足の親指の付け根が痛い時、考えられる原因・病気
足が原因の痛みと靴が原因の痛みがある
強剛母指、種子骨炎、捻挫、ハンマートウ、痛風、胼胝及び魚の目、ガングリオン、バニオン。他にも、全身性疾患に伴って症状の出るものもあります。
強い痛みや変形、腫れがある場合にはなるべく早く病院へ行き、診察をうけることが大切です。しかし痛みがそれほど強くないと、ついつい我慢してしまいがちな足の痛み。見た目にも変わったところはないし、何で痛いのか分からない、病院に行ってもどこにも異常はないと言われるケースもあります。親指の付け根の痛みを起こす原因を、足と靴の両方から見ていきましょう。
足の親指の付け根にかかる負担は、人によって個人差が大きい
親指の付け根の関節は、「第1中足指節関節」と言います。足の指の中でもこの部分に大きな負担が掛かることは想像が付くともいますが、その負担はどのくらいだと思いますか? 面白いことに、この関節にかかる負担の推定値は、正常な歩行における体重の30~100%と、報告によって変動がとても大きいのです。どの研究でも、人によって大きく異なるということが、報告されています。何故人によってそんなに大きく変わるのでしょうか。それは、計測モデルになった方の、足の形の違い、歩き方、歩く早さなど様々な条件に影響を受けるからだと考えられます。人によって母指に掛かる負担の大きさが違うということは、些細なことがきっかけで大きな痛みにつながってしまう人もいれば、ちょっとしたことなら親指に痛みが出ない人もいるということです。
足の形の違いでは、親指が一番長い人の方が、2番目の指が一番長い人よりも親指の負担は大きくなることがイメージできるでしょうし、ゆっくり歩く高齢者の方が負担は小さく、ランニングなどで走る機会の多い人の方が大きな負担が掛かりやすいのも、わかりやすい例かと思います。
いずれにしても体重の多くを支えている大切な関節構造です。親指の付け根に痛みが出てしまった場合、生活にも大きな影響が出てしまうことは言うまでもありません。
足が原因の親指の付け根の痛み・病気
■突き指(捻挫)による痛みこんなところを捻挫する?と思うかもしれませんが、足の親指でよくあるのは捻挫の一種である突き指です。ひどい場合には腫れや熱感などを伴いますし、ぶつけたりしたことを忘れないでしょう。しかし、家の中や、サンダル、つま先が開いている靴を履いたときにごく軽い力でぶつけただけでも突き指をすることはあります。そのため、よくよく話を聞いていると、「そういえばぶつけたかも……」と、やっと思い出される方もいるくらい、突き指をしたきっかけ自体を忘れてしまっている場合も少なくありません。日常生活に影響が出るような強い痛みではない場合が多いですが、関節の中がうずくような痛みが気になる程度にあり、なかなか痛みがなくならないので心配になってしまう方が多いようです。
突き指ではない、親指が正常の範囲を超えて反らされた「過伸展」による障害である「第1中足指節関節捻挫」の場合は、強い痛みと機能障害を引き起こすので、強い痛みが出た場合は受傷後すぐに病院を受診しましょう。
■強剛母指・制限母指による痛み
母指付け根を足の甲の報告である上側に動かせなくなくなっているか、動かしづらくなっている状態です。原因は「骨棘(こっきょく)」という骨にできたトゲや関節の拘縮、変形など様々あるため、痛みが出る場所もみんな同じではありません。歩くときの踏み返しで指を反らすことができず、そのときに痛みが生じます。ひどくなると立っているだけで強い痛みが現れることがあります。
親指の動きが悪かったら気づくでしょうと思われるかもしれませんが、
「強剛母指」という名前があまり知られていないことや、親指の末節の関節の動きが代償的に大きくなることなどで動きを補うため、動きが悪いことを指摘されて驚く人は多いです。
このような足には、靴底が固く、踏み返しの必要がないように、靴底がコロンと転がるような靴の方が適していると言えるでしょう。親指の付け根を動かさずに歩け、負担が軽減されるためです。痛いからと言って柔らかい靴を履いて来店されるお客様がいらっしゃいますが、靴底の屈曲性の高い靴は適していません。
ドイツでは保存両方として靴の加工インソールがよく用いられます。靴に行われるのは上記のような靴底を曲がりにくく、簡単にコロンと転がるようにする加工です。関節の動きの制限が軽度で、ある程度動かすことができる場合には、親指の動きを補うように加工されたインソールを用いて対処します。制限が強いため関節に動きが無く、さらに痛みも強い場合には、カーボンなどを用いて母指の下を補強したインソールを使用することで、母指を全く反らさなくて良いようにすることができます。
■種子骨炎による痛み
親指の中足骨頭の裏側には、種子骨という小さな骨があり、たいていの場合2つ付いています。種子骨炎はランニングやジャンプの多いスポーツなどでストレスを受け、発生しやすいと言われていますが、ここでは原因となりやすい靴を紹介しましょう。
種子骨炎の原因になる可能性のある靴の断面イメージ
気がつきにくいのはランニングシューズやスポーツスニーカーなど、先ほどの立ち上がった部分にインソールが入っているタイプの靴です。
靴底の立ち上がりが種子骨に触れたり種子骨が立ち上がりにのっかってしまう
このような慢性的な刺激で痛みが出ると、一時的にその靴の使用をやめてもすぐに痛みがなくならないことから、靴のせいではなく足に原因があるのだと考えてしまうことがあります。痛みの場所と靴の形をよく触り比べて、痛みのある部分に足に当たりそうな構造があるかどうかよく確認してみてください。
■ガングリオンによる痛み
親指の中足骨頭の上部にガングリオンという腫瘤ができることがあります。良く触ると小さな膨らみがあることに気がつくかもしれません。このガングリオンが、靴に当たって痛むことがあります。特にパンプスを履く場合に、このガングリオンのある場所と靴の履き口のラインがちょうど重なってしまうと強い痛みが生じます。
当たることなく履ける靴が見つかる場合や、アッパーが柔らかい靴を選ぶことで痛みなく歩けることもあります。自然に消失することもあるため、病院を受診した結果、様子を見ることになる場合もありますが、パンプスだと当たってしまって痛いのに、仕事でパンプスを履かなくてはいけない場合や、靴などの刺激する要因がなくても痛みがある場合には、病院で相談しましょう。
■登山靴やスキー靴による痛み……疾患ではないが痛みが生じる足の形
親指の中足骨頭が、他の4本の中足骨頭よりも下の足裏側に飛び出すように付いていることがあります。そういう骨格であって、病気や変形というわけではありません。この状態の足では、親指の付け根に痛みが出てしまうことがあります。
親指の中足骨頭は通常、他の4本の指と並んだ状態から、上方向の足の甲側にもわずかに動きます。つまり、平らな床に立っているときの足の状態から、上方向へ関節の可動域が残っていることが普通です。しかし、他の4本の中足骨頭よりも下側に親指の中足骨頭があると、本来立ったときに上方向へのゆとりとなるはずの可動域を、ただ立つだけで使い切ってしまいます。そのため、親指付け根が地面に押し付けられたような状態になってしまうのです。
このような特徴の足ではたいてい、無意識に足のやや外側で立つようにすることで親指が地面に押し付けられることを回避しています。ところが、相性のとても悪い靴があります。それはスキー靴や登山靴のような、足首から先をしっかりと固定されるような靴で、それらを履いた場合には、親指の付け根に逃げ場が無くなり、痛みが出てくるのです。
日本人はO脚気味の人が多いため、先ほどの無意識に足のやや外側で立つということが自然と行える人が多いのですが、中にはX脚気味、偏平足という人もいます。その場合は親指を浮かせるような立ち方をすることが困難なため、普段から痛みがあり、裸足でフローリングに立っていても痛くなります。このタイプの場合、病院でも原因が分からないと相談にいらっしゃった際、親指の位置を他の4本の指よりも下の位置にいられるようにしてあげることで痛みがなくなる場合が殆どです。インソールでそのような処置を行うことが最も有効であるといえます。
靴が原因で足の親指の付け根が痛い場合の対処法
■履き口のラインと骨格との相性が悪い靴親指付け根の骨の上を通過するパンプスの履き口
今までに、似たデザインのパンプスを履いても痛くなったことがないのに、新しい靴で痛みが出ると、外反母趾になってきたのではないかと心配して相談に来る人もいます。
似たように見えるパンプスでも、履き口のラインはデザイン毎に違います。また、木型の違いから、見た目には違うパンプスだったとしても、履いてみると履き口が同じ場所に当たってしまうということもありえます。気に入ったデザインだと、短時間の試し履きの間痛くなかったからと購入してしまい、長く履いたらやはり痛くなったということはよくある話です。この問題であれば、部分的に靴を伸ばすことでラインが変わり、痛くなくなることが多いです。
■デザインによるパーツの重なりと裏地の縫い目があたる靴
靴によっては、親指の付け根の部分にデザイン上のパーツの切り替えがあります。その部分には素材が重なって厚みが増すうえに、ミシンの縫い目も加わるため、他の部分に比べてどうしても硬くなってしまいます。これが痛みを起こす原因です。また、デザイン上のパーツの切り替えであれば外から見て想像がつくのですが、場合によっては裏地、裏革の切り替えがある場合もあります。その場合、外見からは素材の重なりがあるかどうかが分からないため、靴のせいではないと思ってしまうことも少なくありません。足の痛みがある部分を靴の裏側から触ってみて、厚くなったり、縫い目がちょうどその部分に来ていないかどうか確認してみましょう。その部分を伸ばすか、重なりをハンマーでたたいて潰すなどの対処法で痛みが消える場合があります。特殊な道具が必要なので、自分ではできないかもしれません。ほかに、揉んでほぐすという方法もあります。時間もかかるし手も疲れますが、有効な方法の一つです。
■中敷の下に問題となる構造がある靴
稀ではありますが、靴の中敷の下に、異物がある場合があります。靴の中を見てみても何も無く、薄くてもスポンジが敷いてある場合には、触ってみても分からないことがあります。シワや、糸など、こんな物がそんな問題になるの?という物が原因となって、親指付け根の裏側に痛みが出ます。その異物を、切ったり削ったりして取り除くと痛みがなくなります。カップインソールが入っている靴であれば、外してよく触ってみて下さい。中敷が張り付いている場合には、親指付け根の部分だけでもめくって、良く触ってみましょう。取り除くことができれば、すぐに痛みはなくなるはずです。原因は見つかったけれど、靴の構造に影響が出そうな場合には、靴修理店で相談してみると良いでしょう。
■ソールが薄い靴
パンプスの踵が脱げてしまいやすい人にとっては、ソールの返りがよいパンプスの方が踵が脱げにくくて良い場合があります。新品で底の返りが良いパンプスというのはあまり多くありません。ですから、長く履いて底が磨り減って薄くなった靴が、返りがよくなって踵が脱げにくい、履きやすい靴になります。しかし、底が薄くなった靴は、アスファルトの上を歩く衝撃が直接伝わるだけでなく、小石や、わずかな段差も親指の付け根のストレスとなり、痛みが出てしまいます。修理をして底が固くなってしまうと履きにくくなることから、修理せずにはき続けてしまうことが原因で足を傷めてしまっているのです。
親指の付け根の痛みは、足が原因で痛くなることや、靴が原因となること、場合によってはその両方が合わさっていることもあります。腫れ、発赤、発熱などの炎症症状がある場合には、まず病院へ相談に行くことをおすすめします。病院の診察でも足に異常や原因が見当たらない場合は、炎症症状があっても靴による痛みである可能性はあります。痛みが強くなる状況や、痛みが出なくなる状況など、痛みをよく観察してみましょう。この記事が痛みの原因発見と適切な対処のヒントになれば幸いです。
<参考文献>
1)伊藤隆著 解剖学講義 南山堂 1983
2)Rバウムガルトナー等編著 足と靴その整形外科的処置法 フスウントシューインスティテュート 1999
3)Michael O.Seibel著 Foot Function ダイナゲイト株式会社 1996
4)ハリーFランバック著 ザ・フット・ブック 有限会社ブックハウス・エイチディ 1982
5)Carol A.Oatis オーチスのキネシオロジー身体運動の力学と病態力学 有限会社ラウンドフラット 2012
【関連記事】