまま4年間、レバノン、韓国、台湾と海外ツアーを成功させたことで、一つのビジネスモデルが出来たのです。

南アフリカ人は真面目で、大志もある。そして為替の面でも競争力がある、ということで、以来各国のプロデューサーと組んで、国内でしばらく上演し、その後海外ツアーに出る、というパターンが生まれました。そのおかげで、南アフリカ公演だけなら予算的に厳しい大型作品、例えば『オペラ座の怪人』のような豪華なショーも上演しやすくなっています。また僕を含め、役者たちも各国の人々と仕事をする中で腕を磨き、3拍子の揃った、そして適応の早い役者に育ってきました。僕の履歴書を観て、“こんなにたくさんの(重要な)役を演じて来たのか”と驚く方もいらっしゃいますが、それは『キャッツ』以降の南アフリカ・ミュージカルの充実があってこそなんです」

 

キス・ミー・ケイト

7月3日~8日=東京芸術劇場プレイハウス、以降8月8日まで各地で上演

【見どころ】
『キス・ミー・ケイト』

『キス・ミー・ケイト』

シェイクスピアの喜劇『じゃじゃ馬ならし』を上演しようとする一座の、恋(とお金)を巡る大騒動。コール・ポーターの小粋な楽曲に彩られた1948年初演のブロードウェイ・ミュージカルが、昨年に続き、ミュージカル振興を目的とした映画演劇文化協会「ハローミュージカル!プロジェクト」事業として、全国を巡演します。座長役の松平健さん、その元妻役の一路真輝さんをはじめとする豪華キャストの公演を、手ごろな料金設定(東京公演の場合、S席7000円)で観られるのが第一の魅力。

笑いに歌・ダンスもたっぷり(演出・振付 上島雪夫さん)の“王道ミュージカル”は、初心者にも最適です。ふだんは劇場に縁遠い友人・ご家族を誘ってみるのもいいかもしれません。

【観劇レポート】
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

ボルチモアのとある劇場。バックステージと思しき空間に俳優とスタッフが集まり始める。「またショーが始まる…」と期待に満ちたナンバーが歌われるなか、役が割り振られ、稽古が始まる。一本の芝居が立ち上がってゆくさまが鮮やかに描かれるオープニングを経て、場面は1年前に離婚した座長フレッドと主演女優リリーのやりとりへ。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

お互いに主張が強く、犬猿の仲となっている二人だが、デュエットを歌ううちに昔の感情を思い出し、まんざらでもない様子。と思いきや、フレッドが若い女優に贈った花束が手違いでリリーに届けられたことで、リリーは激怒、勢い劇中劇であるミュージカル版『じゃじゃ馬ならし』で暴走してしまう。舞台はどうなってしまうのか、そしてフレッドとリリーの仲は?
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

俳優たちの恋の騒動と劇中劇をオーバーラップさせた1948年初演の本作には、しばしば指摘されているように女性蔑視的な描写もありますが、それ以上に魅力的なのがコール・ポーターによる名曲の数々。1幕ではリリー、2幕ではフレッドが歌うロマンティックな“So In Love”、バックステージで俳優たちが歌うスタイリッシュな“Too Darn Hot”など、時代を超えて”スタンダード化”されているナンバーがずらりと続き、観客の耳を楽しませます。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

またこの楽曲にインスパイアされた上島雪夫さんの振付は次々と新たな構図を生み出し、抜群のチームワークでそれを踊りこなす俳優たちによって、胸のすくようなダンスナンバーに昇華。特にフレッドの付き人ポール役の加賀谷一肇さんが驚異的な身のこなしでリードする“Too Darn Hot”は、例えこの数分間のためだけでも観に行く価値のあるシーンです。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

もちろんメインキャストの方々もそれぞれに魅力炸裂、フレッド役の松平健さんは揺るぎない存在感で舞台を牽引、対するリリー役の一路真輝さんは劇中劇の“じゃじゃ馬”カタリーナをかなりのハイテンションで演じて作品に無邪気な笑いを提供し、リリー役としてはフレッドと新たな恋人ハリソンとの間で揺れる女心を絶妙に表現。ビルという恋人がいながらフレッドはじめ多方面とよろしく付き合っている若い女優ロイス役の水夏希さんは、くるくると気分が変わるが悪気はない女性を明るく、チャーミングに演じ、その恋人で騒動の発端となる借金をしてしまう俳優・ビル役の大山真志さんは、持ち前のスケール感でダメ男をおおらかに体現。
 
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

借金のとりたてに来たギャングの二人組役・太川陽介さん、杉山英司(スギちゃん)さんも、役柄を心得た人懐こい演技で場を沸かせ、リリーの新たな恋人ハリソン役の川崎真世さんは副大統領、そしていずれ大統領の座を狙う野心家の陸軍将軍を威厳たっぷりに。そしてリリーの付き人、ハッティー役のちあきしんさんも、幕開けのナンバーはじめ要所要所で、安定感たっぷりの歌声を披露、舞台をびしっと引き締めています。
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会

カーテンコールではメインキャラクターたちが持ち歌を歌いながら登場。ここでもポーターの名曲の数々をおさらいでき、“耳福”体験とともに帰途につける舞台となっています。

*次ページで『グーテンバーグ!』をご紹介します!