(筆者Marino Matsushimaをツイッターでフォローしていただけますと、記事更新時にお知らせします。)
《7月開幕の注目!ミュージカル》
『エビータ』←アントン・レイティンさんインタビューをUP!(本頁)
『キス・ミー・ケイト』←観劇レポートをUP!(本頁)
『グーテンバーグ!』←鯨井康介さん、板垣恭一さん(演出)インタビュー&観劇レポートをUP!
『ピーターパン』←莉奈さんインタビュー&観劇レポートをUP
《別途、特集記事掲載のミュージカル》
『アニー』←藤本隆宏さん、青柳塁斗さんインタビュー、観劇レポートをUP!
『宝塚BOYS』←良知真次さんインタビューをUP予定
『タイタニック』←藤岡正明さんはじめ出演者インタビューをUP!
『エビータ』
7月4日~29日=東急シアターオーブ【見どころ】
『エビータ』
エヴァ役を演じるエマ・キングストン(ウェストエンドの『レ・ミゼラブル』でエポニーヌ役)ら、実力派キャストがひしめく今回は、水先案内人的なキャラクター、チェを、人気俳優のラミン・カリムルー(『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン役等)が日本限定で演じるのも話題。劇団四季版(演出・浅利慶太さん)との比較も、楽しみにしている方が多いことでしょう。
【マガルディ役、『エビータ』レジデント・ディレクター
アントン・レイティンさんインタビュー】
1970年代のオリジナル演出が、
2018年という新たな時代のためにみごとに
“モダン化”された、と自負しています
Anton Luitingh(アントン・レイティン)南アフリカ出身。『キャッツ』マンカストラップ、『美女と野獣』ビースト、『レント』ロジャー、『ジーザス・クライスト=スーパースター』ピラト、『シカゴ』ビリー・フリン、『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』ファラオなどを演じ、演出家としても活躍。「ミュージカル・シアター・ワークショップ」共同創設・経営者でもある。(C)Marino Matsushima
「(楽しんでもらえて)良かったです。感じてもらえたエネルギーは、今回、かなり(平均年齢が)若いカンパニーなのと、メインキャストは5名、そのうち主役級は3人でその他のアンサンブルが軍人や上流階級、民衆といろんな役を終始演じ分けている、その多忙さが醸し出しているものでもあると思います。ミュージカルの中には一回、出番があると次の出番まで30分間楽屋で待っているような演目もあるけれど、本作はそういうものじゃない。(皆が)出ずっぱりであることで一体感や、ライブパフォーマンスの良さも生まれていると思いますよ。劇場(シアターオーブ)もいいですし」
――この劇場、お気に入りですか?
『エビータ』撮影:渡部孝弘
――今回は「オリジナル・プロダクション」とのことですが、70年代のウェストエンドやブロードウェイの公演とどの程度同じと考えてよろしいでしょうか?
「当時のビデオと見比べてみれば、ステージング、衣裳などは同じだと言えるでしょう。相違点を挙げるなら、例えば“You must Love me”というナンバーはご存知のように映画版(マドンナ主演)のために書かれた曲なので、オリジナル版にはありませんでした。
またロイド=ウェバーが編曲をアップデートしているので、オーケストレーションにはより厚みがあり、よりアルゼンチン音楽風でもある。(使う)楽器も一部変わっているし、“Buenos Aires”のダンスブレイクが長くなったりもしていますね。そして技術の進歩により、照明も映像も“完璧”化している。
同じプロダクションではあるけれど、2018年という新たな時代のためのモダン・バージョンになったと言えるでしょう。古めかしい感じは全くないですね。もう一つ、今どきの俳優は3拍子揃った人ばかりで、“歌えて、芝居ができて、踊れる”。曲調が変わっても、声楽の発声とロックの発声を使い分けて歌うことが出来るんですよ」
――今回、拝見していて、意図を教えていただきたい箇所が二つほどありました。一つは“You must love me”のシーンなのですが、エヴァが歌い終わるあたりでペロンが上手から登場しますが、二人は目を合わせません。これはなぜでしょうか?
「演出家の解釈によるものです。この頃、二人は別の人生を歩んでいます。エヴァはガンを患っており、舞台装置からもわかるように、二人は寝室を別にしており、しばらく肉体関係もない状態です。彼女は“それでも私を愛して”と彼に対して怒っているが、かつてのようなホットな関係は二人の間にはなくなっている。
『エビータ』撮影:渡部孝弘
この作品で、ロイド・ウェバーとティム・ライス、そして(オリジナル演出家の)ハル・プリンスは、観客が彼女をどう見るか……好きになるか嫌いになるか……を、観客に委ねました。プリンスとしては、ロマンティックな物語を見せるというより、二人の人物(ペロンとエヴァ)がいかに一つの国を動かしていったかを見せ、“これ(独裁)は健康的なことか?”と問いたかったのでしょう。人々はカメラの前での二人は知っていても、家の中では何を喋ってどんなことを企んでいたかは知らなかった。そんなエヴァも、病気で倒れて権力を失い、人々のスピリチュアル・リーダーになろうとする。ダイアナ妃のような存在にね。“神様なぜ(こんなことをするの)ですか、夢をかなえるために、もう少しだけ時間をください”と願うが、彼女はペロンの心はもちろん、民衆の心も、美しい容姿も失ってゆく。悲しいことです。
『エビータ』撮影:渡部孝弘
――もう一つ気になったのがラストシーンです。チェは最後の台詞を喋りながらペロンと間近に顔を見合わせ、ぷいと目を逸らせ、去る。まるでペロンを責めているように見えたのですが。
「まさしくその通りです。それまでずっと、チェとペロンは顔を合わせることがないのですが、最後の最後で面と向かい、チェは“あんたはなんてことをしてくれたんだ”とばかりに迫る。思えばペロンは権力の最高潮にあるときは、エヴァに操られる存在だった。『ジーザス・クライスト=スーパースター』で、イエスを処刑などしたくなかったかもしれないのに、人々からのプレッシャーでそうせずにはいられなかったピラトのようにね。エヴァから、そして民衆からのプレッシャーがあったとはいえ、国をとんでもない方向に向かわせ、エヴァが病に倒れてからは彼女を見捨ててしまった。
“あんたとエヴァがこの国をダメにしたんだ”と迫るチェは、観客(の代表)でもあり、物語の中の民衆の一人でもある。非常に面白い存在です」
――アントンさんは今回、レジデント・ディレクターでもありますが、一人の演出家として、このプロダクションのどの部分を気に入っていますか?
『エビータ』撮影:渡部孝弘
そんななかで僕が気に入っているのが、一つには椅子取りゲームのシーン。政治家たちの権力争いを、子供の遊びである椅子取りゲームで描き、一人一人脱落する様子を通して、この政治家たちはガキだ、と表現する。とても効果的でスマートだと思います。もう一つは、アンサンブルが15人しかいない中で、観客を民衆に見立て、映像も巻き込んで劇場全体が一体化し、(ペロンを支持する)何十万もの群衆を表現してみせるテクニック。シャンデリアがあるわけでも、猫が天上に上る装置があるわけでもないミニマリスティックでシンプルな舞台装置だが、客席との一体感によって観客を物語に引き込む、この70年代的な力技がなんとも好きですね」
――いっぽうでアントンさんはエヴァを郷里から(首都の)ブエノスアイレスに連れてゆく歌手・マガルディを演じています。どう楽しんでいらっしゃいますか?
Anton Luitingh as Magaldi - Evita International Tour - Photograph by Christiaan Kotze.
まあ、タバコを吸いまくって多くの女性たちと付き合っているのだから、個人的には近づきたくないタイプの人間だけどね(笑)」
――アントンさんは南アフリカをベースに活躍されていますが、現地のミュージカルの状況を少しお教えください。
「2001年を境に、南アフリカのミュージカル事情は大きく変わりました。それまで、ミュージカルは国内の人々によって演じられていましたが、国境を越えていくことはありませんでした。それが、かつて『キャッツ』の英国初演時、出資者だったことでキャメロン・マッキントッシュやアンドリュー・ロイド=ウェバーに近しい存在だったピーター・トーリエンというプロデューサーが、2001年に『キャッツ』を南アフリカのキャストで上演し、そのまま4年間、レバノン、韓国、台湾と海外ツアーを成功させたことで、一つのビジネスモデルが出来たのです。
南アフリカ人は真面目で、大志もある。そして為替の面でも競争力がある、ということで、以来各国のプロデューサーと組んで、国内でしばらく上演し、その後海外ツアーに出る、というパターンが生まれました。そのおかげで、南アフリカ公演だけなら予算的に厳しい大型作品、例えば『オペラ座の怪人』のような豪華なショーも上演しやすくなっています。また僕を含め、役者たちも各国の人々と仕事をする中で腕を磨き、3拍子の揃った、そして適応の早い役者に育ってきました。僕の履歴書を観て、“こんなにたくさんの(重要な)役を演じて来たのか”と驚く方もいらっしゃいますが、それは『キャッツ』以降の南アフリカ・ミュージカルの充実があってこそなんです」
『キス・ミー・ケイト』
7月3日~8日=東京芸術劇場プレイハウス、以降8月8日まで各地で上演【見どころ】
『キス・ミー・ケイト』
笑いに歌・ダンスもたっぷり(演出・振付 上島雪夫さん)の“王道ミュージカル”は、初心者にも最適です。ふだんは劇場に縁遠い友人・ご家族を誘ってみるのもいいかもしれません。
【観劇レポート】
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
『キス・ミー・ケイト』写真提供:映画演劇文化協会
*次ページで『グーテンバーグ!』をご紹介します!