ゲームを悪者にしないために
ゲームが自分でやめられない人は、依存症の恐れがあります
「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」というものがあります。英語で書くとInternational Statistical Classification of Diseases and Related Health Problemsとなり、ICDと略します。とても難しい名前ですね。このICDは世界保健機関(WHO)が公表する、国際的な病気の基準ともなる分類です。2017年10月に公開された最新のICDの草稿に、ゲーム依存症に関する分類がギャンブル依存症などに並び、追加されました。この新しいICDは2018年6月に公表される予定となっています。つまり、国際的にゲーム依存症という病気がありますよ、と共有されることになります。
ICDにゲーム依存症が追加される見通しとなったことについて、アメリカのゲーム産業団体であるエンターテインメントソフトウェア協会(ESA)が反発し、否定的なコメントを残しました。ゲーム業界からすれば、ゲームのやりすぎで病気になる、というような話は確かに嬉しくないことのように思います。
ガイドも、このゲーム依存の話題にのって、ゲームは危険だ、と単純に煽るだけのメディアには賛同できません。しかし一方で、ゲームが好きであるからこそ、ゲームはプレイヤーの人生を幸福にして欲しいと思いますし、ゲームが原因で社会生活に問題が出るようなことは減って欲しいと切に願います。そう考えると、ゲーム依存症について見て見ぬふりをすることは、大きな意味でゲーム業界とゲームユーザーにとって決して良いこととは思えません。
誰かに何か悪い出来事が降りかかったとき、本当は様々な原因が複雑に絡まって起きた出来事であるにもかかわらず、その傍らにゲームがあったというだけでゲームが悪者にされてしまうことがあります。もしあなたが、ゲームが大好きなのであれば、あなたの為にも、ゲームの為にも、そんなことは起こさないようにした方がよいに決まっています。
というわけで、おそらく医療関係のサイトよりもゲーム好きが集まりやすいと思われるゲーム業界ニュースで、依存症について紹介することに意義があると考え、この記事を執筆することにしました。最初に断りを入れておきますと、ガイドはあくまでゲーム業界ニュースガイドであり、医療関係者ではありません。よって、この記事の内容は参考程度にとどめ、より正確で詳しい内容が必要な方は、専門機関への問い合わせをお勧めします。
依存の種類
プロセス依存症は、ゲームだけでなく、インターネットや、買い物など、様々な行動においてなる場合があります
そしてさらに、依存症にも種類があります。ゲーム依存症は、アルコール依存症とはちょっと種類が違います。依存症を大きく2つに分類すると、物質依存、プロセス依存に分けることが可能です。
物質依存は、特定の物質を摂取することで、刺激や、快楽を得るうちに、それがやめられなくなったり過剰になったりしていく依存症です。アルコール依存症や、喫煙によるニコチン依存症、薬物依存症などがそうですね。
プロセス依存は、特定の行動や過程によって刺激や快楽を得て、エスカレートしてやめられなくなるような症状を言います。ゲーム依存症はこのプロセス依存に該当します。他にも、ギャンブルだったり、買い物だったり、インターネットだったりも、同じような依存症になる場合があると言われています。
依存症のメカニズム
ゲームは楽しいものですが、楽しいからこそ気をつけなければいけないようです
このドーパミンという物質によって中枢神経が刺激されて、それが愉快だったり、楽しい気持ちにさせてくれるんです。ドーパミンによって活性化する脳の神経系のことを報酬系といいます。楽しい気持ちが起こると、脳みそはまたそれが欲しくなります。また欲しくなって、お酒を飲んで、ドーパミンが分泌されて……を繰り返していくと、それが条件づけされて、習慣化していきます。報酬系に異常が起きている状態です。
しかも、最初は少量でも気持ちよかったはずが、だんだん少量では効果がなくなっていきます。こういう状態を耐性といいますが、そうすると習慣化するとともにお酒の量がどんどん増えていくわけです。耐性ができた状態で、今度はお酒が無くなると、不安になったり、イライラしたりするようにもなります。このような状態を離脱症状と言います。
結果、常にお酒を飲もうとして、お酒がやめられなくなり、お酒が無いと暴力的になったり、という症状につながるというわけです。こういった過程を経て自分でやめられなくなっている状態のことをコントロール障害と呼びます。しかしこれは物質依存の話です。じゃあプロセス依存ではどうなのか。実はまだ研究中の部分も多く、はっきりとは言えないようなのです。
しかし、プロセス依存に関しても、行動を通してドーパミンが分泌され、報酬系に異常が起こり、耐性ができ……というように物質依存症に似た状態になっているのではないか、ということが言われています。ポイントは、脳の状態に異常が起きている、ということです。
オンラインゲームとゲーム依存症
人と人とがつながるオンラインゲームは、特に注意が必要なようです
依存症になる人と、ならない人の差はどんなところがあるのでしょうか。これもはっきりとしたことは言えませんが、趣味として楽しむという領域を超えて依存症になってしまう人の傾向の1つとして、その人もつ環境や、心の状態に対する指摘もあります。家庭であったり、職場、学校などに自分の居場所が無い。大きなストレスを日々抱えている。そういった人が、その心の状態を解消するための方法として、特定の行動に過剰なまでにすがり、それが依存症につながっていく、というケースです。
ゲームにおいては、代表例としてオンラインゲームに依存する人が挙げられています。現代においてはかなりのゲームがオンラインに接続する機能を持っていますが、ここでいうオンラインゲームは、エンディングを持たずに長時間遊び続けることができ、またオンラインを通じたゲーム内コミュニケーションが強固なゲームを指す場合が多いでしょう。対戦、協力、さらに言えばそれらの行動を通してゲーム内で強いコミュニティができていくゲーム。MMORPGなどでは、ゲーム内の様々な活動をプレイヤーたちが協力して行うため、「仲間」ともいえる存在が見つかります。
断っておきますが、ゲームで仲間ができることは素晴らしいことです。ただし、現実の世界に居場所が無かったり、心に大きなストレスを持った状態で過剰にのめりこんだ結果、コントロール障害が起こりゲームから離れられない状態にまでなってしまったとしたら、それは病気であり、治療が必要であるという話なのです。
最初、ゲームはその人を救っていたはずです。苦しい状態を助けてくれたはずです。しかし、苦しみの元凶を取り除かないままゲームに逃げ続けることは、どうも危険があるようなのです。ゲームを悪者にする為ではなく、ゲームを楽しく遊び続ける為に、その危険については知っておく必要があるでしょう。
ガチャと依存症
ガチャがやめられない、というのは大変に危険です
報酬系は、ある行動をとると必ずいいことが起こる、よりも、ある行動をとるとたまにいいことが起こる、の方がより強く反応すると言われています。報酬系は、いいことが起きた時だけではなく、いいことが起きると期待する時にもドーパミンを分泌し、活性化するようなのです。それこそがギャンブルの構造で、ギャンブルで勝つと単にお金がもらえるというだけでなく、大きな幸福感に包まれます。そうすると、今度は勝てるかもしれない、という期待感が報酬系を活性化させ、またギャンブルをしたくなります。
ソーシャルゲーム等のガチャは、この構造とほとんど同じことが起こり得るでしょう。そして、ギャンブルと同じように依存症になる可能性がある、ということです。
いつでもゲームをやめられますか
自分がちゃんとコントロールできる範囲のなかで、ぜひ楽しく遊んでいただきたいと思います(イラスト 橋本モチチ)
薬物であれば、薬のせいで本人の意思とは関係なく続けてしまうと考える人も、プロセス依存になると、やめようと思えばやめられるはずだと思ってしまう場合があります。プロセス依存でも、脳の報酬系に異常が起きていれば、本人の意思とは関係なく、どうしてもやめられない状態に陥ることがあるのです。そして、自分の意志でやめられないのであれば、それは病気の可能性があるので専門の病院を受診するべきです。
ガイドはゲームが好きですし、ゲームを広めたい立場の人間です。たくさんゲームを遊んで欲しいと思います。ゲームは本当に素晴らしい体験をたくさんもたらしてくれます。しかし、自分でコントロールできなくなってしまっていては、だめです。
ゲームが好きで、ゲームをたくさん遊んでる人ほど、必要な時にきちんとやめられるか、いつでもゲームをやめてやるべきことがやれているか。ゲームがやれないからといってイライラしたり不安になったりする自分がいないかどうか、ぜひ自分のゲームライフと向き合っていただきたいと思います。
【関連記事】
Appleによるガチャ規制と、ルートボックス問題(All Aboutゲーム業界ニュース)
ただで遊ばせてあげるから勘弁してよ(All Aboutゲーム業界ニュース)
ガチャに効くカンタンな確率と経済学(All Aboutゲーム業界ニュース)
【関連サイト】
田下広夢の記事にはできない。(ゲーム業界ニュースガイド個人運営サイト)