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溶けていく携帯型ゲーム専用機市場

2018年6月12日から14日に開催された世界最大級のゲームイベント、Electronic Entertainment Expo 2018、通称E3が終了しました。たくさんの発表がありましたが、今回はその発表の話ではありません。逆に発表の無かったことではっきりしてきた、携帯ゲーム機の今後について、お話してみたいと思います。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

ゲーム業界ニュースガイド

E3で発表されなかったこと

ニンテンドー3DSとPSVitaの図

ニンテンドー3DSやPSVitaはどうなっていくのでしょうか?

2018年6月12日から14日に開催された世界最大級のゲームイベント、Electronic Entertainment Expo 2018、通称E3が終了しました。各メーカーごとに大きな発表があり、今年も大変に盛り上がりました。今回はそんな盛り上がった発表について……ではなく、発表されなかったことについてお話したいと思います。

というのは、携帯型ゲーム専用機についてです。そう、PlayStation4(以下PS4)、ニンテンドースイッチ、Xbox Oneなど、据え置きゲーム機のコンテンツについては大いに盛り上がったのですが、携帯ゲーム機関連コンテンツはあまり情報がありませんでした。

なんで携帯ゲーム機の情報が無いのか。携帯ゲーム機市場というものがなくなりつつある…というか、より正確なニュアンスで言うのであれば、溶けだしつつあるからです。溶けだしつつあるとはどういうことか、お話してみたいと思います。

SIEは携帯ゲーム機から撤退?

PSVitaの図

E3を前に、収束の情報が流れていたPSVita

現行のメジャーな携帯ゲーム機と言えば、PSVitaとニンテンドー3DSでしょう。ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SIE)はPSVitaについて、E3で大きな発表を行いませんでした。また、PSVitaの後継機についても発表はありませんでした。PSVitaについての大きな発表が無いのは当然で、欧米地域に関しては、PSVitaの出荷はすでに終了、専用のゲームカードは2019年3月末の生産終了が報じられています。PSVitaは海外よりも日本の方が好調でしたが、その日本市場に関しても2020年までに収束させていくということを、SIEの社長兼CEOである小寺剛氏がインタビューにて答えています。

基本的に、ゲーム機の生産終了などの告知というのは、後継機の発表前に行われません。後継機が発表され、2つのハードが同時期に売られる期間があり、そして前世代機がフェードアウトしていくというのが、多くあるパターンです。そうしなければ、生産終了するというニュースが、ユーザーのもつゲームハードへの興味を大きく失わせてしまうからです。

逆に言うと、E3発表前からこういったニュースが流れ、E3でも後継機が発表されないということは、SIEが携帯型ゲーム専用機から撤退する、という選択を色濃く表現しているように感じられます。SIEはPS4が世界的に好調であり、据え置きゲーム機市場にリソースを集中していく形になっていく模様です。

ニンテンドー3DSの後継機は発表されず

ニンテンドー3DSの図

3DSが発売されてから、もうずいぶん経つのです

さて、もう1つ、後継機が発表されてもいいタイミングのハードがありました。ニンテンドー3DSですね。ニンテンドー3DSが発売されたのは2011年2月、もう7年以上も前なんですね。ゲームハードのサイクルというのが、だいたい5年から6年です。たった今発表して、2019年初頭に発売したとしても、ニンテンドー3DSの発売から8年後という話になります。そう考えると、本来ならば昨年、あるいは一昨年のE3に発表されていてもおかしくないぐらいのタイミングで、あまりに遅い、というよりは、遅すぎるのです。

プラットフォームホルダーである任天堂は、E3の発表の大半をニンテンドースイッチに集中させ、ニンテンドー3DSの話題はほとんど出てきませんでした。任天堂が発信した最も大きな発表は、2018年12月8日に発売される「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」に関するものです。大乱闘スマッシュブラザーズシリーズの前作は、Wii Uとニンテンドー3DSの2機種同時展開でしたが、今回はニンテンドースイッチのみという形を選んでいます。

ニンテンドー3DSに関しては、任天堂はニンテンドースイッチと並行して今後も販売を続けていくとしていますが、実際の扱いはかなり小さくなっています。そして繰り返しになりますが、後継機の発表はないのです。

ニンテンドースイッチにポケモン投入

ポケモンGOの図

ポケットモンスター Let's GO! ピカチュウ・Let's GO! イーブイは、ポケモンGOで捕まえたポケモンを送れるようです

ここで少し、ニンテンドースイッチの動きについてお伝えしておく必要があります。というのも、ニンテンドースイッチの動きと、ニンテンドー3DSの後継機発表が無いことはリンクしているからです。

1つは、2台目セットの登場です。2018年5月23日、任天堂は自身が展開するWeb上の店舗である「マイニンテンドーストア」にて「Nintendo Switch 2台目用セット」の販売を開始しました。すでにニンテンドースイッチを購入した人むけの製品で、本来は本体に付属しているドックやJoy-Conグリップ、ACアダプター、HDMIケーブルなどが入っていない代わりに、価格も通常税込み32,378円のところを26,978円で販売する、というものです。

もう1つは、株式会社ポケモンが2018年5月30日に発表したポケットモンスターシリーズ最新作「ポケットモンスター Let’s GO! ピカチュウ・Let’s GO! イーブイ」でしょう。1998年にゲームボーイ用タイトルとして発売した「ポケットモンスター ピカチュウ」をベースとし、Joy-Conを振ることでボールを投げるなど、遊び方を一新。スマートフォンアプリ「ポケモンGOとの連動」も発表されています。さらに、2019年には「ポケットモンスター X・Y」や、「ポケットモンスター サン・ムーン」の流れの中にある本編新作もニンテンドースイッチに投入することが明言されています。

溶けていく携帯ゲーム機市場

ニンテンドースイッチの図

外でゲームを遊ぶだけの為の機械は無くなって、別の形に置き換わっていくのかもしれません(イラスト 橋本モチチ)

ニンテンドースイッチの2台目購入を後押しするセットが登場したことは、1人1台のニーズがあるということです。そして、ポケットモンスターシリーズの本編が登場するということは、任天堂が持つ携帯ゲーム機市場のユーザーへ移動を促すキラータイトルをニンテンドースイッチに用意したということです。任天堂は当初ニンテンドースイッチを家庭用据え置き型テレビゲーム機でありながら携帯できるという旨の説明をしていましたし、ニンテンドー3DSは共存していくと言っていましたが、結局のところ、任天堂の持つゲーム機市場は、据え置き機であり、携帯機でもあるニンテンドースイッチに収束していきそうな状況になっています。

SIEのPSVitaは終焉を迎え、ニンテンドー3DSの市場はニンテンドースイッチに吸収され、どうやらコンシューマーゲームハード市場は、PS4とXbox Oneのハイエンド市場と、ニンテンドースイッチという据え置きゲーム機と携帯ゲーム機の融合型に分かれていく様相を呈している、というのが現状のようです。

さて、携帯ゲーム機市場のこれまでと今後についてお話してきましたが、ここで最後にもう1つ、別の視点も入れておきたいと思います。日本ではXbox Oneがほとんど売れていないことから、あまり注目されないのですが、2018年のE3で、マイクロソフト(以下)MSは非常に興味深い発表を行っていました。それは、ストリーミングゲームについての発表です。

ストリーミングゲームサービス、あるいはクラウドゲーミングなどとも呼ばれますが、ゲームのプログラミング処理をユーザーが持つゲーム機やPCなどで行わず、プレイヤーの操作した情報をネットワーク上のサーバーに送信して処理を行い、その結果として映像を表現しプレイヤー側のモニターに表示する手法で、これがうまくいけばプレイヤー側の端末の性能が低くてもパワフルなゲームが遊べるようになると言います。このサービスはSIEがいち早く挑戦し、PlayStationNowというサービスを実現していますが、通信状態によってゲームが安定しなかったり、ラインナップに大型タイトルが少なかったりといった問題もあり、メインストリームにはなっていません。ここに、マイクロソフトが参入してくる、というわけです。

PSNowは現状、PCかPS4でしか遊べませんが、マイクロソフトはXbox OneやPCだけでなく、スマートフォンなどの端末でも遊べるようにすることを目指しているようです。まだ具体的なサービスは全く見えてきていないものの、マイクロソフトが目指すように、スマートフォンでも遊べるようなストリーミングゲームサービスが実現すれば、それがゲーム業界のスタンダードとなる日がもし来たら、据え置きゲーム機市場とか、携帯ゲーム機市場という概念自体が意味をなさなくなるかもしれません。携帯型ゲーム専用機の市場は、新しい形のゲームハード、サービスへと溶け出していく、そのように言えるのかもしれません。

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