5月19~27日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、6月1~10日=TBS赤坂ACTシアター
【見どころ】
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』早霧せいなさん(中央)、相葉裕樹さん(右)、宮尾俊太郎さん(左)(C)Marino Matsushima
1942年のキャサリン・ヘプバーン主演映画を81年にカンダー&エッブ(「シカゴ」「キャバレー」)が舞台化、トニー賞最優秀スコア、脚本賞ほかを受賞したミュージカルが、久々に日本で上演。元・宝塚歌劇団雪組トップスターの早霧せいなさんが退団後初、ブロードウェイではハリウッド・スターのローレン・バコールが演じたキャリアウーマン役に挑みます。
早霧さんが演じるのは、活躍中のニュースキャスター、テス。ひょんなことから風刺漫画作家のサムと結婚するが、仕事に追われ夫との間に亀裂が。仕事と家庭の狭間で悩む彼女が下す決断とは? 現代女性にとって身近なテーマを、早霧さんがどう演じるか。またテスに影響を与えるバレエ・ダンサー役で、Kバレエ カンパニーの宮尾俊太郎さんが出演、ダンスとともに歌声を披露するのも見どころです。
【公開稽古レポート】
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』公開稽古より。(C)Marino Matsushima
初日開幕まで2週間を切ったこの日の公開稽古では、ミュージカル・ナンバーの中から3曲を披露。幕開けのナンバー「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」では、その年に最も輝いた女性に贈られる「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」授賞式を描きつつ、夫サムと喧嘩したばかりのテスの本音が語られます。
華々しく登場した早霧さんは、きっぱりと清潔感溢れるたたずまいがニュースキャスター役にマッチ。コミカルな歌詞もあいまって、どんなドラマが展開してゆくのか、興味をそそります。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』公開稽古より。(C)Marino Matsushima
続くナンバーは「戻らない時間」。サムが仕事優先のテスとのすれ違いを、自分の描く漫画のキャラクター、カッツにぼやくという内容で、相葉裕樹さんが袋小路に入ってしまった夫婦関係を物憂げに歌い上げます。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』公開稽古より。(C)Marino Matsushima
そして3曲目はサムの漫画家仲間に受け入れられたテスと漫画家たちのナンバー「女だけど男」。“男なんかには負けない、私は女だけど男なの”という歌詞はまるで宝塚の男役を卒業したばかりの早霧さんのために書かれたよう。最後にはほぼ全員が登場、ラインダンスを含めた賑やかなダンスが繰り広げられ、場内がハッピーな空気に包まれました。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』公開稽古より。(C)Marino Matsushima
続いての囲み取材では、早霧さん、相葉さん、バレエダンサー役の宮尾俊太郎さんが登場。それぞれの役柄について、早霧さんは「テスはバツイチのアンカーウーマンで、サムと出会って電撃的に結婚します。そして仕事と彼との結婚生活の両立を図るなかで、彼女がどう変わっていくか、が見せ場になればと思っています」、相葉さんは「サムははじめ敵視していたテスと恋に落ち、結婚するのですが、育った環境が違うことでうまくいきません。サムは庶民代表で一般的感覚を持っていると思うので、お客様も共感できるキャラクターではないでしょうか。テスにどう振り回されるか、(舞台をみて)確認いただければと思います」、宮尾さんは「ロシアから亡命したバレエダンサーですが、残してきた妻のもとに帰りたいと思っており、テスに衝撃を与えます。とてもハッピーな役柄で、僕も根はハッピーですので共通するかと思います」と語ります。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』公開稽古より。(C)Marino Matsushima
退団後初めての女性役とあって、早霧さんは「無駄な動きをしないほうがエレガントに見えると思うのですが、同時に(普通に)呼吸もしないといけないので……」と苦心のほどを吐露しますが、相葉さんがすかさず「(早霧さんは)めちゃ、エレガントだし、(体の)見せ方を教えてくださる」とフォロー、宮尾さんから「この(二人の)さまがテスとサムになっているんです。テスがサムという新しい男性と出会うさまが、宝塚でトップを務めるという偉業を成し遂げた早霧さんとリンクしていると思います」と、見事なまとめが。
これを受けて「(こんなに褒められて)裸の王様にならないように……」と自分を戒める早霧さん、これにも「(裸の)“お姫様”ね」と付け足す宮尾さん。息もぴったりな様子から、カンパニーの一体感が覗く会見となりました。
【観劇レポート】
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』撮影:森好弘
冒頭で描かれるのは、“最も輝いている女性”に贈られる「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の授賞式。選出されたニュースキャスター、テス(早霧せいなさん)は華々しく登場しつつも、“幸せや安心なんて欲しくない”と、どこかとげのあるナンバーを歌い始めます。その理由をひも解くように、場面は彼女が漫画家のサム(相葉裕樹さん)と出会った8か月前へ……。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
頭脳明晰で各国の首脳やセレブたちにも顔が効く上に、容姿端麗。“最強の女性”、に見える彼女ですが、唯一の泣き所が、出会ったサムとの会話からぽろり。「(男たちに)逃げられちゃう」。彼女のあまりの完璧さに、男たちは怯えてよりつかない、というのです。このあたり、仕事に打ち込む現代女性の中には、少なからず共感できる方もいらっしゃるかも。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
多くの男性とは異なり、そのままのテスを愛するサム。意気投合した二人はあっという間に結婚するものの、ペースを落とさず仕事に燃える彼女とサムの間には徐々に亀裂が。果たして修復は可能なのか?……というのが本作の骨子ですが、今回の舞台、決して“ハンサム・ウーマンのワーク・ライフバランスに関するシリアスな問題作”ではありません。
台本にちりばめられたユーモアを演出の板垣恭一さんがさらに強調、キャストの弾けた演技と相俟って、実に“笑いに溢れた”エンタテインメントに仕上がっています。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』”どちらさまでしょう”ショットその1(左から3人目、4人目はどなたかお判りになりますか?)(C)Marino Matsushima
例えば今回の舞台で特徴的なのが、何かと“総動員”で歌い、踊られるビッグ・ナンバー。テスや主要キャラクターを巡って物語が動くと、舞台上にはほぼ全員が登場。準主役的な役どころの方々も、あっと驚く変装(?!)にて現れ、中には二度見、三度見せずにはいられない扮装も。熱々のテスとサムがなぜか増え続ける来訪者たちに邪魔されるくだり等でも、皆が一致団結してバカバカしさに徹し、無邪気な笑いを提供しています。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』”どちらさまでしょう”ショットその2(中央の女の子?、存在感ありすぎです)(C)Marino Matsushima
主演の早霧せいなさんは役柄によくはまり、“女性たちの憧れの的”でありながら弱点もある等身大の女性テスを、宝塚のトップスターとして培った華やかな存在感、颯爽とした身のこなしを生かして体現。くるくると変わる表情から、コメディエンヌとしての才も充分に感じさせます。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
また、彼女を愛するサム役の相葉裕樹さんも、仕事への信念と行動力のある男性像を予想以上に男らしく演じ、スレンダーな長身という外見も含め、早霧さんとの相性抜群。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
ロシアから亡命したバレエダンサー役・宮尾俊太郎さんは今回が初ミュージカルながら、歌いながらバレエの振りを踊る見せ場を軽やかにこなし、飄々とした口跡もチャーミング。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
ロイヤル・バレエで頂点を極めた後、『雨に唄えば』等のミュージカルでも活躍する英国のスター、アダム・クーパーの例もあるだけに、今後もぜひ日本のミュージカル界に新風を吹かせていただきたいところ。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
またテスの“元・夫の現在の妻”であるジャン役の樹里咲穂さんは“普通の主婦”をほんわりとした空気感で楽しく演じ、テスとともに朝の報道番組を仕切るナルシストのキャスター役・原田優一さんも、登場する度くすくす笑い(時に爆笑)を誘う怪演を見せています。
『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』(C)Marino Matsushima
時にゴージャス、時にユーモラス、そして楽しさが溢れる舞台。鑑賞後はきっと、足取り軽く帰宅できるミュージカルです。
*次ページで『ソレイル~太陽の王様~』をご紹介します!