セクシュアルマイノリティ・同性愛

性の多様性を描くクィア・ドラマの新時代が到来

2018年は、『弟の夫』『女子的生活』『隣の家族は青く見える』『おっさんずラブ』といった素晴らしいドラマが相次いで放送され、話題を呼び、好評を博しました。そこで今回は、性の多様性を描いたクィア・ドラマの過去、現在、未来という切り口で、お届けしてみたいと思います。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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性の多様性を描くクィア・ドラマの意義

今回は、「新時代を迎えたクィア・ドラマ」をテーマにお送りします。というのも2018年は、上半期にしてすでに、セクシュアルマイノリティ(クィア)についての素晴らしく良質な、歴史に残るような名作ドラマが立て続けに放送された記念碑的な年になり、そのことをぜひ書き留めておかなければ、と思ったからです。そうした作品を紹介しつつ、じゃあ、以前はどうだったのか、現在はどんな地平に立っているのか、将来はどんな可能性があるのか、といった流れで、お伝えしていきましょう。

【INDEX】
クィアとは? 世の中の異性愛規範を見直すスタンス
今もなお、テレビドラマが社会に与える影響は甚大
過去のクィア・ドラマでのLGBTの描かれ方
名作クィア・ドラマ(1)『弟の夫』
名作クィア・ドラマ(2)『女子的生活』
名作クィア・ドラマ(3)『隣の家族は青く見える』
名作クィア・ドラマ(4)『おっさんずラブ』
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』にもオープンリーゲイが登場
2018年、クィア・ドラマの現在形
クィア・ドラマの未来を夢見て/リアルな性愛を描く作品にも期待


クィアとは? 世の中の異性愛規範を見直すスタンス 

なお、ここでは主人公がセクシュアルマイノリティ(クィア)であったり、あるいはセクシュアリティやジェンダーについてのマイノリティ性(クィアネス)を主要なテーマとして正面から描いたドラマを「クィア・ドラマ」と呼びたいと思います。

LGBTドラマという言い方もありますが、映画やドラマの世界においてLGBTだけでなく、より多様な、あらゆるセクシュアルマイノリティ(クィア)について表現していくこと、そして、世の中の異性愛規範(ヘテロノーマティヴィティ)を見直していくスタンスとしてのクィアにも意義があると考え、ここでは「クィア・ドラマ」と呼びたいと思います。アジアンクィア映画祭、関西クィア映画祭のような映画祭のタイトルに「クィア」が用いられてきたのも、そういう意味だと思われます。


今もなお、テレビドラマが社会に与える影響は甚大

さて、みなさんはそもそも、テレビドラマというものをどの程度ご覧になってますでしょうか。ゴトウは娯楽の少ない田舎で鍵っ子として育ったせいもあり、典型的なテレビっ子で、ドラマもよく観てました。

特に熱心に観ていたのは、百恵さんの赤いシリーズ、そして『スチュワーデス物語』『不良少女とよばれて』『少女に何が起ったか』などの大映ドラマでした(二丁目デビューした後、同じように大映ドラマが好きな方がたくさんいることがわかり、ああ、あれはゲイの心の琴線に触れるテイストだったんだなぁ……と確信しました)。社会人になってからは、『高校教師』や『人間・失格』などの野島伸司さんのドラマにハマったり、みんなが騒いでるようなドラマを録画してチェックするような感じで観ていました。

映画は作品として制作されたり、インディーズのアート作品も多かったり、お金や時間をかけていても商業的とは限らないものですが、いわゆるテレビドラマはテレビ局が視聴率を稼ぐために制作するものが多く、広く世間の方たちの目に触れるように作られています。それこそお茶の間で、家族が一緒にいるときに目にする可能性も……。だからこそ、テレビが衰退したと言われる昨今でも、映画よりはるかに社会への影響力を持っている、決してバカにできないメディアです。

しかし、テレビドラマで描かれるセクシュアルマイノリティ(クィア)はどんなものだったでしょうか?

そもそもバラエティ番組にオネエタレントが出演する頻度に比べると、ドラマにセクシュアルマイノリティ(クィア)のキャラクターが登場する頻度は、取るに足らないものでした。登場しても、うっすら化粧をしていて薄毛を隠そうともしない(美意識を感じさせず、まるでリアルじゃない)初老のゲイバーのママ……みたいなステレオタイプな(というか悪意を感じる)描かれ方だったりしました。それでなくても、「禁断の」とか「衝撃作」といったコピーがつくような描かれ方がほとんどでした。 


過去のクィア・ドラマでのLGBTの描かれ方

まずは、これまでのクィア・ドラマの歴史をざっと振り返っていきます。

『同窓会』(1993年/日本テレビ系)と『あすなろ白書』(1993年/フジテレビ系)が放送された1993年が「ゲイドラマ元年」と言えます。

『同窓会』はプライムタイムで初めてゲイを真正面から描いた作品で、放送がある日は「二丁目から人がいなくなった」と語り草になるほど注目されていて、ぶっ飛んだ展開がおもしろく受け取られたりもしたのですが、過剰に性的な存在としてセンセーショナルに描かれている、しょせん「イロモノ」扱い、といった印象は拭えませんでした……。続く、夜の世界の裏側を描いたドラマ『夜に抱かれて』(1994年/日本テレビ系)もそんな感じでした。

『あすなろ白書』では、あの西島秀俊さんが松岡というリアルなゲイの役を演じ(リアルなゲイを演じた、草分けだと思います)、好感度が高いドラマだったのですが、松岡は悲劇的な死を遂げてしまいます(実は、ゲイが犯罪者だったり、自殺したり、悲劇的な死を遂げたり……というのは欧米の映画やドラマでも典型的なパターンでした)。

ほかには、社会現象となり、LGBT的にも大きな意義があったドラマとして、上戸彩さんがFTMトランスジェンダーを演じた『3年B組金八先生(第6シリーズ)』(2001~2002年/TBS系)があります。可憐な上戸彩さんが学ランを着て「僕は、男だ……」と真っ直ぐに語る姿は、お茶の間を一気に理解者(シンパ)へと変え、翌年の性同一性障害特例法成立の下支えともなりました。

しかし、その後、あまりパッとした作品は登場していません。『ラストフレンズ』(2008年/フジテレビ系)も、DV(ドメスティックバイオレンス)などと同列のセンセーショナルな描かれ方でしたし、『ママはニューハーフ』(2009年/テレビ東京系)も面白かったですけど、LGBT的にプラスかと言われると「うーん……」という感じでした。

一方、海外では、1990年代~2000年代から多数の傑作クィア・ドラマが次々と制作されていました。例えば、『ふたりは友達? ウィル&グレイス(Will & Grace)』(1998~2006年/アメリカ)、『クィア・アズ・フォーク(Queer as Folk)』(2000~2005年/イギリスほか)、『Lの世界(the L word) 』(2004~2009年/アメリカ)、『アグリー・ベティ(Ugly Betty)』(2006~2010年/アメリカ)、『ブラザーズ&シスターズ(Brothers and Sisters)』(2006~2011年/アメリカ)、『モダン・ファミリー(Modern Family)』(2009年~/アメリカ)、そして『glee/グリー』(2009~2015年/アメリカ)などです。それに比べて日本では良作が本当に少なかったので、「残念だなぁ……」と感じていました。

ところが、2018年、青天の霹靂のように、良質なクィア・ドラマが次々に放送されました。いったい何が起こっているの? と驚いてしまうような、本当にビックリするような展開でした。

具体的にどんな作品か、さっそく紹介していきます。

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