2月7日~28日=日生劇場、3月5~20日=梅田芸術劇場メインホール、3月24日~4月1日=博多座
『ブロードウェイと銃弾』
【見どころ】
アメリカの人気映画作家ウディ・アレンの94年の同名映画を舞台化し、14年にブロードウェイで初演。20年代のNYを舞台に、売れない劇作家とギャングの部下の騒動を描いたミュージカル・コメディが、福田雄一さん演出、浦井健治さん&城田優さん主演で日本初上陸を果たします。
異なるユーモア・センスを持つウディ・アレンと福田さん、二人の持ち味が本作で、どんな化学変化を見せるのか。物語性と茶目っ気溢れるスーザン・ストローマンのオリジナル振付、凸凹コンビを阿吽の呼吸で演じる浦井さん&城田さん、そして平野綾さんに保坂知寿さん、前田美波里さんら実力派揃いの共演陣……と、注目要素がいくつも重なる舞台です。
【観劇レポート】
ゴージャス&スタイリッシュなステージに
“人生のおかしみ”が滲む大人の王道ミュージカル
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
男たちがマシンガンをぶっぱなし、踊り子たちは後ろを向いてお尻を突き出す。二股恋愛から殺人まで、インモラルな要素のオンパレードなのに、この上なくゴージャスにして笑いが絶えず、なんとも憎めない舞台が誕生しました。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
華やかな序曲が鳴り響き、長身のギャング(城田優さん)が幕に向かってマシンガンを向けると、銃声とともに“Bullets Over Broadway”のタイトルが浮かび上がる。幕が上がるとそこはギャングのボス、ニック(ブラザートムさん)が所有するクラブ。露出度の高い衣裳を纏った踊り子たちのコケティッシュなナンバーが終わると、その中の一人でニックの愛人オリーブ(平野綾さん)が“私をブロードウェイのショーに出して!”と駄々をこね、物語がスタートします。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
出資者ニックの要請で(やむなく)オリーブを起用した舞台が稽古をスタートさせるが、オリーブは大女優ヘレン(前田美波里さん)ら、共演者たちを唖然とさせるほどの“大根”役者。とはいえ彼女を降ろすわけにもいかず、作者である売れない劇作家デヴィッド(浦井健治さん)は頭をかかえる。
すると今度はオリーブの用心棒チーチ(城田さん)が“脚本をこう直したら”と口を挟みだし、デヴィッドは爆発寸前。しかし意外にもチーチの提案が的を得ていることに気づき、二人はひそかに協力して台本を書き直すことに。しかしショービズなんて“関係ない”筈のチーチはいつしか、誰よりも作品を愛し始め……。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
一つの舞台が生まれるまでのドタバタ喜劇と見えて、多くの人が理想と現実の間で“何かしらを妥協”しながら生きていることのおかしみ、そしてそこから逸脱するとどうなるかをシニカルに描いた、ウディ・アレンの脚本。この揺るぎない柱に、アレン自身が厳選したという20~30年代のヒット曲と、独創的な群舞、とりわけセクシーでありながらいやらしさの無い女性たちのダンスが魅力的なスーザン・ストローマンの振付が加わり、作品はなんとも“大人の味わい”。
さらに今回の日本初演では、演出を福田雄一さんが担当。アドリブ風の台詞や間の取り方でそこここに細かい笑いをまぶし、“今”の観客を自然に物語世界へといざないます。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
この快作に欠かせないのが、各キャラクターを生き生きと体現するキャストの面々。デヴィッド役の浦井健治さんは、次々と目の前で起きる出来事に振り回される“受け身”の役柄ながら、人懐っこいオーラで観客の心を引き寄せ(心配させ)、終始、作品の芯として存在。
チーチ役の城田優さんは長身にスーツがよく映え、クールを決め込んでいたのが“芸術”に運命を狂わされてゆく男を鮮やかに体現。オリーブの物まねなど、時折差し挟むお遊びが効き、ギャング一同が踊るナンバー「お前にゃ関係ないさ」では華麗なタップにも挑んでいます。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
そして今回、センセーショナルな演技を見せているのが、オリーブ役の平野綾さん。チーチに捨て台詞で突っ込みを入れられている通り、“アニメ声”を含む声音を駆使して“キンキン声”の大根役者を熱演。幼児のように寝っ転がって駄々をこねるなど、突き抜けた演技で愛すべきキャラクターを作り上げ、途中で舞台から姿を消すのが残念でならないほどのインパクトを残しています。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
デヴィッドの恋人エレン役の愛加あゆさんは、きっぱりとした口跡とパンチのある歌唱が当時の先進的でインテリな女の子役にぴったり。新作舞台の出演者である大女優ヘレン役の前田美波里さん、イーデン役・保坂知寿さん、ワーナー役・鈴木壮麻さんはトラブルの連続すら楽しんでしまう曲者俳優たちを、ベテランの余裕たっぷりに演じ、ギャングのボス役・ブラザートムさんも“なかなかにしたたか”なボスっぷり。
2幕の幕開け「新しい日がやってくる!」では、ソロを歌い踊る保坂さんの姿に、同じスーザン・ストローマン振付ということもあって、彼女がかつて溌溂と演じた『クレイジー・フォー・ユー』のヒロインが思い出された観客も少なくないことでしょう。また大きな役ではありませんが、稽古を進める舞台監督役を高原紳輔さんが爽やかに務め、『エドウィン・ドルードの謎』に続く福田雄一さんの抜擢にしっかり応えている様子です。
『ブロードウェイと銃弾』写真提供:東宝演劇部
ひねりの効いたストーリー、よりすぐりの音楽に華やかな振付が揃ったところに、“花も実もある”キャストだからこその、遊び心たっぷりの演技を得て、“王道ミュージカル”の風格を漂わせる舞台。早くも2018年を代表するミュージカル・コメディとなりそうな予感・大と言えましょう。