セクシュアルマイノリティ・同性愛

性の多様性を描くクィア・ドラマの新時代が到来(3ページ目)

2018年は、『弟の夫』『女子的生活』『隣の家族は青く見える』『おっさんずラブ』といった素晴らしいドラマが相次いで放送され、話題を呼び、好評を博しました。そこで今回は、性の多様性を描いたクィア・ドラマの過去、現在、未来という切り口で、お届けしてみたいと思います。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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2018年放送された名作クィア・ドラマ(2)『女子的生活』

『女子的生活』

志尊淳さんがMtFレズビアンを演じた画期的なドラマ『女子的生活』


NHK金曜夜10時から放送の「ドラマ10」という、主に女性をターゲットにして「話題性あるテーマと高品質のエンターテインメント」を目指した作品を制作している枠で、2018年1月、MtFレズビアンを主人公としたドラマ『女子的生活』(全4話)が放送されました。
【あらすじ】
見た目は美しい女性だが、実は男性で、女性が恋愛対象というトランスジェンダーのみきはファストファッションの会社で働くOL。同僚のかおりや仲村といっしょに、忙しいながらも充実した「女子的生活」を満喫していた。
ある日、かつて同級生だった後藤が、みきを訪ねて来る。女性になったみきの姿を見て驚く後藤だったが、「お金がなく頼る人間がいないので泊めてほしい」と言い、みきは合コンのセッティングを条件に、渋々承諾することに。合コン当日、みきの前に、ゆいという自然派気取りの女が現れる。みきとゆいは、女どうしのバトルを繰り広げることになるのだが……。

主人公のみきはホルモン治療も性別適合手術も受けずに女性として暮らし、ファッション関係のお仕事に就くことができていて(「男の娘」もそうですが、今は女装だけで「パス」できる男の子は結構多いのかもしれません)、ジェンダーの部分についてはあまり悩んでいません。同僚の女子たちといっしょに上司の噂話をしたり、恋愛したいと騒いだり、という、どこにでもいるようなイマドキの女子なのです。

ここでみきが、男性に惹かれる(性的指向としてはマジョリティな)トランス女性という設定だったら、「体は男性だけど心は女性なんだね」と単純化されてしまうのですが、そうではなく、レズビアンであるというところがポイントです。

つまり、ジェンダーとセクシュアリティがともにマイノリティであるみきが、一体どうやって彼女を受け入れてくれる女性と出会い、恋愛にいたるのか? という点が新しく、また、おもしろくもありました。

みきのMtFトランスジェンダー(トランス女性)としてのありようは、当事者の西原さつきさんの指導のもと、ステレオタイプだったり不自然なことになったりしないよう、気をつけて制作されたようです。みきの高校の同級生で部屋に転がり込んでくる後藤が「オネエ? ニューハーフ? 性同一性障害?」と不躾に聞いてくるのに対して、「初回特典」と前置きした上で、「最近は性別違和(※注1)って言うのよ、トランスジェンダーって呼んでくれるとうれしいな」と返すなど、難しそうな説明もさらりと入ってきます。

※注1:性別違和……日本では「性同一性障害」として医師の診断を受けないと戸籍上の性別変更ができないことになっていますが、世界的に見ると、医師の診断や性別適合手術なしにID上の性別変更を認める流れになっています(「第三の性」の登録を認める国もあります)。アメリカ精神医学会が発行する「精神障害の診断と統計マニュアル 第5版」(2013年)では、すでに性同一性障害という名称が「性別違和」に改められており、今年出る予定のWHO(世界保険機関)の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」最新版でも、精神疾患としての性同一性障害という概念は廃止され、「Gender Incongruence(性別不一致)」に改められ、トランスジェンダーの非病理化が達成される予定です。


イマドキの女子感から外れることなく、言いたいことを言い、やりたいことをやるみきの姿は、痛快ですがすがしいものがあります。毎回いろんな人(厄介な人)が登場し、必ずみきを「普通じゃない」とけなすのですが、周りの誰かがかばってくれるところも、いいなぁと。

世間のリアルとして、最初からみんながクィアを受け入れてるわけではなく、偏見とかイヤなことは依然としてあり、決してぬるくない、ということはリアルに描きながらも、かと言ってマイナス面ばかりを描いて絶望させるわけでもありません。友情や家族との愛情は本物で、みきの人生のなかで大切な輝きを放っているんだな、と思わせてくれます。特に、地元に帰って久しぶりに父親と対峙するシーンは感動的です。

男のいいところと女のいいところ、男のいやなところと女のいやなところ……といった部分もひっくるめて「トランスを含めたジェンダー」というもののリアリティをポップに描いている、という点が本当にいいドラマだったと思います。

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