アメリ

5月18日~6月3日=天王洲銀河劇場、6月7~10日=森ノ宮ピロティホール

【見どころ】
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

“観ると幸せになれる映画”と口コミで広まり、日本でも大ヒットした2001年の同名映画が、『巴里のアメリカ人』の脚本家クレイグ・ルーカス、ネオ・フォークバンド「Hem」の作曲家ダン・メッスの手で2015年に舞台化。17年にはブロードウェイで初演され、この度、日本上陸を果たします。

パリを舞台に、変わり者と言われる空想好きの女の子アメリが、周囲の人々を幸せにしながら自分も小さな一歩を踏み出してゆくまでを、時にユーモラス、時にシニカルに描く物語。

主人公アメリを渡辺麻友さん、彼女が出会う青年ニノ役を太田基裕さん(『手紙』『刀剣乱舞』)が演じるほか、老画家役の藤木孝さん、物乞い役の植本純米さん、カフェのオーナー役の明星真由美さんら、演劇界からミュージカル界まで、幅広い実力派が集結。この布陣でミュージカル「黒執事 -Tango on the Campania-」他を手掛けてきた児玉明子さんがどんな演出を見せるのか、期待が膨らみます。

【観劇レポート】
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

真っ赤なワンピースを着た少女アメリ(ダブルキャスト・この日は叶英奈さん)が現れ、思い込みの激しい両親によって育てられる過程を歌う。コミュニケーション下手で空想好きの女の子に育った彼女(渡辺麻友さん)は家を出、一人暮らしをすることに。

カフェで働くうち、誰かの子どもの頃の“宝箱”を発見、その持ち主を探したり、知り合いの男女の恋のキューピッド役を密かに務めたりと、“いいこと”を積み重ねる日々に喜びを見出すが、自分のことは後回し。そんなアメリを見かね、近所の老画家(藤木孝さん)は“このまま人生が終わってもいいのか?”と忠告する。そんな折、彼女は風変わりな青年ニノの落とし物を拾うのだが……。
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

弦楽器の効いたフォーキーな音楽に乗って、主役以外のキャストが黒田育世さん、西川卓さんによるコンテンポラリーダンス風の振付のもと、通行人、教会の信者など目まぐるしく役割を変え、プロジェクションマッピングとも連動してゆく。

彼らの動きはかなり複雑で忙しいものの、多彩なフィールド出身の彼らが芝居っ気たっぷり、そして何より楽し気に動きをこなしていることで情景に生命感が漲り、“慌ただしい世間”のなかで、人との関係がうまく築けない主人公の人物像が強く印象付けられます(演出・児玉明子さん)。
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

そんな劇世界の中で、今回がミュージカル初出演にして初主演の渡辺麻友さんは体当たりの熱演を見せ、空想好きのヒロインの風情もふとした瞬間のふんわりとしたたたずまいで巧く表現。フレーズ終わりに独特のこぶし(装飾)が付いた楽曲にもまっすぐ向き合い、ミュージカルに対する真摯な姿勢を感じさせます。
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

相手役の太田基裕さんも、様々な役をこなしつつアメリに振り回される青年ニノ役をナチュラルに体現。不器用過ぎてなかなか近づけない二人が遂に一枚のドア越しに思いを伝えあうクライマックスは、劇場じゅうが息をのむような恋しさ、美しさです。
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

またアメリの背中を押す老画家役として大きな存在感を見せるのが、藤木孝さん。アーティストとして人生の時を刻んできた厳しさ、頑なさが漂い、味わい深い一言一句が作品世界に陰影を加えています。
『アメリ』(C)Marino Matsushima

『アメリ』(C)Marino Matsushima

フランス発のストーリーにアメリカンな音が加わり、さらに日本の緻密さが加わった今回のミュージカル『アメリ』。人生を、恋をもう一度新たな視点で慈しみたくなる、そんな舞台の誕生です。

 

Play a Life

5月3日=シーメイトホール(プレビュー)、5月6~7日=シアター代官山

【見どころ】
『Play a Life』

『Play a Life』

『キューティ・ブロンド』等の大作演出でも注目される若手演出家・上田一豪さんが、自身の劇団TipTapで2015年に初演、上演を重ねてきた代表作の一つが再登場します。

ひょんなことから、自分の指導教員が昔の恩師の夫であることを知る教育実習生。“夫”の秘密を知り、教育実習生は自分に出来ることは無いかと思いあぐねる。夫、妻、教育実習生それぞれの思いが交錯するが……。

ロビン・ウィリアムズ主演映画のタイトル『いまを生きる』をキーワードに、生と死、永遠の愛をじっくりと描く本作ですが、今回は作者・上田さんが執筆時からイメージしていたという彩吹真央さんが妻役を、そして数々の大作ミュージカルで活躍してきた岸祐二さんが夫役を演じるのが最大の話題。教育実習生役には澄んだ歌声が魅力の平川めぐみさん。これまで夫婦役には比較的若手がキャスティングされてきたなかで、今回はキャリア十分のお二人がどんな夫婦像を見せてくれるか。注目が集まります。

【観劇レポート】
『Play a Life』写真提供:Tip Tap

『Play a Life』写真提供:Tip Tap

下手(舞台左側)奥で小澤時史さんが奏でる、キーボードの柔らかな音色。それを聴きながら、下手の椅子に腰かけた男性(岸祐二さん)は映画のパンフレットを捲り、背後に現れた女性(彩吹真央さん)は美術館の来客よろしく、あたりを眺めます。何かに……例えば“思い出”に浸っているかのような男女の姿をじっくり見せた後、平川めぐみさん演じる教育実習生のきっぱりとしたモノローグで、物語はスタート。
『Play a Life』写真提供:Tip Tap

『Play a Life』写真提供:Tip Tap

1冊しかない映画のパンフレットをどちらが買うか、をきっかけに「この映画が好きなら、きっといいひとだから」と交際を始める男女。岸さん、彩吹さんの持ち味によって、二人のなりそめがさらりと自然体で描かれた後、夫婦となった今、なぜか二人の間にはすきま風が吹く様子が描かれます。そんな彼が非常勤講師を務める高校で出会ったのが、教育実習生。小学校の恩師の存在がきっかけで教師を目指したという実習生は、彼が触れられたくない“秘密”に気づいてしまう……。
『Play a Life』写真提供:Tip Tap

『Play a Life』写真提供:Tip Tap

夫婦が愛する映画の邦題をキーワードに、夫婦の愛と“喪失と再生”の過程がじっくり、丁寧に描かれる本作。3人という少人数で演じるシンプルな物語だけに、これまではキャストの個性によってさまざまなカラーで上演されてきましたが、“ベテラン”の二人を夫婦役に迎えた今回は、安定感抜群。上田一豪さんの作詞に特有の、言葉を意図的に多く詰め込んだ箇所も不明瞭にならず、きれいに言葉を粒立てて歌い、確かな技術を感じさせます。
『Play a Life』写真提供:Tip Tap

『Play a Life』写真提供:Tip Tap

岸さんは“見るべき映画リスト”を挙げながら歴史の授業をするナンバーをスケール感たっぷりに歌い、しっとりとした流れに躍動感をプラス。彩吹さんは冒頭、特に何をするでもなく存在するという、最も難しいであろう演技をナチュラルにこなし、この役の本質を体現します。

終盤、彼女が夫の肩に手を置き“長い間、有難うね”という台詞のさりげない優しさに、周囲ではハンカチを取り出す観客、多数。作者が執筆時からイメージしていたキャスティングであることを知らない方にも、理想的な“妻”役と映ることでしょう。実習生役の平川さんも、フレッシュさを見せつつポイントを押さえ、クライマックスでは“だから私は毎日、今を生きているんです”の台詞を、しっかりと聴き手の胸に届けています。
『Play a Life』写真提供:Tip Tap

『Play a Life』写真提供:Tip Tap

筆者の観た日、会場にはこれまでになく、幅の広い客層が訪れ、終演後はそれぞれに笑顔で席を立っていました。人生経験の多い層には、また一味違った感慨を持って受け入れられる作品であることを証明した形となり、今回は東京ではたった二日の公演でしたが、改めて長期の上演が待たれる本作です。

 

たいこどんどん

5月5~20日=紀伊國屋サザンシアター

【見どころ】
『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

ひょんなことから江戸を離れることになってしまった若旦那と太鼓持ち(幇間)の、途方もない旅を描いた井上ひさしの音楽劇。95年に佐藤B作さん主演で初演された本作が、23年ぶりに再演されます。

吉原を訪れた大店の跡取り息子・清之助と、彼についた太鼓持ちの桃八。二人はなじみの女郎を巡って薩摩の侍たちとトラブルになり、命からがら川へととびこむが……。

はじめこそお気楽なロード・ムービー調ですが、事態は坂道を転がるように悪化、いったい二人はどうなってしまうのかと目が離せなくなる本作。今回は『HEADS UP!』再演の記憶も新しいラサール石井さんを演出に迎え、彼いわく「井上先生の初期の“枯れていない”面白さがある作品」を、「原点回帰」を意識しつつ上演。

太鼓持ちの桃八役に噺家の柳家喬太郎さん、若旦那役に(病気降板した窪塚俊介さんの代役として)江端英久さん、女郎・袖ヶ浦ほか各地のキーパーソン役にあめくみちこさんはじめ、『キューティ・ブロンド』『Suicide Party』 の武者真由さんやSET、ラッパ屋、青年座、第三エロチカ等様々な劇団出身の手練れたちが集結、おかしくも切ない物語を生き生きと描いてくれそうです。

【観劇レポート】
*若干のネタバレがありますので、未見の方はご注意ください*
『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

舞台中央には座布団が一枚。“落語家・柳家喬太郎さん”が高座に座り、このところの国際政治も交えたマクラを喋るうち、いつしか傘を持った人々が登場。軽快な“和洋折衷”ナンバーとともに、物語世界へと移行します。喬太郎さん扮する太鼓持ちの“桃八”は、大店の若旦那・清之助とともに意気揚々と馴染みの女郎のいる吉原に出かけるも、侍たちと騒動を起こし、川に飛び込む羽目に。そしてしけに遭い、気が付けば東北行きの漁船に乗っていた……。
『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

江戸を離れた桃八が9年後にやっと帰郷するまでには、助けは来ず、相棒には裏切られて鉱山に売り飛ばされ、奴隷同然の3年間を経て着の身着のまま脱出、富本節を語って路銀を稼ぎ、清之助とまさかの再会を果たすも、今度は山賊に襲われ、さらにダメ押しの悲劇に襲われ……と、“泣きっ面に蜂”のオンパレード。

個人的な悲劇が“体制”や“歴史”と結びつくラストで、人間という存在や安穏とした暮らし(言い換えれば平和)のはかなさ、頼りなさが強烈に風刺される作品であることが印象付けられますが、今回のラサール石井さん演出では“超高速”ばりの円滑な運びに重きが置かれ、場面転換はもちろん、芝居そのものもてきぱきと展開。重要な台詞のくだりに音でアクセントをつけるなどわかりやすさにも配慮、玉麻尚一さんによるジャズ風、ラップ風と様々な曲調のナンバーを取り入れ、エンタテインメント性も充分です。
『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

また、落語の高座から劇世界へ、そして最後にまた高座へという“入れ子”の劇構造の中で、見事にその存在が生きているのが柳家喬太郎さん。駄洒落を飛ばし、世間をフィール・グッドに泳いでいた太鼓持ちが、先の見えない境遇に投げ込まれ、ぼろぼろになってゆくなかでも生来の人のよさと江戸っ子の心意気だけは捨てられずに生きる様を、滑らかな口跡ときれいな所作を駆使、まるで“作者のあて書きか?”と思わせるほどのフィット感と迫真性で演じています。

また急病のためやむなく降板した窪塚俊介さんの代役として、わずか10日間の稽古期間で本番に臨んだという清之助役の江端英久さんも、気ままに生きてきた若旦那の頼りなさを巧く醸成。悲劇の発端である女郎・袖ヶ浦や、各地で桃八たちが出会うファム・ファタール(運命の女)たちを演じ分けるあめくみちこんさんはじめ、多様な劇団出身のキャストも、各役を個性豊かに、生き生きと見せてくれます。
『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

『たいこどんどん』撮影:宮川舞子

ようやく江戸へと戻ってきた桃八と清之助が、驚愕の事実と直面するラスト。幕切れの桃八の台詞は、名もなき民の哀しさ、悔しさが滲む言葉ではあるものの、喬太郎さんの台詞回しはその“名もなき民”の精いっぱいの尊厳に溢れ、聴く者の胸を熱くします。“それでも、生きて行く”ことを力強く肯定、演劇の最も根源的な力に満ちた舞台に、本公演は仕上がっていると言えましょう。

*次ページで『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』をご紹介します!