ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2018年5月の注目!ミュージカル(4ページ目)

薫風の候、新キャストを迎えた『モーツァルト!』、笑いと愛に溢れる『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』等、様々な話題作が幕を開けます。今回も少しずつ演目をご紹介し、随時取材記事、観劇レポートを追記していきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

 

ソレイル ~太陽の王様~

5月29日~6月10日=絵空箱

【見どころ】
『ソレイル』

『ソレイル ~太陽の王様~』

作・演出に加えて作詞作曲も手掛けるミュージカル作家、藤倉梓さんの新作が登場。『星の王子様』をモチーフとして、物語に登場するキャラクター、飛行士と作者サン=テグジュペリの人生を重ね合わせた重層的物語が、飛行士の弟を探す姉マリーの視点を通して描かれます。

広く知られる『星の王子様』の要素があちこちに顔を出しながらも、次第にマリーが弟を探す背景が浮かび上がってゆく物語。リアルな感情が歌となって吐き出される終盤がどのように観客の心に響くか、藤倉さんの紡ぐ音楽とともに注目されます。

orange組が白鳥光夏さん、小此木まりさん、松原剛志さん、rose組が清水彩花さん、かとう唯さん、今村洋一さん、argo組が大川永さん、宮田佳奈さん、加藤木風舞さんという3組の競演も話題。個性も年代も異なる3組とあって、それぞれ“全く違う風合い”に仕上がるかもしれません。

【清水彩花さん(マリー役)、今村洋一さん(飛行士役)、宮田佳奈さん(王子役)インタビュー】
(左から)宮田佳奈undefined熊本県出身。イッツフォーリーズに所属し、『死神』でヒロイン、ロロ役に抜擢される。清水彩花undefined埼玉県出身。子役を経て『レ・ミゼラブル』『ひめゆり』『アイランド』等で活躍している。今村洋一undefined静岡県出身。『三文オペラ』『ロスト・フォレスト』等のミュージカル、音楽劇からストレートプレイまで幅広く活躍。(C)Marino Matsushima

(左から)宮田佳奈 熊本県出身。イッツフォーリーズに所属し、『死神』でヒロイン、ロロ役に抜擢される。清水彩花 埼玉県出身。子役を経て『レ・ミゼラブル』『ひめゆり』『アイランド』等で活躍している。今村洋一 静岡県出身。『三文オペラ』『ロスト・フォレスト』等のミュージカル、音楽劇からストレートプレイまで幅広く活躍。(C)Marino Matsushima

――本作のモチーフとなっているサン=テグジュペリの『星の王子さま』には皆さん、どの程度親しんでいましたか?

宮田佳奈「子供の頃にも読んだことはありましたが、きちんと向き合ったのは大学一年の文化祭で、ミュージカルをやったとき。私はアンサンブルで、バラに扮したりしていました」

清水彩花「私は珍しい方だと思うのですが、この作品に関わるまで、一切読んだことも観たこともなくて、今回初めて勉強しました。はじめは“バラって何ぞや”というようなところから入ったので、『星の王子さま』ファンの方々には申し訳ないのですが、いっぽうでマリーは原作には登場しないという意味では、逆に原作に引きずられず、良かったのかなとも思います」

今村洋一「小さいころ、『ぐりとぐら』などと並んで家に置いてあって、何となく読んでいたのですが、当時はただ王子様が来て去っていくという、ターミネーター的な話だと思っていて(笑)。今回読み直して、なんて哲学的な話なんだ、人生を通して読んでいきたいと思うようになりました」

――では、藤倉梓さんが書いた台本の第一印象はいかがでしょうか?
(C)Marino Matsushima

(C)Marino Matsushima

今村「難解でシュール、なのに美しいなと感じました。今回、演出家(藤倉さん)からは“考えるな、感じろ”というキーフレーズをいただいているのですが、場面が急に夢の中に飛んだり、砂漠を旅しているはずが突然日本のような場所に飛んだりと、(理屈で理解しようとすると)難しいんですよ。でも(心の)琴線に触れるようなフレーズがたくさんあるし、意味を感じずに響きを楽しむこともできる。ファンタジーのような世界です」

清水「私も、難しさの一方で日本語の美しさを感じました。藤倉さんは“らぬき言葉が嫌い”とおっしゃっていて、(語感が美しく)詩的だし、読み込むうちにしみこむものがありました。ぜひお客様にも体感していただきたいです」

宮田「私もはじめは“なんじゃこりゃ……”と思いましたが(笑)、稽古していくうち、例えば藤倉さんの台本では“砂漠”が”砂“ではなく“沙”の字を使っていらっしゃる、そこには藤倉さんの思いがあるんだなということが分かってきました。もっと感じたいと思って、(稽古をますます)頑張っているところです」

今村「稽古場ではみんな、よく泣いているんです。何か琴線に触れるものがあるんですよね」

清水「細かく考えて読み解くより、その瞬間に感じたものを楽しむような観方がいいかもしれません」

――解釈を観客に委ねる作品ではあっても、演じる方の中では一つの答えが出ているというものも多いかと思いますが、今回の場合は……。
Orange組の稽古より。

Orange組の稽古より。

今村「あまり決めつけずにやっていますね。敢えて余白を残しています。台詞も大げさな抑揚はつけないようにしています」

清水「マリーも、ラストナンバーまであまり感情を出さないようにして、最後に爆発させてくださいと言われています。ベースに、主観を混ぜすぎないようにというのがあるようです」

――それぞれ、どんなキャラクターとして演じていらっしゃいますか?

清水「ふだんなら(登場するまで)こういう人生を歩んできて……というのを組み立てて演じるのですが、今回はそういうものは作っていなくて、ただ“弟(=飛行士)の生きた証を見つけるまで旅を続けている人、という設定だけで演じています。自分で肉付けはせず、お客様があとは想像してくださればと」

今村「飛行士であれば“空を飛びたい”であるとか、一つのモチベーションだけを持って演じています。単純だけど、これがすごく難しいんです」

清水「シーンごとに芝居の質感も異なっていて、これまでやったことのない、面白いアプローチです」

――キャラクターが透明感をもって存在していて、その奥に清水さん自身が覗いてみえる、というような?

清水「そういう感じかと思います」

宮田「私も、サン・テグジュペリについての勉強はしましたが、“王子”の声を作るといった役作りは全くしていなくて、“今起きていることを楽しむ”ことに集中しています」

清水「(王子さまは)本作では、最終的にストーリーテラーというか、一番、状況が客観的に見えている役かもしれないですね」

――皆さん、藤倉さんの演出は何度目でしょうか?
Argo組の稽古より。

Argo組の稽古より。

今村「僕は『ordinary days』『I love you,you are perfect, now change』に続く3本目です」

清水「私は『Marry me a little』と『A shape』という西川大貴さんとの共同制作みたいなソングサイクルでお世話になりましたが、台詞のあるミュージカルとしては本作が初めてです」

宮田「私は『氷刀火伝』に続く2作目ですね」

今村「藤倉さんは感性の塊で、冷静で文学的であるいっぽうで、優しさや愛も持ち合わせてる。そしてかわいい(笑)」

清水「これまでいろいろな(演出家の)作品に出演していますが、藤倉作品は稽古がすごく楽しいんですよ。オリジナル作品なので一緒に作ってる感じもあるし、笑いも絶えないです」

宮田「一緒に立ち止まって考えてくださるし、ノート(ダメ出し)をしている藤倉さんの言葉も勉強になるんです」

今村「(プロデュース公演でも)“劇団感”があるよね」

――今回、ご自身の中でテーマにしていることはありますか?

今村「今回、客席がすごく近いのですが、大きな劇場ではこちらから発信しなくちゃいけないのが、ここでは“わっ”と表現すると(お客様が)引いてしまう。そうではなく、引き算の演技をしないと、と思っています」

――こもった演技をしていても伝わるように、ということですか?

清水「インナーで演技しないで、というのはよく言われますね。今までやってきたお芝居の概念をとっぱらうというか、ミュージカルというより演劇を観に来たというような感じのお芝居ができたらなと思っています」

宮田「客席と舞台が近いだけに、観ている人が一緒に旅をしてるような感覚になれたらいいな。感じたままのお芝居をお見せ出来たらと思います」

――どんな舞台になりそうでしょうか?
『ソレイル』ローズ組の稽古より。

『ソレイル』ローズ組の稽古より。

今村「世界史上初・超至近距離ミュージカルになるんじゃないかな。こんなに近くにミュージカル俳優がいるというのは、なかなかないと思います」

宮田「3組のキャストそれぞれに違うカラーなので、見比べてほしいです。私自身、他のチームの稽古を観るのが楽しみです」

清水「実際御覧いただけると、今までお話してきたことがよくおわかりいただけると思います。この空気感、ぜひ感じてほしいですね」

今村「“最高の森林浴が出来ます”と言われても、現地に行かないと体感できなかったりするものね(笑)」

――お一人ずつ、プロフィールについても少しだけうかがわせてください。今村さんはICU(国際基督教大学)のご出身だそうですが、何を専攻されていたのですか?

今村「ICUといっても、集中治療室じゃないですよ(笑)。僕は行政学を学んでいましたが、サークルで演劇をやっていて、卒論も演劇でした。就職活動中に友人を通して(俳優)事務所からお誘いをいただいて、なんとなくやってるところがありまして。(この世界から)いなくなる寸前に、最後にと思って受けたオーディションで『ユーリンタウン』に抜擢していただきました」

――文化庁芸術祭演劇部門新人賞にノミネートされた舞台ですね。筆者にとってはミュージカル座の『トラブルショー』で、骨太の存在感を示した舞台監督役が印象的でした。

清水さんは子供の頃からミュージカルに出ていらっしゃったのですね。

清水「8歳の時に『アニー』でデビューしたので、芸歴20数年です。きっかけは3歳で『アニー』を親子で観たこと。帰り道に(主題歌の)「トゥモロー」を歌っていたそうで、親が“才能あるかも!”と劇団に入れてくれました」

――『レ・ミゼラブル』には史上最年少でアンサンブル出演されたそうですね。

清水「18歳でした。当時も光栄には思っていましたが、今振り返ってみて改めて恐ろしいことをしていたと思います。(高校の)制服を着て稽古場に通っていましたが、若いからこそ物おじせず、あの現場で過ごすことができたんだなと。『レ・ミゼラブル』は大好きな演目で、小学生のころからCDを繰り返し聞きながらプリンシパルを夢見て頑張っていたので、その後コゼット役を演じることができ、一つのゴールに到達できてよかったと思っています。ファンテーヌは、ですか? そうですね、いつかはと思っています」

――宮田さんは桐朋短大の演劇科でミュージカルを専攻されていたのですね。

宮田「もともとは高校の音楽科で声楽をやっていて、音大に行くつもりだったのですが、高2ぐらいの時、東京にたまたまレッスンに行って(ついでに)ミュージカルを観て、歌って踊れてお芝居できることを知ったんです。その頃、声楽の裏声の発声が自分に合わず、一度レッスンで地声でやってみてと言われたら、とても声が出て“その声を生かしたことをやってみたら”と言われ、それはミュージカルということで、この世界に飛び込みました。

イッツフォーリーズには、大学の卒業公演『ヴェローナ物語』に劇団の吉田雄さんが客演していて、“来ませんか”と誘われたのがきっかけでした。『ゲゲゲの鬼太郎』を観に行って、私、ファミリー・ミュージカルが大好きなので、うわぁこれやりたい!と思って、入団しました」

――皆さん、表現者としてどんなビジョンをお持ちですか?

今村「僕は内容的なこだわりはなく、人が好きで、誰かのやりたいことを一緒にやったり、誰かのために何かが出来たらといつも思っています。

そのいっぽうで、最近は作曲に目覚めまして、“ひとっとび集団”というパフォーマンス・グループで京橋エドグランというビルのテーマソングや、小此木まりちゃんのラジオ番組のテーマを書いたりといったこともやっています」

清水「私はこれまでずっと歌をメインでやってきて、ここ数年、自分が大人になったと感じるなかで、お芝居をもっと勉強したいと感じています。ストレート・プレイに出たことがないので、出演するのが今の目標ですね」

宮田「私が最近感じているのが、劇団で取り組んでいる小学生向けの演劇ワークショップで子供たちの中から出てくる、表現の面白さ。自分も想像できないものがぼんぼん出てきて、とても新鮮なんです。私も彼らみたいにずっと新鮮でありたい、ニュートラルな状態でいろんな現場に飛び込んでいけたらなと思っています」

【観劇レポート】
『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

Y字のように中央から花道が延びた白いステージ。小澤時史さんが演奏する和やかなメロディに乗ってマリー、王子、そして飛行士が一人ずつ、ゆっくりと登場する。弟を探して砂漠を旅するマリーは彼らと出会い、たわいない会話を重ねるが、そのうち“千人針”や“玉砕”といったワードが登場。お馴染みの『星の王子様』の劇世界に、日本人の戦争体験が重ね合わされてゆく……。
『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

『星の王子様』の作品世界をなぞるように始まった物語は、別次元と行き来し、溶け合う。そしてマリーの涙の代わりであるかのように、とめどなく落ちてゆく砂のイメージへと集約されてゆきます。
『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

そのベースにある“亡くなった者への思い”のたけが歌われるクライマックスのナンバー「砂の聲」は、シンプルながら印象的なメロディ。この日の「ローズ組」キャストのマリー役・清水彩花さんが、歌詞に登場する一つ一つのイメージを刻み付けるように絶唱。明朗な今村洋一さん(飛行士)、可憐にして謎めいたかとう唯さん(王子)とともに、ユニークなひと時を作り上げています。
『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

『ソレイル』ローズ組の舞台より。写真提供:オールスタッフ

この日は客席に高齢の方も多数。『星の王子様』の作品世界を想像して来場された方にとっては、身近なモチーフの登場にはっと胸を突かれ、思いがけない感慨に襲われた方もいらっしゃったかもしれません。


*次頁で『DAY ZERO』とMET LIVEビューイング『コジ・ファン・トゥッテ』をご紹介します!
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