杉窪章匡さん直営・プロデュースの新しいベーカリー
ジュウニブンベーカリー
新宿は京王百貨店の中地階に、2018年4月19日、代々木八幡の「
365日」や「
15℃」のオーナーシェフ、杉窪章匡さんが直営する新しいお店「ジュウニブン ベーカリー」がオープンしました。
パンはすべて地下の厨房で焼かれています。対面販売の売り場には、ウィリアム・モリスの壁紙、アンティーク調のインテリア。古き良きものを掘り起こし、今の時代に合わせて再構築するのは、杉窪さんの得意とするところです。
古くて新しい、今までにない雰囲気
「ジュウブン」がたっぷり満ち足りた状態を指すならば、「ジュウニブン」はそれ以上のこと。ジュウブン以上にいったいどんなことを考えておられるのか、杉窪さんに尋ねてみました。
ジュウニブンの意味するところは、「一周してさらにちょっと進んだところ」と杉窪さんは言います。「時代が一巡りして、ちょっと前までダサかったものが、なんだか新しいとか、お洒落に見えるとかってありますよね」。もちろん、それはかつてあったままではなく、時代とともに進化した形なのですが。
一見、普通に見えるけれど、実は……
ジュウニブンベーカリーの店のコンセプトは「再発見」。既存のパンを見つめ直し、再構築するところは、杉窪さんがプロデュースした「
サンチノ」のようでもありますが、この店に並ぶのは、見た目は普通の食パンにクロワッサンにバゲットに、あんぱんにクリームパンにカレーパンなど、日本の平均的なベーカリーのラインナップです。が、食べてみるとその食感や味わいに、「こんなパン食べたの初めて!」と驚くこともあるかもしれません。
ミルクフランスとあんバター
「ぼくは、パンより先に、お客さまやその土地ありきで店をつくります。ジュウニブンベーカリーは京王百貨店に来られる方のためにパンをつくっています。スタッフのためには、楽しくてやり甲斐のある作業を増やしています」
伊予柑ピールとホワイトチョコのツイスト
シンプルで小さめなパンが多い365日と比べると、大きめ(一般的には普通)サイズのパンは、アイシングやフレッシュフルーツなどが飾られて、すこし華やかになっています。「味のバランスを取るために、パンごとに何らかの工夫もしています。”いつも食べていたパンのはずなのに、何かが違う”と感じてもらえるように」。
パンをチェックする杉窪さん。厨房にはコンベクションオーブンが並ぶ。
「熟成」にポイントをおいたパン
365日のパンが、発酵をあまりとらず素材の味わいを生かした「新鮮」という概念でつくったパンならば、「ジュウニブンベーカリー」は「熟成」をテーマにパンをつくっているのだそうです。まずは最もシンプルなバゲットに注目してみましょう。
ジュウニブンバゲット
14時間の発酵をとった「ジュウニブン バゲット」(324円)は、クラストがこんがりと色よく焼けていながら、ハード過ぎず食べやすく、中はしっとり、乳製品も砂糖も入っていないのにミルキーな甘味が感じられ、それでいて深みのある味わいです。
ジュウニブンクロワッサンとパンオショコラ
食感が新鮮だったのは「ジュウニブン クロワッサン」(314円)。外側は硬質でパリパリと割れて砕け、中身は目が詰まった美しい渦巻き、そしてまた、ミルキーなコクのある甘味。このクロワッサンは焼き方に特徴があります。コンベクションオーブンで「ショコラクラシックみたいに、ひとつのクロワッサンでいろいろな食感を楽しんでもらえるように、温度設定を変えて焼き上げます」そんな技が使われていたんですね。
水分量マックス、ジュウニブンなパン
風船パン
杉窪さんが関わった店にはいつも、小麦粉に対して水分量100%のもっちりとみずみずしい、シンプルなパン(365日でいう「ソンプルサン」)がありますが、ここでは、その進化系が誕生しました。
フワッフワのもっちもち、風船パン
その名もかわいい「風船パン」(324円)。これは”ソンプルサンの娘”とでも呼びたいような、みずみずしさと甘さを備えています。しかもバルーン型のイタリア製の服を着て(ラッピングされて)いて、洒落ている。小麦粉に対して水分が100%のソンプルサンがジュウブンならば、これはジュウニブン、すなわち対粉120%の水分量のパンなのです。そこに有塩バターが入り、艶のあるリッチなテイストです。
食パンは国産小麦の特徴を生かした3種類
風船パンのベースとなっている生地は、超高加水の「ジュウニブン食パン」(486円)。キタノカオリがミルキーな味わいを、湯種製法がしっとりもっちりとした食感を、そしてルヴァン種も用いることで、旨味があるパンに仕上がっています。
ハチブン食パンがスタンダード
食パンはそのほかにスタンダードな「ハチブン食パン」(497円)と水の代わりにバターと卵を用いた「ニブン食パン」(540円)があり、それぞれ粉に対する分数で水分量が表示されています。
ジュウニブン的お総菜パンと菓子パン
自家製ソーセージのジュウニブンドッグ
お総菜パンや菓子パンに使われるハム、ベーコン、ソーセージ、ドライリンゴやきんぴらごぼうなどは、代々木八幡の15℃の厨房でつくられた自家製ゆえ、ほっとするおいしさです。
新食感。きんぴらごぼうパン
「きんぴらごぼうパン」(260円)のようなパンは「焼きこみ調理パン」と呼ばれるお総菜パンですが、これ、何も知らずに切りわけてお皿にのせたら「さつまあげ?」と思ってしまうかも。もっちもちの生地のベースはジュウニブン食パンが使われています。
あんぱん(249円)や栗あんぱん(281円)は、普通のあんぱんに見えますが、中が多層構造になっています。上から羊羹(15℃製)と求肥(ぎゅうひ。これも15℃製)、特別栽培の小豆餡(アグリシステムのもの)。甘くない羊羹で甘味を調整しているのだそうです。しっとり軽やかで、上質な和菓子を食べている気分になります。
ユニークなコミュニケーション
印象に残るパン
これは何だろう?自分が今、食べているものの香りは、質感は、味わいは、自分がかつて体験した何に似ているだろう?などと考えると、その食体験は記憶に残りやすくなります。ジュウニブンベーカリーのパンは、そんなパン。この記事で書いた以外にも、小さな驚きがいくつも隠されているようです。楽しい冒険と発見をお楽しみください。
混んだときはアルファベットの札を渡される
最後に、その冒険のお供にしたい音楽について書いておきます。
杉窪さんはこのお店をつくる際、言葉でなく、音楽を利用しました。パンは、サカナクションの「新宝島」を、内装は東京事変の「キラーチューン」を、包材はボブ・ディランの「風に吹かれて」を、職人やデザイナーに聴いてもらい、思い描くイメージを伝えたのだとか(音楽に疎い人は検索して聴いてみてください)。それぞれのサウンドがどこでどんなふうにこれらのパンや内装や包材デザインにリンクしているのかを考えると、冒険はより楽しくなること間違いなしです。
焼き菓子も
パンはすべて店内焼成
■
ジュウニブン ベーカリー
住所:新宿区西新宿1-1-4 京王百貨店新宿店中地階
電話:03-3342-2111(大代表)
営業時間:10時~20時半(日祝~20時)
Yahoo!地図情報
京王線新宿駅、JR新宿駅徒歩1分
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