ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2018年5月の注目!ミュージカル(5ページ目)

薫風の候、新キャストを迎えた『モーツァルト!』、笑いと愛に溢れる『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』等、様々な話題作が幕を開けます。今回も少しずつ演目をご紹介し、随時取材記事、観劇レポートを追記していきますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

 

DAY ZERO

5月31日~6月24日=DDD青山クロスシアター

【見どころ】
『DAY ZERO』

『DAY ZERO』

もしもある日突然、召集令状が届いたとしたらその日(=デイ・ゼロ)まで、自分は残りの時間をどう過ごすのか。2007年に公開されたイライジャ・ウッド主演のアメリカ映画を、東野圭吾原作の『手紙』が高く評価された高橋知伽江さん(台本)&深沢桂子さん(作曲)のコンビが舞台化。演出に吉原光夫さんを迎え、新たなオリジナル・ミュージカルが誕生します。

かつての級友で、今は弁護士、タクシー運転手、小説家と全く違う道を歩んでいる3人は、同じ運命に直面した時、それぞれに異なるリアクションを見せる。自分の生き方を真剣に見直す中で、見えてくるものとは……。

“運命の3人”役に福田悠太さん(ふぉ~ゆ~)、上口耕平さん、内藤大希さん、弁護士の妻役に谷口あかりさん、タクシー運転手が出会う女性役に梅田彩佳さん、ほか複数の人物役に西川大貴さんを迎え、遠いようで実は日本に住む私たちにとっても決して“遠い”わけではない世界を、リアルに体感させてくれそうです。

【観劇ミニ・レポート】
『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

ギターの音色(演奏・中村康彦さん)に伴われながら、出演者たちが一人、また一人と現れ、主題歌“Day Zero”を歌う。“始まるぞ カウントダウン”とたたみかけるサビはやや落ち着いたテンポで、以降も舞台は突然召集令状を受け取った3人の男たちの内面を、ドラマティックというよりむしろ冷徹に、浮かび上がらせて行きます。
『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

“弁護士”は妻ががん闘病を終えたばかりで、とても彼女を残してゆくことはできないと考え、兵役免除を受けられないかと父を頼る。演じる福田悠太さんは、順風満帆に見えてダークな記憶を抱える弁護士を、誠実に表現。マッチョで正義感の強い“タクシードライバー”は、召集令状に一も二もなく応じるつもりだったが、職場で出会った若い女性との触れ合いの中で、初めて自分の生き方にとまどう。上口耕平さん演じる同役は頼もしさに溢れ、そんな彼がどのように揺れ動いてゆくか、観る者の注目を集めます。そして物事を客観的に観察してばかりいたのが、突然自身が主体となってしまう“小説家”役は、内藤大希さん。3週間というタイムリミットの中で“やっていなかったことリスト”をこなすも、それだけでは解決できない何かと葛藤し、思いがけない行動に出る青年をリアルに演じています。
『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

タクシードライバーが出会うパトリシア役の梅田彩佳さんには飾らずして華があり、弁護士の暗い過去に関わるジェシカを演じる谷口あかりさんは、心に傷を負った女性像を陰影濃く体現。またカウンセラーやゲイの男性、弁護士の父など、いくつもの役を担当する西川大貴さんの、表面的でなく役の性根をとらえた演じ分けが印象的です。
『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

『DAY ZERO』撮影:神ノ川智早

時代設定は2020年。すぐ目前の未来、というこの設定が、ひたひたと迫り来る楽曲の余韻とあいまって、およそ“他人事”ではなく映る。見る側もまた“ある日突然、運命を突き付けられたら”と感じずにはいられない舞台です。


【タクシー運転手・ジェームス・ディクソン役 上口耕平さんインタビュー】
上口耕平undefined和歌山県出身。『スカーレット・ピンパーネル』『Color of Life』『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『シスター・アクト』等、舞台を中心に活躍。秋には『タイタニック』に出演予定。(C)Marino Matsushima

上口耕平 和歌山県出身。『スカーレット・ピンパーネル』『Color of Life』『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『シスター・アクト』等、舞台を中心に活躍。秋には『タイタニック』に出演予定。(C)Marino Matsushima

――台本を読んで、どんな第一印象を抱かれましたか?

「近未来という設定ではあるけど、まさに僕たちと同世代の人たちの話で、ひとごとではない、本当にこういうことが明日にでも起きるかもしれない、という危機感を覚えました。(物語の舞台である)アメリカは、より状況がひっ迫しているかもしれないけれど、平和惚けしている日本だって、何が起こるかわからない状況ですよね。そのいっぽうで、今回のように“戦争”がきっかけでなくとも、いつ自分(の人生)にリミットが来るかわからない中で生きている、そういう意味でも、背筋のぴりっとする内容に感じました」

――そうした物語をミュージカル化する、ということについてはどう感じましたか?

「僕の中では案外、“これをミュージカルで(やるのか)?!”という驚きはなかったです。これまで、オリジナル・ミュージカルを含め、いろいろな作品を経験させていただいて、ミュージカルの幅(定義)が自分の中で膨らんでいたためかもしれません。(心象風景の)表現として歌が登場することに対して、摩擦は無かったです」

――どんな音楽が登場するでしょうか?

「今回、演奏はギター一本で、とても自由度が高いと感じます。オーケストラが演奏をしてここでコーラスが入って、というようにかちっと枠が決まっているというより、自分の感情で語るように歌う音楽がちりばめられて、自由度が高いいっぽう、だからこそハードルも高いと感じます。激しいロックもあればバラードもあって、いろんな曲調がありながら、深沢さん独特の旋律に貫かれていて、僕はすごく好きですね。自分が歌うナンバーには、歌いやすい曲もあれば難解だなというも曲もあります」

――上口さんが演じるのは、ある日突然召集令状を受け取る3人の幼馴染のうち、タクシードライバーのジェームス・ディクソン役。どんな人物像でしょうか?

「昔はちょっとやんちゃをしていて、腕っぷしが強いというか、正義感が強くて仲間のために敵に立ち向かう、武闘派というか硬派な役ですね。正直、こういう役はやったことがないので、“挑戦”感はありますが、性格的に僕自身からはそんなに遠くないと思います。学生時代に生徒会長であったり、「よし、行くぜ」とリーダーシップをとるようなことは好きだったので」

――3人の中では、召集令状に対して、一番能動的なタイプでしょうか。

「むしろ、一番揺れ動くタイプですね。はじめこそ“俺は行くよ”と一番に手を挙げるけれど、その後、ある女性と出会って(恋心が芽生え)“あれ、俺ってこんな?”と揺れ動く。性格的にすごく不器用なタイプの人間です。でも、もし召集令状が来てない段階で彼女と出会っていたら、何も起こらなかったかもしれません。令状が来ているからこそ、揺れ動いたんじゃないか。幸せなんて俺にはないと思っていたところに彼女と出会ったために、“あれ、幸せになれるの俺?”と。それが人間の弱さというものですよね」

――戦争に駆り出されるということに対して異なるリアクションをする3人は、人間の3つのタイプを象徴しているようにも見えます。ドライバーという人物はその中でも多くの方が共感しやすいタイプでしょうか。

「日本ではもしかしたら、男性が御覧になったら(ドライバーではなく)小説家に共感しやすいかもしれませんね。“(召集令状って言われても)わからないよ、人を殺すって何?”と戸惑う、というのが彼のスタンスです。でも3人のいずれにも、共感できるところがあると思います」

――こういったこと、稽古でもディスカッションされていますか?
演出の吉原光夫さん

演出の吉原光夫さん

「本読みを1週間ぐらいやりましたが、この期間はみんなでこの作品を共有する時間として、かなりディスカッションをやりました。だから今ではどのシーンのことも、キャスト全員が説明できると思います。

演出家の吉原(光夫)さんは、役者にとってはたくさん救いを与えてくれるというか、共有させてくれる演出家。もしディスカッション無しで自分で考えていって稽古でそれをぶつけ合う形だと、それまでが不安だと思うんですね。でも今回は安心して、立ち稽古が始まるまでに共通の認識を持てましたし、大事なところを守っていれば自由にさせていただけるので、動きなどは基本、自由。とてもクリエイティブな稽古場です。もちろん演出にはいろいろなやり方があると思うけれど、少人数で人間関係がものすごく重要な今回のような作品には、この進め方は素晴らしくフィットしていると思います」

――共演の福田悠太さん、内藤大希さんは共演されてみていかがですか?

「僕ら、ちょうど(年齢が)一つずつ違いで、同じ高校にいる感覚なので話が合うし、3人で話しているうちに“飲みに行こうか”となる関係性が、作品の関係性と似ているんですよ。不思議に役の3人組と重なっています。

役者としては、内藤君については、僕はとにかく彼の歌が好きですね。今回が初共演ですが、こちらのアクションをものすごくキャッチしてくれて、細かいニュアンスも膨らませてくれる役者だと感じます。福田君は、僕にはないものを持っていて、とにかくまっすぐ。僕は(演出で)言われたことに対して、解釈であったり、なんでも一回自分でかみ砕こうとするけれど、彼はストレートに物事を受け取るタイプ。僕と芝居をしていても、胸を開いてくれてるのがすごく伝わってきます。こういう表現を人に対して使ったことがないのですが、人間的に“すがすがしい”人なんですよ。自分を見つめなおしたくなります(笑)」

――今回、ご自身の中で特に課題にしていることは?

「常に課題しかないんですけど(笑)、今回は、これまで僕を応援してくださっている方が観たことないタイプの役だと思うので、こういう一面もあるんだ、と大きくうなずいていただけるように。“新境地”というほどではないにしても、新たな一面であることはお客さんに感じていただけるようにしたいです」

――どんな舞台になりそうでしょうか?

「観たことのないタイプのミュージカルになることは、間違いないです。ギター一本で、コーラスが幾重にも重なる音楽が特徴的で、“この曲、好き”と思っていただけるナンバーもたくさんあると思います。いっぽうではお芝居の部分が多くて、ストレートプレイみたいなところもあって、僕もあまりこういう作品は、観たことがないですね。そして、御覧いただいた帰り道に、(久しぶりに)お母さんに電話しようかなとか、あいつと会おうかなとか、これやっとこうと思ったり、前向きに、大切なものを見つめなおしていただけるような作品になればと思っています」

――開幕が楽しみになってきました。プロフィールについても少しだけうかがわせてください。経歴を読み直しておりましたら、上口さん、高校入学と同時に上京されたのですね。
(C)Marino Matsushima

(C)Marino Matsushima

「そうです。6歳で和歌山のダンススタジオに入って、小学2,3年生ぐらいからは完全に、ダンサーというか、表現者としてやっていきたいと思っていました。上京したのは、東京でダンスのオーディションを受けたり活躍したいと思ったからです」

――高校卒業後は学習院大学に進学。何を専攻されたのですか?

「僕は日本語が好きで、日本文学科に進みました。3年からは日本語教育法を専攻し、日本語学校で教育実習もしましたよ。卒論のテーマは“身体表現と記号論”。ずっとダンスをやってきたこともあって、身体表現も言葉も記号であるということから、例えば“あっかんべー”はどうしてああいう仕草をするのか、どこから生まれてきたのかといったことを分析しました」

――今のお仕事にも繋がっていますか?

「繋がるときもあります、もちろん。高校時代も現代文が得意で、“これは何を示すか”といったテスト問題を解くのが大好きだったけど、今も台本を読みながらこの台詞の意味は……と想像するのが大好きです。それでもまだまだで、(吉原)光夫さんたちとお話ししていると、そこには気が付いていなかったということもたくさんあります。そういう意味では、ストレートプレイにも挑戦していきたいですね。“ミュージカルしかやらない”と決めているわけではないので、機会があれば。どんどんフィールドを広げていきたいです」


【5月上映の注目舞台】

MET(メトロポリタン・オペラ)ライブビューイング『コジ・ファン・トゥッテ

5月5~11日=東劇、新宿ピカデリーほか

【見どころ】
Marty Sohl/Metropolitan Opera

Marty Sohl/Metropolitan Opera

ブロードウェイを代表する女優の一人、ケリー・オハラ。『マディソン郡の橋』や渡辺謙さんと共演の『王様と私』等で美声を響かせてきた彼女が、モーツァルトのオペラに出演。恋人の貞操を信じる若者たちに“ちょっとした悪戯”を仕掛ける哲学者の小間使い役で、舞台狭しと活躍します。
Marty Sohl/Metropolitan Opera

Marty Sohl/Metropolitan Opera

1950年代のコニー・アイランド・リゾートに設定を移した、今回のフェリム・マクダーモット演出版には、コーヒーカップや回転木馬、気球などの大掛かりな装置のほか、火吹き芸人や剣呑み芸人など、実際の大道芸人も多数出演。華やかにして妖しい独特の舞台空間の中で、若者たちの恋の駆け引きが展開します。
Marty Sohl/Metropolitan Opera

Marty Sohl/Metropolitan Opera

哲学者たちの企みに踊らされる姉妹役のアマンダ・マジェスキー、セレーナ・マルフィら、圧倒的な厚みある声の持ち主であるオペラ歌手たちと並ぶと、ケリーの声は若干細く感じられるものの、その歌唱は丁寧で美しく、芝居心も抜群。

彼女自身、幕間のインタビューでも語っているように、現代的感覚からするとやや女性蔑視的な側面もある本作を、たわいないおふざけとしておおらかに見せることに大きく貢献しています。ケリーの出演によって、オペラがミュージカルの“先祖”であることが再確認できる本作、見逃せません。
 
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