労務管理/雇用側の労務知識

残業時間と残業代割増、計算の基本ルールを解説

たくさん残業した月の給料日、残業代を楽しみに給与明細を見て、「あれ?残業は割増がつくはずなのに、同じ時給で計算されているのでは?」と疑問に思ったことはありませんか? 残業代はどのような計算式で支払われるのか?割増の割合はどれぐらいなのか?残業に関わる給与計算のしくみやルールを解説します。

小西 道代

執筆者:小西 道代

労務管理ガイド

残業には「所定時間外」と「法定時間外」の2つがある

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残業代計算の基本ルール

残業(時間外労働)とは、雇用契約書で約束した労働時間を超えて働くことを言います。法律では、会社が従業員を働かせることができる最大の労働時間(法定労働時間)を決めています。

そして、
  • 法定労働時間を超えない残業を「所定時間外」
  • 法定労働時間を超える残業を「法定時間外」
と言います。

次に、雇用契約書の労働時間を確認

法定労働時間は労働基準法によって原則「1日8時間、1週40時間」と決まっています。

次に確認したいのが「雇用契約書」です。

雇用契約書には、仕事を始める時間と終わる時間が必ず記載されていますので、自分の労働時間を確認しましょう(雇用契約書に「変形労働時間制」の文字があるときは残業の考え方が変わるため、今回は対象外とします)。

この上で、再度上記の「所定時間外」「法定時間外」の概念を整理すると、下記になります。
 
  • 所定時間外:雇用契約書の労働時間を超える残業(法定労働時間に達するまで
  • 法定時間外:法定労働時間を超える残業

例を挙げて、労働時間を超えて働いたときの残業が「所定時間外」「法定時間外」のどちらに当てはまるかをみてみましょう。
<例>
雇用契約書の内容
始業時刻:9時、終業時刻:17時、休憩時間:60分
→労働時間:7時間

所定時間外:17時~18時の労働
法定時間外:18時以降の労働
上記の例で「終業時刻:18時」となれば「労働時間:8時間」となり、所定時間外と法定時間外が同じになります。

また、終業時間後に働く場合だけでなく、始業時刻前に働く場合も、残業(時間外労働)です。上記の例で「8時~17時」まで働いたときは、8時~9時の1時間が残業となり、法定労働時間の1日8時間を超えてはいないため「所定時間外」となります。

なお、飲食店や店舗で働く場合などは、具体的な時間ではなく「シフト表による」「会社カレンダーによる」等の書き方となっていることがあります。そのような場合でも、お店の営業時間を踏まえて「〇時から〇時までの間の〇時間」と記載したり、シフトのパターン(早番、遅番など)をすべて記載するのが一般的です。

割増がつく残業は「法定時間外」のみ

会社が従業員に残業をさせたとき、法律では「通常の給与に割増分を加算(割増賃金)して払わなければならない」と決まっています。

ただし、ここで言う「残業」とは「法定時間外」のことです。法定労働時間を超えて働いたときのみ、割増賃金(時間外割増)が支払われるのです。

割増賃金には以下の3種類があり、それぞれ割増率が決まっています。
  • 時間外割増:125% ※法定労働時間を超えて働いた時
  • 休日割増:135% ※週に1日の休み(法定休日)なく働いた時
  • 深夜割増:25% ※22時~翌朝5時(深夜時間)の間に働いたとき
働いた時間が上記2つ以上の割増に当てはまる場合は、当てはまる割増を合計した割増率で割増賃金が支払われます。
<例>
時給1,000円の人が、9時~23時までの14時間(休憩60分を除く)働いたとき

9時~18時:1,000円 × 8時間
18時~22時:1,000円 × (時間外割増)125%=1,250円×4時間
22時~23時:1,000円 ×(時間外割増125%+深夜割増25%)=1,500円×1時間
雇用契約書で約束する労働時間が「9時~17時までの7時間」であれば、17時~18時の1時間は所定時間外となり、通常通りの時給1,000円(100%)が支払われ、それ以降の時間が割増対象となります。

残業の計算は、時給で考える

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月給制でも残業代は「時給」で考える

アルバイトやパート、派遣社員は、給与が「時給」で決まっていることが多いでしょう。残業をしたときも「残業代=時給 × 割増率」となるため、正しく残業代が支払われているかどうかの確認も簡単です。

一方、正社員など、給与が「月給」で決められている場合も、残業代の計算には「時給」が使われます。

残業代を計算するためには、月給から時給を算出する必要があり、会社の就業規則で決められている年間の働く日数と休日の日数を使います。詳しくは「時間外(残業)手当計算時の正しいルール」を確認してください。

「法定時間外」の残業は、月に45時間まで

法律で法定労働時間が決められているのに、法定労働時間を超えて働くことがある点を不思議に思われるかもしれません。これは、会社と従業員代表が「時間外・休日労働に関する協定(36協定)」を結んでいれば、会社は法定労働時間を超えて働かせることができることによります。

36協定には、「1日」「1ヶ月」「1年」の間に残業させることができる時間が記載されています。以下の時間を超えない範囲で、会社ごとに時間を決めています。
時間外労働の限度時間:1ヶ月45時間、1年360時間
この会社では、最大何時間残業をさせるんだろう?と疑問に思ったときは、36協定を見せてもらいましょう。会社は、従業員に36協定を見せる義務があり、就業規則や社内規程などと一緒にファイリングされていることが多いです。

勤務表(出勤簿)に記録された時間をもとに、残業代が支払われる

割増賃金が支払われるかどうかは、勤務表の記録がすべてです。仕事を始めるときと仕事が終わったとき、タイムカードを打刻したり勤務表に書いたりして、働いた時間を記録します。

時間を正しく記録していなかったり、記録することを忘れていたりすると、雇用契約書で決められた時間を働いたものとして給与計算されてしまいます。

営業の仕事や外回りなどで直行直帰のときは、要注意です。お客様の都合で、終業時間までに仕事が終わらないこともあります。そんなときは、翌日すぐに終業時間を記録するなどして、残業代を正しくもらえるよう対応しましょう。

「サービス残業」とは、働いた時間を正しく記録しなかったために、残業代が支払われない残業です。

部下を管理する立場になると、働く時間の管理も能力の一つとみなされることもあり、残業をしても定時で帰ったように記録する人がいます。

これでは、残業代が支払われないだけでなく、万一過労で倒れてしまったときも、長時間労働の記録が残っていないために、会社の責任を追及できません。勤務時間は、自分で責任をもって正しく記録しましょう。

会社の指示がない残業に、割増はつかない

仕事が終わらないからといって、勝手に残業をしていいものではありません。会社は、残業には割増賃金を払わなければいけないため、無駄な残業代がかからないようにしたいのが本音です。

従業員は上司の指示があったときだけ、残業できます。しかし、同じ業務を何年もやっていると、上司から細かな指示を受けることなく自分の判断で仕事を進めることがあります。月末で忙しいからといって上司に何も言わずに残業していると、翌月の給与明細を見て「残業代がついていない!」という事態になりかねません。

また、口頭で「今日は残業します」と言うだけでは、上司がその残業を認めたかが不明であり、何時間の残業を指示したかの判断がつきません。

そこで、「残業許可制」を導入している会社が増えています。従業員は事前に残業の内容と時間数を記載した申請書を上司に提出し、上司が必要な残業と認めれば承認されるという制度です。

書面が残るため、従業員が勝手に残業した!という疑いをかけられることもなく、上司も部下の業務負荷を確認できて別の人に仕事を振るなどの対応ができます。

政府が推奨する「働き方改革」では、残業時間削減が求められています。割増賃金をもらえるから残業が多い方がいい!という人もいますが、これからは、決められた労働時間内に高い成果を上げられる人が重宝される時代です。残業を少なく効率よく仕事して、基本給がアップするような働き方を目指しましょう。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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