2018年放送された名作クィア・ドラマ(3)『隣の家族は青く見える』
フジテレビでゲイカップルが登場するドラマが放送される、ということで、注目されました。ちなみに、あの事件があったからゲイを登場させた、というわけではなく、3~4年前から構想されていたそうです。
民放のプライムタイムのドラマということもあり、たくさんの方が観て、感想をSNSに上げたりしていました。Twitterなどでは、ドラマ名の『隣の家族は青く見える』を略した「#となかぞ」や、渉&朔カップル2人の名前を略した「#わたさく」のハッシュタグがトレンドに挙がったりしてましたね。
【あらすじ(※ゲイカップルに関する部分を中心に)】
一級建築士の渉は、行きつけのワインバーでイケメンに目が釘付けになる。酔いつぶれてしまった彼を介抱していると、「つきあっていた相手が結婚することになって、式に呼ばれた。普通、呼ぶか? と思いつつ、相手がどんな“女”か見てみたいと思って」と言い、ゲイであることをさりげなくカムアウトされる。渉は、朔と名乗る男を抱えて家まで送ることにするが、途中の薄暗い路地で壁ドンとキスをされる。そこから二人の関係が始まり……。1年後、渉が設計した4世帯のコーポラティブハウスが無事に完成し、住人たちがお正月の餅つきをしているところに、突然、朔がやってきて大慌て……。
ドラマ全体のテーマは、子どもをもうけるということをめぐる現代の多様な価値観やありよう、ということで、メインは、新婚夫婦である大器と奈々(演じたのは、松山ケンイチさんと深田恭子さん)が不妊に悩むというお話で、不妊治療の実態がリアルに描かれています(例えば、6組に1組が不妊に悩んでいる一方で、体外受精や人工受精などはなかなか世間の理解が得られていないなどという話は、子育てをしたいと願う同性カップルにも関係があるテーマだと思い、とても興味深かったです)。
ほかにも、できちゃった婚夫婦、別れた妻との間に子どもがいる男性、絶対に子どもを持ちたくないという女性、その女性に対して「子どもを産んで育てるのは女として最高の幸せよ」と、しきりに子育てを勧めてくるおばさんなど、いろんな立場の人が登場します。ゲイカップルが「養子を引き取って育てるのはどうかな?」といった会話をするシーンもありました。
ゲイカップルの描かれ方も、ステレオタイプだったり変に誇張されたりせず、まさに「隣の家族」的なリアルな感じでした。眞島秀和さん演じる渉は、ヒゲをたくわえたイケメン30代。北村匠海さん演じる朔は、ちょっと小悪魔系なジャニ系20代。主流ではないかもしれないけど、確かにこういうカップルもいるよね、と感じられましたし(少なくとも「こんなゲイはいない!」という感じではありません)、二人の出会いがハッテン場や二丁目ではなく、どこにでもあるようなワインバーだったところもイマドキだなぁ……と感じました。
周囲にバレたくない渉と、オープンにしたい朔のスタンスの違いもリアルでしたし、コーポラティブハウスの住人たちや渉の母親のリアクションなどもとてもリアルでした。渉に片想いする職場の同僚女性がいやがらせを仕掛けてくるなどの事件に直面しつつも、最終話では、世田谷区の同性パートナーシップ証明を受けるという展開になり、時代を象徴する記念碑的ドラマになったと感じました。
渉と朔の二人は、朔が元彼の結婚式に参加して荒れていた夜に出会い、パートナーシップ証明書をもらって(結婚のような形で)「ゴールイン」したわけですが、ストーリー的にもよく練られていたなぁと思います。
最終話では亮司(別れた妻との間に子どもがいる男性)とちひろ(絶対に子どもを持ちたくないと言っていた女性)の結婚パーティが晴れやかに行われますが、ここで、証明書をもらって、いわば新婚ホヤホヤ状態である渉と朔のことも一緒にお祝いしてもおかしくないのに、あえて「結婚式」は行わなかったところに、一抹の寂しさを感じさせました。それは、ゲイカップルだって結婚できて当然なのに、いまは認められてないんだよね、おかしいよね、と視聴者に印象づける意図だったようにも感じます。
ちなみにこのドラマは、LGBT監修としてオープンリーゲイの森永貴彦さん(LGBT総合研究所)の名前がクレジットされています。『女子的生活』の西原さつきさんもそうでしたが、信頼できる当事者の方に監修をお願いするのは、とてもいいことですね。中谷まゆみさんの脚本が素晴らしかったのはもちろんですが、当事者の監修が入ったおかげで、クオリティを担保できた部分もあるはずです。