【トリトン役・芝清道さんインタビュー】
海の王としての“外面”と、娘を思い慌てている父の“内面”の対比を鮮やかに、と心がけています
- トリトン=海の世界の王。妻が人間に殺されたと思い、彼らを憎んでいる。娘たちを愛しているが、人間の世界に憧れるアリエルに激怒し、彼女の宝物を壊してしまう。
芝清道 86年に『エクウス』で初舞台を踏み、『キャッツ』ラム・タム・タガー『エビータ』チェ『オペラ座の怪人』怪人『ノートルダムの鐘』フロロー『ミュージカル李香蘭』王玉林『ジーザス・クライスト=スーパースター』ユダ等を演じている。(C)Marino Matsushima
「原作であるアンデルセンの『人魚姫』に対しては、ちょっと寂しい印象があったんですよ。でも実際にアニメーション版を観てみたら、ヒロインは自分の世界を持っているし、“思いがあれば、一生懸命やれば夢はかなう”という、実にわくわくする物語でした。落ち込んだ気分の人が観た時に“私は変われるんだ”と信じることができる、希望をプレゼントできる作品なんだとイメージが変わりましたね。
『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:荒井健
個人的には、特にふだん(大きくなった)子供と離れて暮らすお父さん、お母さんに御覧いただいて、ほろりとしていただきたいですね。郷里に帰って友人たちが“(思春期の)娘が、口もきいてくれん”と嘆いていると、僕は“それなら『リトルマーメイド』を親子で観においでよ。家族の絆が改めて再確認できるし、“お父さん有難う”って、娘さんが思うかもしれんばい(笑)”と言っているんです」
――トリトンを演じるにあたって、一番大切にしていらっしゃることは?
「権威ある王様の包容力、厳しさといった“外面”の部分と、娘を思う父の“内面”が対比してあらわれるように、ということですね」
――芝さんは日本版のオリジナル・キャストですが、他演目を経て、久々のトリトンです。
『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:下坂敦俊
僕は(人生を)泳いでいるうちにいろいろと洗練されていくタイプですが、いろいろな経験を経て今回またトリトンに戻ってきて、気づいたことがたくさんあります。開幕時のキャラクター研究を踏まえつつ、今は気負いすぎず、もっとフラットに自分を解放しよう、作品世界にふっと存在して、その中で感じられたらと思いながら演じています」
――さきほど拝見した舞台では、アリエルの大事なコレクションを壊すに至るくだりを拝見していて、トリトンの“怒り”の厚みがさらに増したように感じました。
「芝居は相手とのキャッチボールなので、アリエルからちょっと強く口答えをされると、なんとかわかってもらおうと、こちらもより強い怒りが出てくるんです。アリエルが夢中になっている“人間”は、肉親の敵であって、絶対に許せない、許せば破滅が待っているとトリトンは信じているんですね。怒りもあるし、絶対に止めなければいけないという思いもあります。
演出家からは、あそこで爆発した後に、“ちょっとやり過ぎたかな、でも今はこれが必要なんだ”という表情を去り際に一瞬見せて、と言われていました。娘を心配する良い父親ではあるけれど、(宝物を)壊したのはまずかった。これがもとで親娘のボタンの掛け違いが始まって、アースラがすっとアリエルの心の隙間に入っていくことがよくわかるように……と。物語が悲劇的な方向に転じて最後にまた戻ってくるためには、あそこは強く怒りを出すことが必要だと思っています。普通(の怒り)だと、アースラのもとに行くきっかけにはなりませんので」
『リトルマーメイド』(C)Disney 撮影:荒井健
「もちろん昔からの仲間が観に来てくれるし、休演日は久留米の実家でご飯を食べたりもできるので、リラックスできますね。福岡のお客さんは総じて明るいです。『キャッツ』をやっていると客席から方言が聞こえてきて、そういう面でも“ホーム”だと感じましたね」
――福岡でお勧めの体験を一つ挙げるとすれば?
「福岡では、やっぱり食べ物がおいしいとですよ(笑)。ラーメンも有名だけど、福岡に来たら、うどんを食べてください。だしがいいんですよ。うどんマップが作られていて、下手するとラーメン屋さんよりうどん屋さんのほうが多いんじゃないかというほど、隠れた“うどん県”なんです。ぜひうどんを食べに来てください!」
*次ページでセバスチャン、スカットル役・荒川務さんインタビューをお送りします!